なあ、勇者様。エーテルはどうやって入手するか知っているかい？

いえ……。

今のところ錬金方法は不明だ。
なので、エーテルを含む溶液から蒸留して得るのがもっぱらの製法だ。

なるほど。

そして、泉の水にはエーテルがふんだんに含まれている。

泉の水に……。

エレザさん、魔力を込めてもらえるか？

はい。

むん！

やっぱりだ。泉の水は通常の水と比べてエーテルの含有量が極めて高い。

これは、泉の水の不老長寿の効果とも関係がありそうだな……。

す……すごいですね、
ラムディッシュさん。

我々、巫女の内では『泉の水で清める』事で『神秘の力』が発揮されるという事しか考えられていなかったのに、そんな原理があったのですね。

いやなに、エレザさんが協力してくれたおかげですよ。

俺は泉の水で清めなければならない事を知らなかったし、魔力がないから魔力を使った実験もできなかった。

ホント、感謝してます。

よし、さっそくエーテル供給装置を作るぞ。

その真摯な姿勢……。
素敵です、ラムディッシュさん。

なにか言いましたか？

いえ、何も。

うふふ……

実験には大量の泉の水が必要になったわ。

……また泉の水だ。

さっきから話に出てくる泉の水というのは、フローラの泉の水の事ですか？

あぁ、そうだ。
勇者様、知ってるのかい？

えぇ、ちょっと。

あの泉は取水制限されているんでな、泉守のガラに頼んで提供可能なギリギリの量を貰っていたんだ。

よし、これが今日の分だ。

毎日毎日悪いな、ガラ。

なに、これは私にしかできない事だ。

誰かに任せて
泉の水を枯れさせるわけにも
いかんからな。

違ぇねえや。

ゴホッ！ゴホッ！

おい、大丈夫か？

ああ、風邪をひいたかもしれん。

少し休めよ、ガラ。
これだけあれば十日は大丈夫だ。

そうか、スマンな。
では甘えさせてもらうとしよう。

研究頑張ってくれよ。
泉の水を無駄にされたらたまらんからな。

あぁ、任せとけってんだ！

ガラさんとはそんな関係があったんですね……。

そして、あの日が訪れた。

それは新月の夜だった。

俺は最小蓄光量での極限に挑戦していた。

よし、この蓄光量で忌避の力を維持できれば、ほぼ永久に月の光がなくても結界が張れるぞ！

すぅー

はぁ〜

それにしても最近は暑い日が続くな。

……少し涼むか。

チラッ

……え？

ま……まずい！

……し…新月だ……。

そして、エーテル濃度はあっという間に薄れ、ツギノの結界が消滅した。

それを狙ってか、たまたまか……。
その隙に『忌避の盾』が奪われてしまった。

疾風のように入り込んできた小さな影は、まるでその空間を切り取るように『忌避の盾』を奪い去った。

お願いだ、勇者様！
あいつから『忌避の盾』を奪い返してくれ！

俺は失われた結界の代わりに、あらゆる防衛装置を作った。

……しかし、それじゃ駄目なんだ！

『忌避の盾』は
失われた『魔導技術』を
紐解く数少ない手がかりなんだ！

『魔導技術』を復活させなければ、魔力のほとんど無い今の人々は魔法すらも失う！

わかりました。
やれるだけやってみようと思います……が……

もう少し覚えていることはないですか？

他に……か……。
んー。

ヒッヒッヒッ……

やめろ！
何をする気だァーッ！

ミ・ナ・オ・レ・ノ・モ・ノ

はっ……

……無いっ……『忌避の盾』が……。

『全部俺の物』みたいな事を言って奪っていったぐらいしか思い出せないな……。

……！

『全部俺の物』……。
それは恐らくあの呪言だ……。

……ツヴァイ。