賑わう街角。

この南の町はいつだって、
華やかで、何処か乾いている。


明るい声と、

鮮やかな食材、

華やかな仮面と衣装に身を纏う人々

俺も、その一人

ーーの、フリを精一杯している貧しい貧しい商人



誰がどう見ても、
そのみすぼらしい恰好は、貧乏人そのもの



けれど、それでも、明るく振舞う


まさに道化のように、

――するとどうだ

よ!シン!
今日も、そんなコスプレしてんのかー?

そーそー
カッコイイだろー?

まったく、
訳分かんないよなお前!!

仮面つけるより、
こっちのほうがバレないってもんなんでね?

……ま、そんなわけで。


俺は貧乏人のフリをして、
商人ごっこをしている貴族


……そんな数奇な設定で生きている

実際は、
養子として酷い継母に
引き取られた元貴族


扶養されてる身で無一文

だが、メイド扱い
家畜扱いの毎日だ。


はじめは、
昔の家で育ててきた林檎で
飢えを凌いできた。


今では、その実を売ることで、
少しずつ稼げるようになってきた

俺には、金が必要だ

外に出る為にも、は勿論だが、


俺には探さないといけない、女の子がいるからだ。

てか、シン。
昨日のハーメルン事件知ってるか?

新聞に載ってた少女誘拐事件だろー?

落ちていた新聞を拾って読んどいてよかった

昨日の、笛の音で子供たちが、
誘拐されていた騒動。


ーーそれを、ハーメルン事件と呼んでいるらしい

あれの影響で、王子が来るらしいぞ?

どこに。

何処にって、そりゃ……

突然、高らかな金管楽器の咆哮が響く。


赤い絨毯が、
俺の目の前を通り過ぎ、
それは延々と続いていく。

……花?

見上げたら
二階、三階の住人が
花びらを流している。

すると、白馬に乗った美しい女性が、
赤い絨毯の上を渡っていく


凛とした面持ち、

憂いと余裕という相反する感情を持つ双眸。


思わず、息を吞み、引き込まれそうにーー

王子様よー!

素敵!美しい!かっこいい!強い
!あれで、女性だなんて、もう!

もう今日が命日でいいわ!すき!あいしている!国民でよかった!!!

なったが、たくさんの女性が現れて、
思考が凍り付く

確かに、強そうだし、凛々しい

だが、ここにいるほとんどが貴族。
何があっても、お淑やかにしているはず

だが、黄色の声をあげて
一人の王子を称賛し、
礼拝するものまでいるのだから驚いた

なに、この状況?

王子

王子一人でこんなに騒ぐものか!?

……は?

ボロ貧乏人が何か言ってるわ。

何こいつ

何こいつと言われては、名乗りーー

はーーーーい!!

ごめんね、
コイツ、肝心な時に馬鹿だから!!コイツ馬鹿だから!!

な、なんだよ…?

……ほう、

すると、
その深い眼が、俺を射抜く



俺は後退りしたいのに、固まって動けない
まさに蛇に睨まれた蛙だ

お前、名前は、何という?

シンですが。

シンデレラか。

いえ、シンですが。

そうか、シンデレラか。

そうです、シンデレラですが。

シンデレラ・デスガか……ふむ。

何かを考え込む、王子

名前、ちがうけどな。

ーーお持ち帰り、出来ないだろうか

お持ち帰りも何も、
林檎は基本的に持ち帰って頂いて
お召し上がりをーー

いや、そうではない。

え?

何か、お気に障ること言いました?

お前を、お持ち帰りしたい。

は。

こいつ、今、なんて言った。

いや、でも、
この状況から連れ出してくれるのならーー


いや、駄目だ。
まだ彼女を救えていないのに
どうして、俺だけが、自由になっていいんだろう

あの、大変申し上げにくいのですが

わたくし、シン、は非売品でーー

ん?


で。

お前は、幾らだ?

だめだ、この王子は
言葉が通じないご様子だ

というか、俺にそんな価値もないし、
どうして、こいつは俺をこんなに気に入ってるんだ?

ハーメルンと二人のシンデレラ②

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