清水君達が戻ってくるまで、飾りつけを瀬戸さんと二人で作っていた僕は女の人と二人きりになっている事に気付き緊張の限界に達していた。

 ああ、何か話さないとなあ~でも緊張しすぎて何を話したらいいか頭真っ白だよ、どうしてちひろの時みたいに普通に話せないんだよ~

その時唐突に瀬戸さんがゆっくりと何かを考えるように遠慮がちに口を開いた。

松川君って休みの日とか何してる人?

えっいやそうだね、え~っと

私ね、ゲームとか良くするんだあ

へえそうなんだ、ちょっと意外だな…

そうお?似合わない……かな?

いやっそんな事はないよただ、僕も格闘技系好きだから、仲間がいて嬉しい…かな

へへ~ちなみに私が好きなのは龍ゴト4

えっ!龍がゴトゴトするⅣ好きなの?マジ?

うん!面白いよね!それやりながら歌舞伎揚げ食べるのが一番最高!

ええ!!瀬戸さんも歌舞伎上げ好きなの?

そう!あと戦国武装伝記なんかも良くやるかな、SSS級の一期一振(いちごひとふり)が中々手に入らないんだよね~

え!本当に~あのゲーム結構、クソゲーって言われてて学校で好きなやつが全然いなくてがっかりしてたんだよねえ、やっと仲間ができたよ~

私も嬉しい!なんかさあ~松川君とは共通点が多いような感じだよね~

そっそうだね

あっそれとお、龍ゴト4の中で腕相撲で倒せる中ボスいるでしょう?

うんそうだね!

知ってる?来月お台場のゲームフェスタで、ゲーム会社主催の腕相撲大会があって優勝者には
ゲームの中に登場できる権利が貰えるんだって!しかも賞金が100万円!凄くない?

えええ!!マジマジ?

でも相当強い人が沢山出るみたい

そうなんだ~僕は弱いからな…


 自分が運動音痴であることに改めて気付き、少しだけ気持ちが沈んでいくのを感じる。まあ世の中そんなものだよな。

ねえ!私こう見えても少し腕相撲には自信あるからさあ~少し練習してみない?

えっ?

私じゃ駄目かな…?

 一瞬眉毛が下がった、少しだけおでこにしわができた、相当悲しんでいる、これは断っちゃ悪いよね……

分ったじゃあ1回だけ

うん!そうだね私が女の子だからって手を抜かないでよね~

体力ないのは自身があるから、手を抜きたくても抜けないよ

 喫茶店のテーブルの上に合い向かいに座って手を握って肘をつく。
 瀬戸さんの色白の手は指が長くてそして冷たかった。

松川君の手ってあったかいよね~私体温低くてさ、手が冷たくなっちゃうんだよね冬なんか寒くてさあ~へへえ、こっちの手も温めちゃえ!

えっ瀬戸さんあのこれじゃ腕相撲にならないよ

うん?いいの最初からそのつもり無かったから~へへ~引っかかったな~

あの瀬戸さん…ちょっとそれは

私いつもドジだよ…ね

え?

周りにいつも馬鹿にされるんだよね、子供の頃から忘れ物も多くてさ、だからいつも親にお前はドジだからしっかりしろって…松川君

そうか彼女は僕と同じなんだ。ゲームが好きとか歌舞伎揚げが好きとかそういうんじゃない、自転車の鍵が壊れてなかったのに勘違いしたのも、僕と同じように焦ると簡単な事も分らなくなったり、出来なくなってしまう。

……うん?


ドジな子は嫌いかな?

その言葉を聞いた瞬間、いくら鈍感な僕でも瀬戸さんがどういう意図でそんな事を言ったのかわった。僕は心臓の鼓動が100メートル走で全力疾走した後のようなかんじに瞬時になってしまった。

あ、あのさ、瀬戸さん僕みたいなのがこんな事言う価値もないと思うけど。ひょっとしたら勘違いだったらごめんね。その意味って

ふふっその臆病で、謙遜するところ良いよね!そうだよ、私は松川君が好きです......付き合ってくれると嬉しいなっていうかはっきり言おう、彼女にして!

