12年前

俺、高柳準(たかやなぎ じゅん)の日常は勉強だった。
開けても暮れても学校と塾の毎日。
親は俺に勉強だけをさせた。ゆえに友人も恋人もいなかった。

唯一の癒しは俺が可愛がっていた猫だけだった。
俺がほかの命ある存在と触れ合えるたった一つの時間だった。

猫を飼い始めてから数か月後、その猫が死んだ。

死因は交通事故だった。
なぜだか外に出てしまったらしい。

しかし、自分を変えたのはそれについて発せられた父親の言葉だった。
俺はそれを聞いてしまった

「これでやっとあいつも勉強に集中できるな。猫を捕まえるのには苦労したよ。道路にさえ出してしまえば戻っては来られないからなぁ」

親が猫を殺した。

その時自分の中で何かが変わった。
目的のためなら命を奪ってもいい。
それが親から学んだ最後の教訓だった。

翌日

そして俺の理性の鎖を緩める言葉を教頭の言葉から聞いた。

皆成績を上げるにはどうすればいいか、それは覚えればいいんです。
覚えて先生の指導の通りにしていればそれでいいんです。
そうすればいい大学に行けます。それが学生の役目なんです。
余計なことを考えず、邪魔なことを頭から忘れなさい。

放課後、いつものように塾に行く準備をしようとしていた時。

ねぇ君暇だよね。今日の掃除当番変わってくれないかな。僕は塾で忙しいんだ。

彼の周りの生徒はそそくさと帰ってしまう。
彼は学年主席の飯島だ。自分の成績を鼻にかけて威張り散らしているやつだ。今日はその矢が自分に向いた。

優等生ばかりが集まる場所。腕っ節の強い奴はいなかったため、彼に反抗しようと檄をかける人間は一人もいなかった。

誰もが見て見ぬふりをして逃げて行った。ただ何もしないことが平和的解決策と誰もが思っていた。

「自分も塾がある」というと

君の事情は知らないよ。君がどんなに勉強しても僕には追いつけないんだから。少なくとも上の人間のために貢献しなよ、凡人

こいつは俺の人生を邪魔する存在だ。
俺の勉強を邪魔するんだ。
なら自分も自分のためにやろう、父さんのように。

幸いした。
彼と同じ塾に通っていたことを幸運と考えるべきか不幸と考えるべきか

何をニヤけているんだ。早くしてくれよ

「うん、分かったよ」そう言って席を離れた。

まったく、僕を誰だと思っているんだ

モップを握る手が震えていた。
怒りと悲しみと

興奮で。

塾の帰り道俺は飯島を呼び止めた。

そして誰も来ない細い道へ彼を連れて来た。

何のようだ凡人

「掃除頼まれたせいで塾に遅刻したんだ」切り出しはそういった。なるべく彼の怒りに油を注ぐように。慎重に。

ふざけているのか。凡人の癖にこの僕に文句をいうのか。このことは先生に抗議させてもらう。
高柳君に言いがかりをつけられて暴力を振るわれたと

「先生に言えたらね」

どういうことだ

「君は俺の勉強を邪魔したんだ、ごめん」

それが俺の飯島に向けた手向けの言葉だった。

数分後、目の前には動かなくなった飯島だったものがあった。
気持ちよかった。
普段押し殺していた不満の感情、思いを存分にぶつけられたことが。

俺に許しを請う瞬間。
誰もがおそれてなしえなかったことをやったという達成感。

クセになってしまった。

僕は「尊敬」する大人の言葉に従うことにした。

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