無線 「高柳準の射殺命令、本部から下りました」

早朝の森林に通信のノイズが響く。
何人もの武装した警察官達が猛獣が潜伏する森に分け入っていく。

そのころ高柳は自分の最後になるであろう場所にこの森を選んだ。

理由は3つ。

狩人とのゲームを楽しむため。
自分の死に姿を見られないようにするため。
何より、自分を縛ってきた人間社会の中での死を受け入れることなど到底できなかったからである。

「さぁ、来るなら来い」

目についた警官に向かって高柳は走り出した。

ついに始まっちまったか

佐々木は事件を捜査する中、そう呟く。

高柳の射殺命令が出た時点で、佐々木は高柳を逮捕するという任を終え、別の事件の担当となっていた。

・・・

本当なら法の裁きで奴、高柳を裁きたい。このような獣を狩る方法で終わらせたくない、佐々木はそんな心境にあった。

高柳の射殺命令が出る数か月前の出来事。

佐々木さん本当に意世話になりました

もう世話になるなよ、まぁ心機一転。いい経験になったんじゃないか

大島直哉、受験のストレスから窃盗を繰り返していた。

大島は佐々木の「何度だってやり直せる」をテーマにした指導を受け、再び人間社会に戻る決意をした。

佐々木は罪を犯してしまった若者の更生にも人一倍の熱意を持っていた。

俺あなたのことは一生忘れません。頑張りますから、応援よろしくです。

何かあったらまた面倒見てやるから、そのつもりで

もうこりごりです。

「何度でもやり直せる」
最後にお決まりだった合言葉を大島に送り、彼の新しい旅立ちを見送った。

しかし、直哉はあの獣に殺されてしまった。

直哉の悪行のにおいを嗅ぎつけた人を捨てた猛獣は無慈悲に彼の未来を奪ったのである。

復讐してやりたいと思ったこともあったが、自分はそんな奴と同類になることを拒んだ。
刑事として人間として人の裁きを下してやることこそ、せめてもの直哉への手向けであろうと考えたから。

何をやってんだ俺

人間の未来を奪った獣に人として裁きを下す。

虚しく未来を消されてしまった教え子。
その決意を果たせないまま事件が結末を迎えてしまうことに、今は唇を噛みしめることしかできなかった。

目の前がぼんやりする。
ここで死ぬのか、これが自分の最期なのか。

口から変な笑いがこぼれた。
ケラケラと自分を嗤う自分の笑い声。

撃たれて熱いと感じていた場所も既に冷め始めていた。

まだまだ終わりたくない、まだ足りない。
そんな思いがこみ上げる。

意識が朦朧として、目の前が暗くなってくる。

体から力が抜けてもう疲れたと思った時、足音が聞こえた。

?「君が例の殺人鬼だね、やっと出会えたよ」

?「こんなところで君を終わらせない。私が君をもう一度楽しませてあげる」

何者かの言葉。
「もう一度楽しむ」それを聞いて安心したのか、俺は意識を手放した。

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