僕はあのころ、茶土町に住んでいました。そのころは、僕も今のようではなかった、ので……
学生でした。
夏休みのあの頃は夜まで図書館に居て、それから帰っていました。
図書館からの帰り道にある公園を通りかかるときに、女の子に話しかけられるようになったんです
ねえそこのおにーさん、ブランコ押して?
……僕?
そう、そこの暗いおにーさん
……その言い方は失礼だと思う
あは、そんなの良いじゃない。このあと塾とかじゃないんでしょ? むしろ帰るところっぽいし
……君こそ、なぜこんな遅くに? 親御さんが心配してるよ、きっと
いーの。それよりブランコ押してよ。私軽いよ?
はぁ。……そしたら君も家に帰るんだよ
ありがと、おにーさん
あ、おにーさん! きてきて
……君、今日もこんな遅くまで
ね、見て! 今日流星群なんだよ! いっぱい星が降ってる
……知らなかった
あ、おにーさん
今日はブランコ? ジャングルジム? 星座? 滑り台?
遊んでくれるの?
……いつも最終的には巻き込まれるから
やった、じゃ追いかけっこね?
ええ……
かず……これなんてよむの?
『すき』。
一文字一文字が『す』と『き』なんじゃなくて、『数奇』で『すき』。
名前は『とおる』
……ふーん、『すき』か
おにーさん、『すき』
ところで君の名前は?
あ! 見てよ、綺麗な三日月
……まあいいか
毎日少女は公園に居て、必ず最後には
明日もいるから来てね!
と言うのだった。