三階に行ってみると、トイレがある側の階段前にメンバーが集っていた。ただし、消失した亜美と、噓を吐いていた太一を除いて。

 千代子の姿を見つけてすぐ、深月が彼女の許(もと)へ駆け寄った。

五十嵐深月

千代子。良かった、無事だったのね。連絡が取れないから心配したのよ

橘千代子

深月さん、ご心配をお掛けしてすいません。携帯の電池が切れてしまったみたいで

安藤

それで、太一は?

橘千代子

それが、お手洗いに行ったきり、出てこないんです。
永田先輩に確認していただいたのですが……

永田凌

いなかったんだよ、どこにも

安藤

え?

 入ったはずのトイレから姿が消える。そんなことがあるだろうか。

 まさか、一人だけ脱出に成功した、なんてことがあるわけでもないだろうに。

橘千代子

お手洗いから出てきていないことはわたしが確認しています。
安藤先輩、永田先輩と一緒にもう一度確認してみていただけますか?

安藤

わかった。
その前に一つ確認しておきたいんだけど、三階と二階に隠されていた文字は確認してくれた?

橘千代子

あ、はい。お兄ちゃんと一緒に確認しました。
安藤先輩、永田先輩、深月さんの証言に間違いはありませんでした

安藤

そうか。ありがとう

 礼を述べてから、凌に向き直る。彼は深月に何やら耳打ちをしていたようだが、そのことには触れないでおくことにした。大方、千代子には注意しておけ、とか、そんな忠告だろう。

安藤

では凌さん、行きましょうか

永田凌

ああ

 確認してくれと頼まれたが、それも難しい話だ。

 何せ、個室の扉は全て開いていて、探すにしても数歩歩いただけで完了してしまう。

 凌の言う通り、誰の姿も見当たらない。

安藤

どこにもいませんね

永田凌

橘妹が噓を吐いていると見て間違いないな

 淡々と凌は言う。

永田凌

問題は噓を吐いていた兄を庇ってどこかに逃したのか、殺して抹消したのか、だ

 素直には受け入れられないが、冷静に考えればそういうことになる。もはや反論の余地もない。

 凌は一度出入り口の方を振り返り、それから小声で話す。

永田凌

これからは俺が橘妹と行動を共にする。もしも俺に何かあったら、安藤、お前が橘妹に手錠を掛けろ

安藤

はい

 安藤は静かに頷いた。

安藤

もしも僕が消滅したら、どこかに隠れている太一が犯人、ということですね?
深月が太一を逮捕すれば、ゲームには勝利できます

 ふっ、と凌は息を抜くようにして小さく笑った。

永田凌

話が早くて助かる

 トイレを後にし、女子二人と合流する。

 千代子が不安げな眼差しを向けてきたが、それが演技なのかどうか、安藤には判別ができなかった。

橘千代子

あの、どうでしたか? お兄ちゃんはいましたか?

安藤

いや、凌さんの言う通り、いなかったよ

橘千代子

そんな……

永田凌

太一がどこに行ったのかはわからない。だが、やるべきことは変わらないさ。泥棒を特定して、このゲームに勝利するだけだ

五十嵐深月

でも、わたしたちが次にやるべきことって何?

 なぜか三人の視線が安藤に集中する。

 彼は肩を竦めた後で考えを話した。

安藤

やっぱり、音楽室で与えられた暗号を解くんだろうね

橘千代子

パスワードのことですか?

五十嵐深月

でも、入力する鍵なんてなかったように思うけど

安藤

たぶん、深く考える必要はないよ。パスワードと言えば入力するものは限られている

永田凌

そうか

 凌が手を打つ。

永田凌

パスワードを入力するもので、この施設にあるもの。――パソコンだな?

安藤

はい。恐らく

五十嵐深月

パソコンなら事務室にあったね。
それに、図書室の検索コーナーにも何台か

永田凌

よし。そうと決まれば二手に分かれるぞ。
安藤と深月は図書室へ、俺と橘妹は事務室へ行こう

橘千代子

あの、すいません。分かれる必要はあるんですか?
犯人に一遍に殺されてしまうかもしれない、という話はわかっていますが、入力するだけならみんなで一緒にいても良いのではないかと……

安藤

いや、入力するだけではないんだ。
与えられているパスワードは漢字や平仮名で構成されているけれど、パソコンへの入力は英語で打ち込むはず。何か捻る必要があるんだよ

永田凌

そういうことだ。ほら、行くぞ

 凌に連れられて千代子が階下へ消えていく。その背中を見届けた後で、安藤たちも五階へ向かった。

五十嵐深月

結局、噓を吐いていたのは太一と誰だったのかな?

