勇者と魔王の呪転生


第4話




   













 勇者ジーン。二度目の勇者。

 この時の俺は、正真正銘、古の勇者の末裔だった。


 復活した魔王を倒すため、仲間を集めて魔王討伐の旅に出た。


 冒険は過酷だったが、仲間たちのおかげで乗り越えることができた。


 勇者リードの時と似ているなと思ったが、まさか魔王と一騎打ちになるのまで同じとは思わなかった。



 





 


……はーっはっはっは!
勝負あったな、勇者ジーン!

ぐっ……

 
 魔王ガリュウの斬撃に、俺は膝を突いてしまう。
 肩から胸にかけて斬られていた。

 しかし――。

がはっ!

 
 魔王が多量の血を吐き出す。

 魔王の胸には、俺の剣が深々と突き刺さっていた。


 また相打ち――。


 いや、どうやら今度は死なずに済みそうだ。俺の受けた傷は死に至らない。


ぐ……このガリュウを倒す……とはな

ガリュウ……

ふっ……だがっ! オレは魔王である! ただではやられんぞ?

貴様が受けた最後の剣は……呪いの一太刀

呪い……だと?

その傷が癒えることは決して無い。貴様が死ぬまで残る呪いよ

 


 傷が治らない?



 確かに死ぬほどの傷ではないが、治らないとなれば話が別だ。


勇者ジーンよ。武人として、最後に素晴らしい戦いができた。礼を言う

……あぁ

オレは今度こそ完全に死ぬ。復活もできん。

……先に、逝っているぞ。死後の世界にて、また戦おう

 

 ガリュウの身体が崩れ去る。


 魔王の剣が、ガランと音を立てて落ちた。



魔王ガリュウ。俺も、あなたのような魔王と戦えたこと、誇りに思う

 


 今の言葉は、ジーンとしてではなく、ジードとしてだったのかもしれない。

 











 






ジーン……どうして、こんなことに……

母さん……

 


 仲間に助けられた俺は国に帰り、すぐさま治療を受けた。

 しかし胸に受けた傷が治らない。仲間のヒーラーの回復魔法も効かず、呪いは高名な僧侶でも解呪できなかった。



 どうやらここまでのようだ。


 フィーナ母さんに看取られて、俺は最期を迎えようとしていた。



俺は、使命を果たしたよ。だから……泣かないでくれ

 

 しかし母さんは首を横に振る。

勇者の使命よりも……私はあなたに生きていて欲しかった

か……母さん……

 

 仕方ないよ、母さん。

 俺は勇者だったから。

 魔王を倒し、世界を平和に導くのが、勇者なんだから。


 そうだろう? リード。



ごめん……なさい

 


 しかし最期に出たのは、謝罪の言葉と涙だった。

 













 







 当然のことながら、ガリュウとの約束は守れなかった。

 死後の世界に行くことはなく、異世界に転生されたからだ。


 魂の呪いはまだ続いていた。




 


ゲイン! この城はもう落ちるな!

そうだなオルネイト! 最後は派手に行くぞ!

 

 魔王ゲイン。共に戦ってきたオルネイトと共に、勇者と戦っていた。

 今回は一騎打ちではない。勇者も四人パーティだ。


 しかし四対二。完全に俺たちの劣勢だった。

俺たち二人なら、勇者にも勝てる。そう思っていたんだがな

あたしだってそうさ。いつだって、最強だったんだからな

 

 魔王ゲインは今までの魔王と少し違う。

 魔族最強の女戦士、オルネイトが常に側にいた。
 二人合わせて魔王、などと言われることもあった。


 ……が、悪い気はしなかった。


 勇者の時も、魔王の時も。最後の戦いは、いつも一人だった。

 背中を預けられる戦友がいる、それがこんなにも心強いとは。


 もっとも、それは勇者も同じだろう。
 仲間を信じ、戦ってきたからこそ。四人は魔王を追い詰めた。

 俺とオルネイトの最強コンビを倒そうとしているのだ。



これでトドメだ!

くっ……

   

させるかぁ!

 



 勇者の渾身の攻撃が――オルネイトに突き刺さった。




なっ、バカヤロウ! 何故俺を庇った!

へへ……なんでだろうな。つい、身体が動いちまった

ふざけるなよ、死ぬときは一緒だと、誓っただろう!

すまねぇ……先に、逝く

 


くっ……。おのれ……おのれ勇者あぁぁぁ!

 


 俺は怒りに任せて一人で勇者たちと戦ったが、結局敗れ、オルネイトの後を追うことになった。

 













 







 転生。もちろん勇者だった。

 しかし今度の勇者も今までと違った。


 名前は勇者リイト。彼は多くの仲間を集め、兵団を作り魔王城に攻め入った。

 魔王討伐軍。勇者はその指揮官であり、最高戦力でもあった。

リイト! ラグーンのオッサンがやってくれたぜ!
第三部隊が魔王城の裏から侵入、第二部隊との挟み撃ちに成功した!
階下の魔物はあらかた倒したそうだぞ!

そうか。作戦が上手く行ったな

次は俺の第一部隊が突入だな! お前を魔王の元へ連れてってやるぜ!

ああ。頼むぞ、ガズボルト

 
 俺は剣を持ち、進軍の準備をする。


 作戦は順調だ。ガズボルト第一部隊の先導があれば、一気に魔王の間まで辿り着けるだろう。


 魔王との最終決戦。気がかりがあるとすれば……。

お兄ちゃん、いよいよだね

アイ……

 
 杖を握りしめる、妹のアイ。

 彼女は魔法使いとして、俺と共に戦ってきた最初の仲間でもある。

お前はここに残れ

やだ。わたしもお兄ちゃんと一緒に行くよ

アイ……。しかし、危険だ。魔王の魔法の力は計り知れない。
第四部隊と一緒に、本拠地に結界を張っていてくれ

いーや。わたしも絶対、一緒に行くから!
お兄ちゃん、わたしが守らないと……無茶するもん

しないさ。俺は……勇者だから

勇者だから無理するんでしょ!
今までだってそうだったじゃない! 私の魔法が無かったら、命がいくつあっても足りなかったよ?

それを言われると辛いが……

でしょ? ……いい? お兄ちゃん。死んだら意味ないんだからね? 魔王を倒すことよりも、生き残ることを優先してよ?

しかし……

しかしじゃないの! どんなにかっこ悪くてもいいから、生きて帰る! お母さんと約束したでしょ?

アイ、それは

 

 いつか戦った、勇者のことを思い出す。

 そしてあの時の彼の気持ちが、少しわかった気がした。

しゃあねーよリイト。ここまで言われたら、アイちゃんを連れてくしかないって

ガズボルトっ!

安心しろって。俺がお前とアイちゃんを絶対守ってやるからよ。

……いざとなったら、ラグーンのオッサンの転送魔法で逃がす。それでいいだろ?

 
 最後はアイに聞こえないように、俺にだけ耳打ちするガズボルト。

 ……さすがだな、戦友。

わかった。だが、お前も死ぬなよ。ガズボルト

ったりめーだ

 




 この戦いで、俺たち勇者軍は魔王に勝利する。

 それも、全員が生き残る完全勝利だ。


 俺はこの転生で初めて、魔王との戦いから生きて帰ることができた。

 





 だが直後、病に倒れ、俺は仲間の誰よりも先に死ぬことになった。


 



 それでも呪いは終わらない。
 勇者の次は、魔王に転生だ……。

   










続く

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