紫蝶

昔、昔あるところに…

昔って、いつー?

紫蝶

あなたは、いつだと思うの?

うーん、20年前ぐらい!!

紫蝶

あらあら、
もうちょっとあとの事かしらね?

お姉さん詳しいね!!

じゃあ、
アルトコロって村なんて
ないよね?

甘藤杏子

いつか!いつか!
できるわよ!!

わー、必死だー

あ。

お姉ちゃんには
聞いてない

甘藤杏子

可愛くない
この子達

かわいくない…

末代まで呪ってやる

甘藤杏子

しかも、呪われた

穏やかな雰囲気を纏っていた巫女が
年相応の少女の様に

口をへの字にしたり、とがらせたり、
ころころと表情を変える

紫蝶

あら…

その表情の豊かさに
艶やかな伏目を、優しく細める

紫蝶

ふふ…変わらなく、可愛い人…♪

―――――。

で、村は
ないんだよねー?

紫蝶

そんなことないわ

一緒に地図で
確認してみましょうか

わーい、お姉さん賢い!

お姉さんかしこーい!

かしこーい!!

甘藤杏子

紫蝶さん……素敵な人…♪

如月氷芳

子どもの扱いは、
子どもより大人の方が長けているのか

甘藤杏子

ちょっと、如月氷芳

如月氷芳

如月氷芳だが?

甘藤杏子

本物?

如月氷芳

何を言っているんだ、
偽物などあるのか?

…如月……氷芳だと……!?

如月氷芳

――――。

如月氷芳

お前は何処から
湧いて出た?

お話、まだ?

紫蝶

あら、そうね

紫蝶

昔、昔――

あるところに、悪名高い領主の
御令息がいました。

その家は、御令息が齢14になると、
夜中市で従者を買うことが

習わしになっていました

紫蝶

……この、話は…?

おや、躊躇う?

これ、和国の列記とした話だけど

紫蝶

――そう、なのですね

他人事だね?

甘藤杏子

わーん様っ、

何ー?

少女の取り繕った声、
王も、わざとらしい声で呼応する

その取り繕いの表情からは、
繕っている表情だからこそ、

その裏で、憎悪を鎮めていることが
ありありと映し出される

甘藤杏子

わん様の中で、
怪しいという事実は
確定しているのよね

まだ半分ぐらい?

甘藤杏子

たまたま来た常世者を
利用してるだけな気もする。

でも、言いたいから言うね?

甘藤杏子

怪しいと分かってるのに
古傷抉るようなやり方で
確定させようとするの止めて?

怪しくば、
殺して良し

それが、我の根幹だからね?

言葉を交わしたのは
それだけ

そして、少女は、

一瞬だけ眼の奥底を見やると
諦めを含んだ微笑みを浮かべる

甘藤杏子

そう。

話しても、
平行線だと思ったから
此処で話終わるよ

君のそういう賢いところ、
大嫌いだったけど

自分の身になると、
有り難いね♪

取り繕った笑顔から
解放された二人は、

お互いに小さく溜息を吐く

悪党でも全員救うとか言う馬鹿と
我が死んだら大量虐殺する馬鹿を
止める為に、

何をしてでも生きる

それが、今、やるべきこと

甘藤杏子

だいたい、はぐらかして、
自分で首絞めるようなことするからね

この馬鹿王は……

そんな冷戦を
遠目で見ていた青年は

それを、見なかったことにして
紫蝶に問いかける

如月氷芳

事情は知らないが、お前は
ただの火事場泥棒の被害者だ

紫蝶

しかし、助けて頂きましたので…

如月氷芳

恩返しどころか、
嫌がらせをされている
としか見えないんだが?

紫蝶

いいえ……読ませてください…
読みたい書物ではあるので…

如月氷芳

別に、無理ならば読まなくても――

紫蝶

!!!

如月氷芳

!!!

近付いたから、思わず払う。

それに似た感覚だったのだろう


平手打ちをされた方も、した方も、

お互いに眼を見開き、
お互いに狼狽える

紫蝶

ごめんなさい。
つい、

如月氷芳

つい、で、人を叩くのは
正気ではないぞ?

紫蝶

大丈夫ですから。

如月氷芳

どう見ても、大丈夫では――

紫蝶

!!!

如月氷芳

!!!

また、反射的、なのだろう。

女性は、先程と同じように
狼狽えているが、

男性は、二度目の意味のない仕打ちに
妙な異常を覚えた

紫蝶

大丈夫ですか…?

如月氷芳

お前が、大丈夫か?

紫蝶

気を付けた、はずだったのに…

紫蝶

あの……
少し、離れて下さいませんか…?

そうすれば、
ちゃんと読めます故…

如月氷芳

良く分からないが、
それならば、退こう

お話、
やっとだー!!

紫蝶

ごめんなさいね?

始めて!!

あるところに、悪名高い領主の
御令息がいました。

昔、昔。忘れられない程に、昔

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