昨夜、

影のような人間に襲われた敬介は、

朝になってもその時の恐怖が忘れられなかった。

今日は天野さんと会うんだ。
気持ちを切り替えないと……。
っていっても、
なんか取り憑かれてるんだったよな、
俺……。

呟きながら精神を保とうとしているが上手くいかない。

それもそうだろう、

今まで平凡な日常生活を送り続けた少年が、

正体不明の存在に殺されかけたのだ。

…………。

着替えながら少し笑ってみようとするが、

顔が引きつって笑えない。

外に出かけるような気分にもなれない。

美咲に今日は会えないことを伝えたいが、

連絡先を知らないため、

待ち合わせ時間には楽坂公園に向かわなければならない。

ドタキャンするのは悪いからな……。

あと30分くらいで待ち合わせ時間になるので、

家を出ることにした。

ふと、

机の上に置きっぱなしにしていた

ガラスの破片のようなものに目がいった。

あれ?
……いや、いいか……。

何か疑問に思ったのだろうが、

敬介はそのまま部屋を出て行った。

楽坂公園には思ったより早く着いた。

待ち合わせ場所にある時計台の時刻は、

11時55分を指している。

外の空気に触れ、

気持ちが落ち着いてきたのか、

表情は先ほどよりも少しばかり和らいでいた。

敬介も予想はしていたのだが、

周りには数組のカップルがデートを満喫していた。

みんな幸せそうに今を楽しんでいる。

俺も昨日あんなことさえなければ、
もっとあんな顔してたのかな。

そして、正午より少し前に美咲はやってきた。

こんにちは。
あれ、形山君けっこう待った?

こんにちは。
いや、さっき来たところだから。

典型的なデートの始まり方だが、

敬介はどこか満足そう。

二人は特に会話はないままそこへ向かう。

さっそく、
昨日の続きなんだけど……。

ベンチに座り、

少し間をおいてから美咲が話し始めた。

違う?

うん。
取り憑いてるというよりは……
執着されてるっていうのかな。
その存在自体は死んでいるわけではないの。

敬介は話が初っ端からよく分からなくなってしまった。

…………。

テレビで心霊番組の特集とかも観たことあるけど、

取り憑いてるのが死んでいるわけじゃない、

となると生霊に当たるのかと思ったのだが、

美咲が話を続けたので開こうとした口を閉じた。

生霊とかそういうのでもないんだけど……。

心の中が読まれてるのかとも思ったが、

生霊でもないとなるとますます頭がこんがらがってくる。

何ていったらわかりやすいかな?
うーん……
別次元の存在?とかかな。
実際に私達の存在する世界にはそれは存在していないの。
別の世界からきたような感じっていうのかな……
ごめんね!
私説明するの下手だからさ。

美咲自身もよくわかっていないのか、

説明しながらだんだんと難しそうな顔になっていた。

なんとなくは分かるんだけど……。
つまりどういうこと?

あんまり分からない素振りを見せると、

美咲を落ち込ませると思ったので、

少し笑いながら聞いてみた。

うん。
簡単にいうと、
形山君は別次元の人に命を狙われてるの。

え?

すぐに飲み込めなかったのだが、

思い当たる節があったのだ。

そう、昨夜の……。

…………。

思い出したくもない恐怖を経験し、

殺されかけた。

そして、敬介の表情が強張り始めた。

額から汗をかき、

その汗が頬を伝わり、

地面に流れ落ちた。

形山君大丈夫?
すごい汗だよ、ごめんね。
いきなりこんな話したから……。
びっくりしたよね、ごめんね!

敬介の様子が変わりすぎたため、

美咲が慌てだす。

いや、大丈夫。
実は、ちょっと昨日……。

敬介は昨日あったことを美咲に全て話した。

お互い途中で笑ったりすることはなく、真剣に。

本当にごめんね、形山君。
やっぱり昨日学校で話しておけば
そんなことにはならなかったよね……。

美咲がしょんぼりと自分を責めているようだった。

天野さんのせいじゃないよ!
もし聞いてたとしても、
どうしようもなかっただろうし。

そうじゃないの。
私がちゃんと話して守ってあげられれば!

少しだけ声を荒げた美咲に驚いた。

どういうこと?
天野さん霊能力者とか?

違うよ……
もう本当のこと言うね。
光術士(こうじゅつし)って知ってる?

こう、じゅつ……し?

うん。
影を退ける力を持つ人達のことを、
光術士っていうの。

…………。

私は光術士。
形山君の傍にいてあげれば守ってあげることができたの。
その影のような影人間(=シャドー)から。

第1章-力の目覚め編-(8話)-真実①-

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