氷が、鋭い刃によって割れる

その刃は、
糸のように鋭く、可視出来ない

巫女は眼を見開き、
周りを見渡す

王は笑みを絶やさず、
ただ扇を構えて、


武人は、眉を顰め、
後ろを振り返り――

如月氷芳

先程から、
様子が可笑しいがどうした?

如月氷芳

――紫蝶

紫蝶

あら、分かってしまうのですね

如月氷芳

そこの、
小さい面の者たちか、
お前の二択なら誰でも気付くぞ?

紫蝶

まあ、そうですね

紫蝶

――では、

紫蝶

天命が下りました

如月氷芳

完全に様子が可笑しいが、
どうした?

茶化すな

如月氷芳

これでも真面目だが

紫蝶

ただいま、
天命が下ったのです

紫蝶

貴方達は不要、排除と。

必要とされたから
生まれたわけではないの

紫蝶

いいえ。
和国も、常世国も、
必要とされた者しか
生み出されておりませんわ

甘藤杏子

で、でも、別に…

紫蝶

ええ、
不要になれば、破棄し、
魂だけ再利用いたします

甘藤杏子

話を聞いて

紫蝶

……。

甘藤、
これは神の遣いだから、
僕よりも話しても
無駄な相手だよ

如月氷芳

自覚はあったんだな

あるよ

紫蝶

貴方達は
眼々様により、
和国の英雄役を
与えられているのですが、

いささか効率が
悪いとのことで

如月氷芳

効率とは、まるで道具だな

紫蝶

存在意義がある
という事は、

道具と同義ですわ

紫蝶

貴方達の存在意義は、
常世王を倒すこと

紫蝶

しかし、
常世王を倒す以上も
目的が根付いている
英雄ばかりでは

――役に立ちません

紫蝶

もっとも、
その様な感情も奪うのが、
和国の神の役割ではありましたが

紫蝶

彼はそれさえも
放棄しました

紫蝶

果ては
現在の常世王の記憶さえも
燃やしておりませんでして

常世王の記憶?

全部が全部、
その和国の神を使ってる
神が統括してるのか?

紫蝶

そうですよ?

では、殺すべきは
常世王でなく、それだ

如月氷芳

すぐ順応したな

敵が変わっただけで
目的は変わらないから

甘藤杏子

正気?

紫蝶

いえ、狂気ではあります。

紫蝶

しかし、私も、
十三姉妹と自分自身の命が
かかっております故

如月氷芳

自分で救おうとは思わないのか?

紫蝶

それは強く、
縛られていない者の意見です

如月氷芳

いや、紫蝶は強いぞ?

如月氷芳

治癒能力考えなければ、
甘藤3人ほどの――

甘藤杏子

その計算やめて

如月氷芳

ならば、王様2人ほどの――

その計算もやめろ?

如月氷芳

しまった…!
これは窮地だ…!

言うけど、孤立無援だから
加力しないから

甘藤杏子

治癒しないから

紫蝶

あらあら、
随分と余裕ですね…?

如月氷芳

いや、相性が悪い人と
対峙しているとは思っている

如月氷芳

だから、
話し合いで
どうこうしようと
思った!!

甘藤杏子

さらっと何か言ったね

多分、まだ余力あるんだよ

紫蝶

――貴方、戯れも大概ですのよ?

紫蝶

私も、つい、

常世王の記憶を
消し忘れておりましたので

紫蝶は、
柔らかに手を差し出す

紫蝶

私は、過去を燃やして
それを糧とする

紫蝶

さて、今からは
それなりに
本気を出しましょうか…♪

そして、彼女は握った手は
花が咲くように開く

――刹那、枝を割るような歪な音が響く

ほの暗く激しい炎は

ねっとりと
社に這いより、
喰らうように侵食していく

甘藤杏子

……社が、

何をやってる!?逃げろ馬鹿!!

甘藤杏子

止めなさい!馬鹿!燃えてるのよ!!

社は燃やしても直るが、お前は治らないだろう!?

――社が、堕ちた


社を燃やし尽くし、
落ちていく断絶魔が、

鼓膜と心臓を抉り尽くす

――大きな振動、そして熱

甘藤杏子

―――な、に――ま、た……?

良い?

今、何も起こってない
これは幻覚だ、これは幻覚だ

甘藤杏子

ちがう、私が幻覚分からない訳…

君が頼りなんだ
お願い落ち着いて

甘藤がこれ以上錯乱すると、
全滅だからね

ちょっと任せるよ

死んだら
甘藤殺して
我も死ぬ

頑張って☆

如月氷芳

――良いだろう

紫蝶

狂気の笑顔、素敵でしてよ

紫蝶

揺れる、業火絢乱――
触れれば、落ちる命の禍

轟々と、隆々と
火柱が地面から現れ、

彼女を囲っていく

如月氷芳

炎と氷なんて、
勝敗は見えている

時間稼ぎが良い所――か

如月氷芳

だが、死ぬなとは
実に、面倒な王だな…?

道具と同義

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