――――

お前、大丈夫か?

あ、あ、あ、あ、巡査様!!

もう気を付けますので…!
命だけは…!!ああ、あああ!!

慌てなさんな
こう己は、巡査じゃねえぜ

本当だ!!!

――えっと、失礼しました…

お前も気の毒だと思うが、
ちょっとビビり過ぎじゃねえか…?

田舎者で、
勝手が分からないものでして♪

――それで、見付かった警衛官が
アート・ライタスって最悪すぎだろ…?

そんなに有名人何ですか?

アイツは、堅物過ぎて
冷酷人形とか、怪物とか
王御用達の機械とか呼ばれてんだよ

確かに、どんな悪党も見逃さないし、
カリスマ性もある。

でも、見逃さないのと情がないのは別だ。

――そう、なんですね…。

お前、何で怒られたんだよ

私みたいな子供が、
商人をしてはいけないと怒られました

やっぱそうかよ!
あんのオートマタ野郎!!

ひっ!!

お前も、そう弱弱しくすんの止めろ!!

子供でも働かないといけない事情があって働こうとしてんだろ!?

もっと、言い返せよ!

だ、だ、だだだって、いきなり怒られて、もう、もう何がなんだか…!!

あ、ああ、うん。
そうだな、

奴は話しても聞かないしな

でも、私のために
怒ってくれてありがとうございます

どういたしまして

怒られたことなんて、
お父さん以来めったになかったので、
もう、本当にビックリしちゃいましたー

お前、稼げる人が
家族にいるじゃねぇかよ

――とうの昔に、
戦争で死んだので、
私が稼ぎ頭なんですよ

――酷い事を、言ったな

いえ、そんなことはありませんよ

ほんっとに、どうしてこんな家族思いの奴を許そうとしないんだよ!

あの朴念仁!!
堅物な寒鴉が……!!

!!!

って、言っても、お偉いさんには
俺らは叶わねぇんだよなぁ…?

なぁ、お前さん。
金はなくても、時間はあるだろう?

此処に、上手い店があるんだ。
話に付き合ってくれねぇか?

お金、ないんですよ?

――いや、それぐらい払うから

――もし、あの人が来たら――

そん時は、
俺がライタスの野郎をぶっ潰す

お前は悪い事してねぇんだから
もっと自信を持て!

――うん

やっと、敬語なくなったな

この町の空気は淀んでいる。

憤慨と、軽侮と、怨恨とが、入れ混じる
煙がかった町

――――。



その町中を這う、冷たく光る眼は

まるで怪物のそれだった

彼、アート・ライタスは
冷酷なオートマタと謳われる警衛官だ

アート

――――


彼の巡回が狂ったことは、
ただ一度としてない

3時から、3時まで


それが終わると、
王への報告の為、城へ戻るのだ

その歩行でさえ、機械。

一定の法則があるかのように、
けして早くなく、遅くもなく、


淡々と歩みを進めていくのだが、
身体の軸が一切揺れることはない。

その然自若たる態度には
犯してはならない威厳さえある

軍帽から潜める眼光は、

機敏と、鋭利と厳酷が交じり合う
神々しくもあり、禍々しいもある
異様の光で塗れている

そして、彼の首は回らないことも
オートマタと言われる所以だ。

彼は、左右のものを見る時、
上下のものを見る時、

決して、首を動かさないのだ

しかし、その眼は自在に巡る為、
首を動かさなくてもいい

彼の眼は、どんな些細な事でも全て見える




大広間の芝生で一面だけ
白くなっている様子も、



二階の窓から見える
ガス燈の光が暗くなったことも、


遠くで電燈局の
うっすらとした煙が上がるさまも、だ


 
 

その為、泰然と威厳を纏う機械は
前のみを真っ直ぐ見定め、


他意なく、懸念なく、
悠々としていた

冷酷巡査の恋末路(夜行巡査①)

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