扉が開いた瞬間、突風が吹く。


お父様は、離れてください

思わず、銃を手に取る

――すると、

腹あたりから、
妙な温かみと柔らかさを感じる。




思わず、動きが止まる

それは血の温かさに似ている。








苛立ちを感じて、

下を向く――と、

わっ

わっ……!?

私は少女を抱きかかえていた。

お父様、これはどういう方ですか

んー

子どもには、罪はない
しばらく、相手をしてやりなさい

分かりました。
少しだけ、なら――

私は、研究室に戻っているよ

――分かりました

……また、ですか

――今の音、あれ、殺処分の音?

失敗作同士は
共食いさせるはずなので、
他の研究だと思われます

そう。

これは、もう毒の蜂認定――だね?

――何か

任務遂行を始めよう!って思ったの

そうですか

離れて下さいませんか

そう言われると、
したくなくなるのが
世の情けって奴ですなぁ♪

……依頼人に、そっくりな、顔……

彼女は爪は立てずに
つーっと、私の傷口をなぞる

痛っ…

痛いので止めて下さい

よいではないか、
よいではないかー♪

いいえ。
良くはありません

――臓器が少ないね?

それに昨日の傷と仮定すると、
治り方が人知を超えている

臓器が少ない…?

了承の上、じゃないの?

お父様は詮索される事が嫌いです

何故、質問する必要がありますか。

しかも何か調教されしきった思考回路

ですが、成程

それで私に
「人を救っている」と言ったのですか

アンタさぁ!!

はい

………いい

貴方、金属みたいな人だから言わない

言うだけ無駄な目をしてる

そうですか

そうだよ!腹立つ!!!

――でも、

でも、見つけた
私は貴方を連れ出しに来たんだ

炯々と輝く、堂々とした瞳は
真っ直ぐに私を見上げる

あなたは、こっちだね!

突然、花束を投げつけてきた

訳が分からない

ずっと会いたかったよ。

会いたかった、等、そのような言葉をもらえる権利は私には御座いません。

別にいいよ!

分かるまで、何度でも何度でも言ってあげるから!!

可笑しい事を言う。




自分は、彼に生み出された。

だから、彼に必要とされている。

そして、不要になったら処分される。

それなのに、どうして、
私を必要、だなんていうのだろうか。

何が目的なのだろうか

私と、一緒にいても、死なない大切な人!

そうか。

彼女は、私が機械人形であるから
私を求めているのか




死ななく自然治癒も早い存在は、

どんな研究にも使える
どんな重労働にも耐えられる
例えどれだけ酷い事をされても死なない





はじめから死んでいる存在は

とても、惜しいもの――なのかもしれない。



しかし、それなら、私以外にも
たくさんの機械人形はいる。

それなら、
彼に頼んで自分の理想の機械人形を
作る事が彼女の一番の目的に
なるのではないだろうか

人違いです。
お父様は、この奥です。

え?

合ってるから、問題ないよ?

な、なんで、すか

何?ってあれ?

自己紹介しないといけない?

ゴーストって言う怪人、有名でしょ?

――有名なのですか

なんで知らないの?
ああ、馬鹿なんだー?

何なのですか、貴方は

人を自然と殺してしまう呪いにかかったお姫様だよ!

はあ、そうでしたか

さいっこうに、反応、悪い!!

そうでしたか
申し訳御座いません

もう何言っても、冷たく返ってくる

こわいし、面倒くさいからいい

面倒臭いなら、帰って頂けますか


扉も修理しなければ
ならなくなりましたので

帰れって言われたら、
帰らないのが
世の情けって奴ですなぁ♪

なら、帰らないで下さい

分かった!帰らない!

世の情けは、どうしました

素直なのも、世の情けって奴ですなぁ♪

世の情けの定理が、分かりかねます

それに、貴方がいると、

周りの人が死んでしまうのなら、
帰るべきです

人が死ぬ呪いがあるからって
私が死んだように生きる筋合いはないの!!

そうですか

た、たたたしかに、
私が普通に生活してるってことは
他の人の命を奪うこと。

そうですか

実際、怪人だとか怪盗ゴーストとか呼ばれてるしね

そうですか

私はね、それでも生きるよ
それでも、しあわせになるよ

自己勝手で悪いけれど!

