時は少し戻って、帰り道の続き。
俺は突然の麗花の発言に驚いた。
はぁっ!?デートに誘う!?
時は少し戻って、帰り道の続き。
俺は突然の麗花の発言に驚いた。
そうだ。今週の日曜日、碧をデートに誘え
デートって!俺を犯罪者にしたいのか!?
そんなことはない。…それに忘れるな、君は今小学生だ。つまり、犯罪ではない
そうだけどっ…
まぁまぁ落ち着け。ちゃんと僕に考えがあるんんだ。君はただ僕の指示に従えばいい
僕の見立てが正しければ彼女は……。
本当、小学生は純粋だよなぁ…
…は?
こっちの話だ。いいかくれぐれも手は出すなよ
だっ…出すわけねぇだろ!!
そんなわけで約束の日曜日。
俺たちは土手を散歩していた。
そりゃ小学生がデートっつっても限られてくるよなぁ
しかしよく考えてみれば、このデートが俺の人生初デートとなるわけだ。
完全にアウトじゃねぇかよ……
…何か言った?
えっ、ううん!何も……
そしてまた無言の時間が続く。
土手を訪れたはいいものの、何を話していいか分からない。
俺は少し距離を取り後ろを歩く人に視線をやる。その人は何か書かれたスケッチブックを手にしていた。
適当に会話しろ
――その人とは麗花だ。
これからデートの最中は、麗花が碧にバレないよう通行人に扮したり、どこかへ隠れたりしてスケッチブックを使い指示を出していくので、俺はそれに従わなければならない。
…割と碧が気付きそうな感じがするのだが、まぁ大丈夫…なのかな?
適当にってなんだよ!
麗花は親指を立てると俺らを追い抜かし、先を歩いていった。後ろばかり歩いて碧に怪しまれないように、適度に距離をとっていく考えだろう。
ねぇ、桜子ちゃん
ん。何かな?
俺が何を話せばいいか悩んでいると、碧の方から話しかけてくれた。
あのぅ…どうして今日、デート、に誘ってくれたのかなって……
『デート』のところだけ声が少し小さかった。
このくらいの歳だと、やっぱりそういう言葉を言うのは少し照れがあるのだろうか。
あ、えっとね~、それは…
麗花の話のよると、デートをしていい雰囲気になったところで、例の『転生』に関する本について聞き出すのが作戦らしいが……。
そんなにうまくいくのだろうか。第一に、俺一応は見た目女子小学生なわけだし……。
作戦について話すわけにもいかないし、何か適当に言い訳しないと…。
えっと、あの時デートとは言ったけど、ただ碧ちゃんと一緒に遊びたくて!ほら、こないだ誘った時、ダメだったし……。
なんとなく普通に誘うのもつまらないからデートって言っただけだよ~
あぁ…そうだったんだ
あっ、わたしたち女の子同士だもんね、デートとか言うと変だったよね!
それは変じゃないよ!
え、あ、そうだよね~
ところで…麗花ちゃんは誘わなかったの?いつも一緒だけど…
あーっとアイツは…きょ、今日はダメだってさ
……そっか。誘ってダメだったんだ…
碧はどこか落ち込んでいるようにも見えた。麗花とも遊びたかったのだろうか。
しかし、いつまでも散歩ってわけにいかねぇし何するか……。あ、そうだ
俺はとある遊びを思いついた。
碧ちゃん!こっちおいで!
――わっ…と
俺は碧の手を引き、土手の斜面を下る。
そこには川が流れていた。
碧ちゃん。水切りって知ってる?
水切り……?ううん知らない
水切りっていうのはね――
俺は河川敷に落ちている小石を適当に拾い、それを手首のスナップを利かせ回転をかけるようにして川へむかい投げた。
小石は川の水面を跳ねるようにして遠くへと飛ばされ、やがて勢いを失い沈んでいった。
――こういうの!こうやって水面を石で跳ねさせる遊び!
どっちが遠くまで飛ばせるか競ったりもするんだよ
へ~すごい…!わたし初めて知ったわ。桜子ちゃんは上手だね、あんなに遠くへ飛ばせるんだもん!
まぁな~。昔、よくこれで遊んでたもんだからよ
そうなんだ…!
ほら、碧ちゃんもやってみて。やってみると意外と面白いから
うん、やってみる
俺は足下に転がっていた小石を拾い、碧に手渡した。
碧は緊張した面持ちでそれを受け取り、不格好な構えをとる。
そして川へ向かって石を投げた。
――えいっ
しかし、碧の投げた石は一度も跳ねずにただ川の中へ落ちただけだった。
んー…難しい
回転が足りないんだよ。ほらこうやって
俺は碧の手首を掴み、動きを教える。
こんな感じで動かすとうまくいくかも
な……なるほど…
なんだか休日親子で遊びに来たみたいだ。きっと自分に子供が出来たらこんな感じなんだろうな。
今みたいな感じでやってみ?
…うん!
碧は石を拾い、川へ狙いを付け投げた。
石は二回飛び跳ね、川の中へ沈んでいった。
――あ!できた!
やったな!碧!!
碧も飛び跳ねて喜ぶ。そんな様子が見れて、俺も嬉しかった。
桜子ちゃんの教え方が上手なおかげだよ
いや~それほどでも~
――あ、見て。あっちの人もすごいね!
碧が指した方を向くと、変装した麗花が水切りをしていた。
麗花が投げた石は、俺と同じくらい――いや、俺よりも遠くへと跳ねていった。
麗花は俺へ視線を向けるとニヤリと自慢げに笑んだ。
おい、何普通にお前も水切りしてるんだよ!
いやそれよりもアイツ…なかなかやるじゃねぇか……!
水切りが上手な人ってたくさんいるんだなぁ
俺だって本気出せばもっと出来るんだかんな!!
桜子ちゃん!?
やれるものならやってみろ、僕に敵うとは思えないがな
受けて立つ!
あ、あのぅ……
…………
ふふ。楽しそう
こうして俺たちの戦いはしばらく続いた。