鋭い刃によって、
氷に走る亀裂

その刃は、
糸のように鋭く、可視出来ない

その亀裂は
深みを増し

氷の結晶は、割れて落ちていく

瞬間、その破片が書物を映す

それに綴られていたのは、
見たこともない
自身の記憶


過去など知っても
意味がない

そう思い、眼を閉じる

しかし、その瞼には
その記憶が焼き付いていた

その記憶では、
自分が常世国にいた

その時点で、
否定したくなる記憶

それなのに、
自分の記憶として
違和感がなく溶けてしまう

それぐらいに、この記憶は
自分自身のものだった



それは、
自分自身の信念を
否定してしまうものかと思った

でも、これこそ、
我が常世王を――否、

常世王を喰らった神を
憎む根幹だ

さて、そろそろ
国を作ろうか…♪

帰れ、橋姫

帰らないぞ、一つになろう♪
国を所望する

橋姫、
君、我の事、嫌いだろ?

何故分かった…!?

白々しい

好きではないぞ?
普通だ

………ふーん?

国を作りたいが為か

阿婆擦れも
良い所だね?

良い提案だと
思っているんだが、

毎度、毎度
酷い否定されようだな?

誰だよ、コイツ
常世王に任命した奴

最終的にお前も調印した癖に…♪

そこで、
覆したら荒れるであろう?

それで、
お前はどうして気付いたんだ?

我の周り、誰も呪われてないから
分かり易いと思うけど?

酒………酒が…欲しい…
ないと死んでしまう呪いだ…

あれ?
かけた覚えないよー

……じゃが、自慢の一品がある

治った

やったね!!

待って
それ吞みたかった奴だ!!

じゃろうじゃろう?

国を作ろうではないか…♪
幸せにするぞ?

何?
聞こえない

小さな声で、
うっすらと
もう一回言って

な、なんだってー

して、呪いとは

橋姫は好きな人が好き過ぎて、
周りに呪いかけるからねー?

これでも竜神だからな?

過激な恋……素敵かも…

毎回、どこかズレてるよね
絶対ズレてる

良く分からないが、
国を作るとは?

質問しかしない

元お役所さんだから
すぐ任せた所あるけど、

吉良は来たばかりだからね?

国って言うのは、
神様と神様の色恋で生まれるの

今の場合、
明らかに一方的な色恋だが?

……悟れないの?

今の表情で、やっと察した

なら、よし

それで、いつ作る?
今日か?明日か?

だから、
帰れって言ってんの

なぜだー?
お主はー
大好きではないかー
私のことー

いや、別に、

そして、
国は和国という名前だ

倭国と響きが同じだぞ…♪

聞け

でも、考えてもみろ

想い人との国ならば、

その国の者、全てを呪うぞ?

だろうね

その点、お前なら、心配ない

その利用されてる感が
なかったら渋々承諾したよ

三毛入野神ー、好きだ―
使ってる感ー?ナイナイー

ふざけるのも
大概にしろ

良く分からないけど、
なんかすごい神様っぽい名前出た

それが嫌だから、
名前教えてなかったんだけど
サラッとさらしたよね

――何故、国を欲しがる?

もう私は弱っているからな

死ぬ前に
国ぐらい作っておきたいのだ♪

その国「ぐらい」に
巻き込まれる身にもなれ

………そうだな

そうだよ

それに君は、祟り神

そんな神が、
国なんて作るべきじゃない

――言うたな?

そうだよ

君が、産む国で
君が幸せになれる訳ない

――あい、分かった

大丈夫かえ?

冗談に見せかけて、少し、
呪ってしまった☆

まあ、問題ないない

ほんに、馬鹿よのぉ…?

眼々、国を作りたい

祟り神と絡新婦など
ただの混沌とした国になるえ?

国も、者も、みんな混沌とするな…♪

しかし、雨は止むのだ

そこに住まう者が、
その混沌を破ってくれれば問題ない

勝手よのぉ

それが、見たい

どんな過酷であっても、
運命など関係ないのだと知りたい

私の夢は、
愛しい者と国を作ること――だった

神が眷属に、許可なんて
求めなくて良いのではなくって

これから、その国を君に任せるのに
そんなこと言ってられないってー

常世王がいなくなった
常世国はどうするん?

私は祟り神だぞ…?
ざまぁみろ、とでも言ってやろう

あ、地獄で拾った奴がおるんよ

賭け事でもしてみたいと
思ってなぁ♪

どんなの?

地獄で、観音が救った機会に
自分だけが助かろうとした
愚か者よ

クズ拾ったのか?

のぅ、そんなのが
他の為に動くと思うかえ?

その混沌な国で?

妾は、それが一番見てみたいものよ

よかろう。
この際、酷く、難しい世界を
作ってやろう

この国々には
狂った秩序を授けよう

彼らが、混沌から抜け出せれば
――この国、全てお前らに委ねる

まるで、呪いのようなことを…

ような、じゃなく、呪い
最後の悪足掻きだ


――愛を、作りたかった神の、
呪いと、祝いだ

――その翌日、
橋姫は姿を消した

祟り神が産んだ国

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