それでも、
みんなでしあわせになるよ!!

だから、その
手伝いを出来る人を、
探してたの

そうですか。

話は終わりましたか

では、あの、お父様――

あ、あああ………たず、け………テ…!!

え!?
あ、あ、あ、お、とうさま……!?

彼の瞳孔は、
右往左往と巡り廻る


全身が激しく痙攣し、
のばされた手も、
今にも崩れ落ちそうだ

思わず駆け寄り、

いつもように
手を包み込もうとした――が、

お前じゃない、息子を呼んでくれ…!

わ、分かりました。

気が動転しかかっている。



彼が瀕死の状態だ

彼が瀕死の状態だ





彼が死んでしまったら、
私はどうすれば




彼は、息子を求めている
私では息子の代わりにはならない



どうすれば、どうすれば、
彼が生き残る術は――


私が、まだ、
存在を許される術は――!!

――何処にいるか、わかりません。

あ、あああああ……お前も、失敗作だ……ああ、どうか、どうか、息子に……あ、…っ

私は、失敗作ですか

今はそんな話をするより、助けてくれ……この、病、お前が、引き受けてくれ……!!

出来る術であれば、もう行っております

!!!………!?!?………―――――

あ、………あ……

おと、と、うさ……お父様……ッ!?

仕方ないよ、あの人は作り過ぎた
それでいて、殺し過ぎた

それと、おそらく、依頼人は
――博士の、息子だったよ

ま、怪盗ゴーストの依頼完了ってことで♪

殺す必要はないではありませんかッ!!

―――!!

いきなり大声出さないでよ!
死んでるただの人形なのかと思ったのに!!
どうしてそんな感情剝き出しにしてくるの!!

君が一番の被害者だって言うのに!!

そんなことより、今はお父様の応急処置が必要だった。

医療器具は、確か――

完全に現実逃避してる…!?

もう無理だから!!
私の呪いって

錬金術師でも魔術師でも
治してもらえなかったから!!

私が、一番、分かってるから…!!

そんな事、ありません。

今、少し動きましたから

馬鹿じゃないの!?

臓器を高額で売られて、皮膚やら何まで色々なモノに使われて、人間としての扱われ方さえも――

お父様は、
やさしいです

あー、もういい。

この馬鹿は言っても、言っても、言っても
利かない!!ぜんっぜん利かない!!

――――――――――――――

言っとくけど、
その死体を庇っていたら、

ソイツを恨んでる人にずっと刺されたり、
虐げられたりされるだけの
運命が待ってるけど
それでもいいの?

死体ってなんですか

そこに転がってる白衣の死体のことだよ!!
あと、アンタも立派な死体だ!!!

もういい!!
元々から、連れ去るつもりだったけど、

この馬鹿、本当に引きずってでも
連れてってやるから!!

私は此処から離れません

分かったよ!!
元々から私の方針は決まってるしね!

ゴーストは
盗むは、花より毒の蜂って!

どういうことですか

ゴーストは周りに害のある人の命しか
盗まないってこと!!

だから、
博士が生きているというのなら
生きたまま連れて行くね♪

止めてください……!!

それなら、私も……!

―――――――――――

その言葉を、
待っていたよ♪

私は、貴方に出会えてうれしい
貴方が好き

私と、一緒に、話してくれる
――だから、貴方が、好き

何でしょう。

嬉しいと思ってしまうことが、
悔しいです

私は、嬉しいと思ってくれて嬉しい

これから、宜しくね

おとうさ――彼が、生き返る間まで、ですがよろしくお願いします

あとは、別に良いか。

俺としては感想聞かずに
流すのが一番だけど

それもそれで寂しいから聞いておく

待って下さい。

貴方、幼い頃の姫様を知っているのですか

本当にブレないねー?

容姿は今とは正反対。身長が小さくて、長い髪の生意気そうな少女

性格も、面白いぐらい違うね。

とても明るくて、優しくて、
何よりも強くて、自己中心的。

――そうだね――自然な雰囲気で――

黙って下さい。

うん。

この姫様は、俺だけの思い出――

それも止めて頂きたく

話を続けて下さい

続けろ

はい。
番人様の仰せのままに♪

盗むは、花より毒の蜂⑧

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