あの、何て言ったら、そのう......頭が混乱して何考えてるのか正直言って分らなくなってるんだけどさ

二人の事考えてるんだよね......田中さんと梶本さん

えっいやっあのう、どうし

そんなの分るよ、ず~っと視てきたんだもの 

えっ視てきた?っていったよな......

こんな事さ、言ったら松川君の事傷付けちゃうから言いたくないけど、彼女達、本当に松川君の事思ってるのかな?

僕はその言葉に少しだけ焦りといらつきがない交ぜになった様な、嫌な感情が湧き上がった。

二人は少なくとも瀬戸さんよりも分っていると思うよ......

そう......だけどさ、私聞いちゃったんだよね偶然

え?何を

その時、喫茶店のドアが開き、はなさんと、玲奈、清水が入ってきた。

はなさん、玲奈、清水君

おっ飾りつけの準備していてくれたんだ、有難う二人とも

まっお似合いだね、仲良く飾りつけ楽しめたの?

えっ何か玲奈の表情がいつもと違う!どうして片方の唇が少しだけ吊り上っているんだろう、あの表情は嘲笑......僕を馬鹿にしている?どう言う事だ?

はなさんと玲奈、話があるんだけど

ええ~話なんかしたくないんだけどなあ

玲奈はバツの悪そうな表情しながら口をやや強張らせながらそう言い放った。

私も、今はあまり話したくないな

はなさんも僕とかなり距離を取りながら遠慮がちに言葉少なめにささやくように言った。
 なんか二人とも変だ!どういう事なんだろう......

田中さん、梶本さん!松川君みたいな良い人を傷つけといてよくもそんな勝手な態度が取れるね!私はあなた達を許さない!あなたたちが松川君を傷つけた、その証拠がこれだよ

そういうと瀬戸さんは音声ファイルを再生した。

アイパッドからは、よく聞きなれたはなさんと、玲奈の会話が聞えてきた。
そして次の瞬間、僕は体中が全身を貫くような電流が走ったようだった。

でもさあ、あいつって馬鹿だよねえ~自分がどれだけモテルとか思ってるんだか。石垣島で少しキスしただけで舞い上がってるの~本当馬鹿みたい!でもそろそろあの馬鹿からかうの飽きてきたんだよね~だからさあ、はなあに生徒会準備室にあの松川の馬鹿おびき寄せてもらって私がそこを偶然見つけて、振るっていうシチュエーション作って、ブッツリ関係切ることに成功したんだけどさあ、あいつ根暗じゃない?ストーカーとかされたらマジひいちゃんだけど~

そうなったらさあ、警察に言っちゃえば良いんだよ、私も最初は幼馴染だから少し優しくしてあげようかなあ~なんて思っただけ!だって同じ生徒会のメンバーであの人には2次案件で仕事してもらわないとこっちも困るじゃない?だからさあ

あっそうそうはなあは岡村先輩と付き合ってたんでしょう?その後どうなったの?

あ~あの人はもうどうでもいいの、もう他に好きな先輩いるし~

ええ~誰々?

まさか......二人ともこの声の感じは...本音で話している!

二人とも、開き直った態度、表情をしながら半ば自虐的とも取れるようあ冷たい表情を作りながら薄笑らいを浮かべていた、でも二人の表情は正直さが現れていた。

やっぱり本当だったんだ......僕はずっとからかわれていただけなんだ......

まあばれちゃしょうがないか~もう白状するしかないなあ、ねえ!はなあ

そうだね、ごめんねこう......松川君、私も途中で冗談だったって言うつもりだったんだけど、玲奈がこのまま続けるほうが面白っていうからさあ

だって~あなたみたいな貧乏な家庭でしかも、スポーツもできない、イケメンでもない男になんで私が好きになんなきゃならないのかな~でもからかい甲斐があって面白かった!その点では感謝しないとね

僕は目の前が涙で多い尽くされ前がぼやけて何も見えなくなってしまった。だけどその間も二人のあざ笑うような馬鹿にした苦笑だけははっきりと聞え続けていた

あああ~泣いちゃったよ~かわいそう~ははは

夢なんじゃないかって思い、目の前にあった机に思いっきり手を叩きつけたけど、痛みの感覚が強烈に伝わりそのわずかな希望は砕け散ってしまった。

 僕は目の前が真っ暗になり意識が遠くなっていった。自分が頭から倒れこんでいくのを感じた。

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