勇者と魔王の呪転生


第5話




   













 やはり俺は魔王に転生した。


勇者との決戦前に、転生前の記憶が甦るとはな……

 

 この世界は、これまで転生してきた世界の中で一番混沌としていた。

 人間界と魔界という区別すらない。
 様々な種族が領土を奪い合う、戦乱の世界。

 魔物も一括りにされず、種族毎に国を持っていた。人間も種族の一つに過ぎない。


 俺は魔王イードとして、次々と魔物を配下に置き、統一。残るは人間の国だけとなった。


 人間の国最後の抵抗。勇者を名乗る者がこの城に向かっている。それがこの世界の現状だ。



ぎゃぎゃぎゃ! 勇者が来ますなぁイード様!

 
 魔界四天王の一人、スマス。魚人族の長だ。

 俺の最初の配下であり、戦友。
 昔、長を失い内乱寸前だった魚人族の国を救い、スマスが長に着く手助けをした。

 以来、彼は俺に忠誠を誓っている。

ついに勇者と決戦かぁ。オレ、死にたくないっすからね

エルオーンは相変わらずですなぁ

ふん。先代族長が言ってたんだ、死んだら消えちまうだけでなにも残らないって。
だからやばくなったら逃げるっすよ

 
 彼も四天王の一人。獣人族の長エルオーン。

 素早い動きで相手を翻弄して仕留める狩人だ。

 エルオーンと出会った時、彼の里は人間の魔法使いに包囲され、籠城をしていた。
 俺は包囲を外から崩し、反撃のチャンスを作り、エルオーンは見事魔法使いを撃退した。

 それからずっと、共闘を続けている。


 口癖のように死にたくないと言っているが、彼が実際に逃げ出すところを見た者はいない。

死ねば消えるがこの世の理。
だが我々は死なん。勇者など、このリュウガがカタナの錆にしてくれるわっ!

 
 四天王、龍人族の長リュウガ。

 俺は彼の強さに惚れ込み、是非配下に加えたく、戦いを挑んだ。
 勝負は長時間に及んだが、結果引き分け。

 暇さえあれば勝負の続きをしているが、今のところ63勝63敗1引き分け。勝負はまだついていない。

みなさん、油断しないでください。勇者たちは最強のパーティで私たちに挑んでくるはずです

 
 そして、四天王最後の一人。サローナ。

サローナ、本当によかったのか。

……俺たち、魔族側に付いて

 
 彼女は……人間なのだ。

 それでも魔物と共に人間と戦い、四天王にまで上り詰めた。

イード……様。今さら、そんなことを聞くなんて。私は悲しいです。

私の心はすでに魔物。

あなたは人間に襲われていた私を救ってくれた。その時に、人間を捨て魔物になると決めたんですから

……そうだったな。すまない

 
 いつもの俺ならば、そんなことは聞かなかっただろう。

 しかし、転生前のすべての記憶が甦ってしまった今、聞かずにはいられなかったのだ。

ぎゃっぎゃ。イード様は野暮っすなぁ

スマスの旦那の言う通りだ。サローナは他の魔物たちも認めてるんだぜ

はっはっは! 愛する者の心もわからぬのか? イードよ

い、いや、決戦前で、ついな

リュウガさん! そ、その、私たちは……


 サローナが頬を赤くする。

 人間にして四天王、サローナは……俺の恋人でもあった。


 人間と魔物の愛など、認められるはずがない。
 そう思っていたのだが……。

今さら隠してどうするんです? お似合いですぜ

そーだそーだ。二人の仲だって、みーんな認めてるんだ

うむ。サローナほどの気高き武人、認めぬ魔物はおらんよ

みんな……

 
 配下の魔物、すべてが俺たちを祝福してくれている。

 俺とサローナは顔を見合わせて、笑い合う。

よし。勇者との最終決戦。この戦いに勝てば、ついに世界統一だ!

その時こそ、俺はサローナと結ばれよう!

イ、イード……

 
 ぐいっとサローナの肩を引き寄せ、仲間に宣言した。

いいか! 全員死ぬな! 生きて勝利するぞ!

 







 勇者は四人のパーティだった。

 対する魔王イードは五人。勇者と同じように、四天王と共に戦った。



 結果は……魔王の圧勝。誰も死ぬことなく、勇者に勝利したのだ。


 


 しかし勇者のパーティの中に、呪術者がいた。

 呪術者は死の間際に、魔王たちに呪いを放った。

 魔王たちにはまったく効果の無い呪いであったが、唯一人間だったサローナは、呪いにかかってしまった。



 それは命を削る呪い。



 決戦の後、サローナはみるみる弱っていった。



 




……俺はサローナと共に、呪いを解く方法を探す。スマス、エルオーン、リュウガ。国を任せるぞ

 


 魔王イードはそう言い残し、二人で旅に出てしまう。




 そしてその後、二人の姿を見た者はいなかった。



 





 ……歴史には、そう記されているだろう。


 それもそのはず。二人の旅は、呆気なく終わってしまったのだから。



 サローナの衰弱が思った以上に早く、すぐに動けなくなる。

 まだ解呪の手がかりすら掴めていなかったのに。

 彼女の命は尽きようとしていた。


生まれ変わったら……また、会えるわ……

 


 それがサローナの最後の言葉だった。





 魔王イードは自分の無力さを嘆き、失意の末、サローナの後を追って自ら命を絶った。

 





 サローナの呪いは、解くことができなかった。




 しかし、この魂の呪いを解く方法は、わかったかもしれない。

   










続く

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