 図書室に着いてすぐに深月が言った。

五十嵐深月

最初の捜索のときにペアを交換していたから『うそつき』は文字探しのときに噓を吐かなくちゃいけなくなったんでしょ?
太一が元々の担当だった四、五階じゃなくて三階に行っていたんだとしたら、太一とペアを入れ替えたのは誰なの?

 それは安藤も引っ掛かっていたことだ。だが、だからこそ、明瞭な答えが出てこない。

安藤

凌さんの元々の担当フロアは三階で、それが正しかったことは確認が取れている。
となると、太一が亜美と交換になり、凌さんと太一がペアで三階、千代子と亜美がペアで四、五階を見ていたと考えられる……

 歯切れの悪い自分の言葉に、安藤は唸り声を被せた。

安藤

うーん。
いや、まあ、そうなんだよ。そう考えるべきなんだけど――、だったら太一が担当フロアじゃないところに行っていたことは凌さんも千代子もわかっていたはずなんだ。
ペアを入れ替えたのならば一言言ってくれたらそれで済んだことなのに。
そもそも、最初に決めたペアに問題があったような気がしてくるよ

五十嵐深月

そう? わたしは妥当だと思ったけど。
兄妹を避けて、かつ、男女混合のチームにするとなったら、あれしかないんじゃない?

安藤

まあ、うん。兄妹が駄目なら、同じ理由で恋人も駄目だしね

五十嵐深月

えっ? 恋人って? 誰か付き合ってるの?

安藤

〝誰か〟って――

 言い掛けて慌てて口を噤(つぐ)む。なんだか拗ねているようでカッコ悪く思えてしまったのだ。

安藤

それより、ほら、パソコンだよ。深月、入力よろしく

五十嵐深月

わたしタイピング遅いんだけど……

 不平を口にしながらもパソコンの前に座る深月。

 パソコンを起動させると、案の定、ログインパスワードを求められた。

五十嵐深月

とりあえず、適当に打ってみるね

 自己申告していた通り、深月のタイピングは驚くべき遅さだった。何せ左右の人差し指だけで打っているのだ。それで早く打てと言う方が無理な話だ。

五十嵐深月

安藤くん。殴って良いかな?

 笑いを堪えていたのがバレてしまったらしい。
 安藤は慌てて両手を振った。

安藤

いや、ごめん。気にせず続けて

 深月が入力したパスコードは以下の通り。

 小文字で『tokunitonchikichinisuna』、

 大文字で『TOKUNITONCHIKICHINISUNA』、

 日本語を逆から読んで
『nasunichikichintonikuto』、

 それを大文字にして
『NASUNICHIKICHINTONIKUTO』、

 アルファベットを逆から読んで
『anusinihcikihcnotinukot』、

 それを大文字にして
『ANUSINIHCIKIHCNOTINUKOT』、

 アルファベット順で一文字ずらして
『uplvojupodijljdijojtvob』、

 それを大文字にして
『UPLVOJUPODIJLJDIJOJTVOB』、などなど。

 他にも『chi』を『ti』で入力してみたり、『n』を『nn』で打ち込んでみたりしたが、全て弾かれてしまった。

五十嵐深月

安藤くん。これって本当にパソコンのパスワードで合ってるの?

 溜め息混じりに深月が言う。

 それに対し、安藤は強く頷いてみせた。

安藤

間違いないよ。これはここで入力するものであってる

五十嵐深月

えっ、答えがわかったの?
言っとくけど、次エラーが出たらわたしは打たないからね

 大丈夫、と安藤は口の中で呟く。こんなに整然とした言葉になるのだ。間違えているはずがない。

安藤

僕の言葉通りに入力してみて

 そして、安藤は導き出した答えを声に出す。

安藤

(※安藤の台詞を完成させるようにして解答をコメントにご投稿ください。
 全てひらがなorアルファベットでご回答ください。
 ご参加をお待ちしております)

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