来客です。

お父様、開けても良いですか

? 何か聞こえたのかな?

ドアが、強く叩かれています

? 何も聞こえないよ

…………。

聞こえないわけがない
穏やかに告げられた否定

これは、命令であり、警告だ

分かりました
何も、聞こえておりません

肯定しか許されない
「それが私を守る為だ」と彼は言う。

それが正しいことなのは分かっている。
それなのに、少し違和感を覚える

違和感など要らない。





正常ではなくなる。


正常ではなくなる。


正常ではなくなる。


正常ではなくなるのは
嫌われることだ。






彼だけが、私の父親だ


正常でいたい

――――――――…………!

どうか、されましたか

――その目は、何だろうね




彼の眼こそ、何だろうか
彼の凍っているようで、憎悪で燃えた眼



その眼は濁っていて、
私の眼を写す事さえできない



違和感



――――私の知る、彼は、どこ、だ

……私は、今、どんな目をしているのですか。

なるべくいつもの調子で、淡々と告げる。

…………





すると、彼は安心したように微笑んだ。
良かった。

ううん。大丈夫だよ

ちょっと、理解されないことが多くてね

気が立っているんだ

彼は、弱っていた
弱っていることを、伝えてくれた
それは嬉しいことだ


何かに縋ろうとした彼の手が、
小刻みに震えながら、
天を掴もうとする




その手が空を切る前に、
私の手で包み込む

私は、貴方を理解したいです

ありがとう


ごめんよ

理解しています、ではなく、理解したい



しかし、私が彼を知ってしまったら、
私は彼に疑問を持ち続けてしまう



だから、彼もひた隠しにしているのだ
そして、私も一切を聞かないのだ

――しかし、


鉄板が破裂する音、
錠が落ちる音、
地面に打ち付けられた金属音、






それが、扉が蹴破られた音だと理解するのに
相当の、時間が掛かった


盗むは、花より毒の蜂⑦

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