太一が金庫のナンバーに『1249』と入力すると、ピピッと軽快な電子音を立ててロックが解除された。

 扉を開けると、中には折り畳まれた紙が入っていた。

永田凌

また犯人からのメッセージか?

 凌が忌々しそうに言う。

 開いてみると、カウンターのときと同様、パソコンで打ち出された文字が並んでいた。が、それはメッセージと呼ぶにはあまりにも奇怪なものだった。

『パスワード=
特に頓知
基地に砂』

五十嵐深月

これだけ? これがメッセージ?

 深月が首を傾げる。

橘千代子

パスワードということはまたどこかに鍵があるのでしょうか?

永田凌

今度はそれを探すところからってことかよ……

安藤

太一。入っていたのはこれだけか? もう一度確認してみてくれ

 安藤は特に期待せずに言ってみたのだが、返ってきたのは、あっ、という悲鳴に似た声だった。

橘太一

ごめん。もう一枚あったみたいだよ……

 現れたのは先ほどと同じ折られた紙。

 だが、開いてみるとそれは異様だった。何せ、これまではパソコンで打ち出された文字だったのに対し、これはボールペンで殴り書きされていたのだから。

 ただの一言が紙一面を埋めていた。

『うそつき』

橘千代子

これは……、誰かが噓を吐いている、ということでしょうか?

安藤

たぶん、そうだと思う

 しかし、そうなると矛盾が生じる。安藤たちは第一の問いに従ってアルファベットを集め、正答を出してこの音楽室に来た。誰か一人でも間違った問題を送信していたのでは、ここまで来られたはずがない。金庫のナンバーロックにしてもそうだ。

 偽っても今と同じ結果にできるとしたらどこの部分か。そして、それを証明する方法は何か。

 考えながら話す。

安藤

この中に、担当したフロアを入れ替えた人物がいるんじゃないかな? そのフロアに行っていないのに、交換した相手から問題を教わって、さっきの解答をした。だとしたら、それは噓になる

五十嵐深月

どうやって確かめるの?

 深月が訊く。

 それに関しては考えがあった。

安藤

みんなに訊きたいんだけど、僕らが行った一、二階にはカタカナがあったんだ。他の階にもそういうものがなかったかな?

永田凌

円の中に書かれたカタカナの文字のことか? 確かにあったぞ

橘千代子

わたしもいくつか見つけました

橘太一

ぼ、僕も……

安藤

よし。なら、それぞれ発見したカタカナとそれを見つけた場所を全員に送ろう。実際には行っていないのだとしたら、当てずっぽうでしか語れないはず

永田凌

なるほどな

 顎を引く凌。

永田凌

なら、各階の代表確認者を決めておこうぜ。
四階が安藤、五階が深月、三階が太一、二階が橘妹、一階が俺。
グループも変更。安藤と深月がそのままで、もう一つが橘兄妹、最後が俺一人。俺の疑惑は晴れているから、構わないだろ?

安藤

はい。
じゃあ、五人が一斉にメールを送ろう。ただし、開くのは全員が出発した後で。ここで喧嘩になっても困る

 全員が同意し、指示通りに行動した。着信音が合図となり、凌と橘兄妹が出発する。

 三人を見送った後で、安藤はメールを開いた。

『送信者:永田凌
 本文:三階にあった文字は、
 会議室2のプロジェクターの蓋に「ヨ」、茶室の座布団の下に「ウ」だ』

『送信者:橘太一
 本文:四階は、
 大広間の座布団の下に「ガ」、工作室の机の裏に「タ」があった。
 五階は、
 図書室の一般書コーナーに「ナ」があった』

 安藤と深月も互いに同じ文章を送信していたことを確認する。しかし、五人一斉にという約束だったのにも拘らず、一人足りない。

安藤

千代子の分が届いていないな

五十嵐深月

わたしの方もよ

 安藤はペアである太一に連絡をしてみたが、応答はなし。

 ここで悩んでいても仕方ないので、ひとまず担当のフロアを捜索してみることにした。

 二人は音楽室を出て、初めに大広間に入った。しかし、太一の言葉通り全ての座布団を捲ってみたのだが、どこにも文字は見つからない。

五十嵐深月

座布団以外も見たけど、何もないね

安藤

深月で見つけられないなら、本当にないんだろうな

五十嵐深月

ということは、噓を吐いているのは――

安藤

まあ、そうなるよね。なんだか一番簡単な問題になったなあ。
一応、全部の部屋を確認してみようか

 結局、四階で見つかった文字は、料理室の鍋の中に『シ』、工作室の工具箱の上蓋に『ユ』となった。

 続いて向かった最上階、図書室。

 西側の北にカウンターがあり、南に児童書コーナーがある。
 東側は北に学習席、南に検索コーナー。
 太一の言っていた『一般書コーナー』は西のカウンターと児童書、および東の学習席と検索コーナーに挟まれた、中央に位置している。

 しかし、やはりと言うべきか、一般書コーナーにヒントとなる文字は見当たらない。

五十嵐深月

安藤くん。カウンターの裏側に『ユ』、児童書コーナーのカーペットの下に『ウ』、学習席の消しゴムに『ジ』があったよ

安藤

さすが深月。
ともかく、これで『うそつき』が判明したわけだ

五十嵐深月

でも、一階にあったマップには五階が『図書室』としか書いてなかったはずよね? コーナーまでわかっていたってことは、単純に文字が見つけられなかったってことにはならない?

安藤

僕ならともかく、見つけられなかったってことはないと思う。
それに、間取りを知っているのは当然だよ。みんなここには来たことがあるんだから

五十嵐深月

あ、そうか

『うそつき』がわかったのなら、急いだ方が良い。未だに千代子から連絡がないのも気に掛かる。

 そう判断した安藤は『うそつき』が代表確認者に設定されている階への集合を掛けることにした。

 携帯端末でメールを一斉送信する。

『みんな、三階に集まろう』

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