如月氷芳

今、忙しい

おや、寝るのに忙しい?

如月氷芳

そうだ

うん、却下♪

如月氷芳

どうでも良い仕事だったら、
どうなるか覚えておけ

嗚呼、其処は心配には及ばぬ
重要案件だ

霜村で騒動が
起こる。

残り時間、半刻。場所は寺子屋。方角は艮の――

如月氷芳

支度をしてくる

物分かりが良すぎない?

もう少し抵抗して欲しかった

如月氷芳

この社には、優遇者が
3人しかいないのだから

甘藤杏子

私も付いてい――

如月氷芳

それは愚策だろう

そうだね
流石、甘藤は真っ直ぐだ

今の君は、明日の為の
体力温存が仕事だ

甘藤杏子

眠気を誘わせて、
鎮圧することぐらい――

何回言わせる気だ?

如月の言った事と重なるけど、

恩恵を得ている事が
分かっているのは、
まだこの3人しかいない

だから、明日、
君が奇跡を起こせないのは不安なんだ

まあ、今日、
我も働く気がないけどね?

如月氷芳

――王様、

なんか脅されたから、
なんか働いてきます

甘藤杏子

ああ、そう

心配したのが、馬鹿みたい

如月氷芳

騒動、毎日起こってないか?

当たり前なことを
言うね!?

桜が咲かなくなって以降、
作物が育たなくなってるんだから

如月氷芳

一週間は
善良な神を装って
おきながら、

今では何もしないな
春日神というのは

嗚呼、
それに尽きようぞ

……ただ、本当に、
あの神は騙そうと思っていたのか

如月氷芳

どういうことだ?

息を呑むように、立ち止まる。



春日神への、違和感。

舞う花弁と、咲かない桜の理由。


もし、少しでも知っているのならば
何よりも知っておきたい

あーあ、達者な口だねぇ…?

如月氷芳

……!?

刹那、足元を掬われる浮遊感

足が、宙を浮いている


不安定に乱雑に動かしてみるも、
地のついた安定が得られない


地面に付けようと、もがく

だが、違和感を覚える

――足の感覚が、ない

しかし、身体は、風を切る

足が勝手に、動くのだ
地面を蹴り、跳ぶように駆けていく


自分の意志とは関係なく、走る足

意思を持った生物のようで
見ていて気味が悪い




足は
止めてくれるな?

子供をあやす様な声で
大人を威圧する表情

矛盾した色を持つ言葉が反響する

如月氷芳

余り詮索はするなと…?

何、君のためだよ

良い気分には
ならないと思うからね

恐らく、神は此処にはいない

我らに恩恵を譲渡して崩御したのか、
否、何処かに連れて行かれた……?

如月氷芳

何の音だ…?

確かに、焦げた香りがする

突如、轟々と鳴る鐘の音が、
耳の鼓膜をつんざく


全身を切る烈風が、
熱と焦りを孕んでくる

如月氷芳

騒動とは、何が起こるんだ?

単なる暴動なはずだ

しかし、流石に不自然だね

もうすぐ、村へと差し掛かる頃
異様な熱の塊が蠢いていた

轟々と音を立てる毒々しい炎。

舐める様に、侵食する様に
一棟をじっくりと溶かし尽くしていく

如月氷芳

なんなんだ、この有様は…!!

落ち着いてくれないかな。

確かに、予測と違う。
何が起こっている…?

それでも、
ただ願えば良いだけの話だ

へぇ、これは……

如月氷芳

どうしたんだ?

まだ、何も願っていないのに
この大雨――

如月氷芳

ならば、

止めてください!
それは…!!

如月氷芳

……いや、話は後だ

そうだね、ごめん

救出と、確保が最優先だ

奇跡の詠違え

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