大吾

死ね智則ィィィッ!!

二人で学校に登校。
雑談しながら教室に入る。
すると突然、隠れていた友人の大吾が用具入れに入っていたであろう、モップを持って叫び切りかかってくる。

彩愛

えっ!?

近くにいた彩愛が驚いて硬直。
突発的バイオレンスについていけていない。
だがハーレム王は冷静だった。

智則

大吾、遅いぜ

大吾

ごあぁ!?

大きく降り下ろされるモップを余裕で回避、膝を曲げて素早く大吾に近づくや、鳩尾に掌底を叩き込んだ。
腹を抱えて倒れる大吾。
その後ろには、無数の男子クラスメート。
手にはそれぞれ、得物を構えて厳しい顔でこっちを見ている。

智則

ふっ……いいだろう、かかってこい

なにこの超展開。
朝普通に教室に入ったら、男子達と智則が戦い始めた。
彩愛の目が点になる。
そこに女子たちが事情を説明しながら避難させていく。

大吾

と、智則……ッ!
我ら非モテの……恨みを知るがいいッ……!

智則

知らんし、毎度懲りないなお前ら……

倒れるバカ一号は、悔しそうにそう智則に言う。
この騒ぎは何かというと、ハーレム王に対する嫉妬からくる暴動。
男子たちの鬱憤を晴らすための一揆という奴だ。
智則許さぬ慈悲はない、でたまにこうして休み時間に軽く騒いでいるということ。
無論ただのじゃれ合いだ。
互いに合意の上でやっているしケガもしない。
大吾には割とキツめに毎回やっているが。

彩愛

と、智くん……?
えっ、漫画みたいな展開なにこれ?

委員長

いいのいいの、志木さん
男子は勝手にやらせておけば

彩愛にも早速世話を焼いてくれる人ができた。
名を委員長。本名ではなく、あだ名。
数年連続委員長なのでそう名付けられて、本人も諦めてそう言われている。
あれこれと世話好きの少女は、色々転入で戸惑うことが多い彼女を気遣っている。

委員長

二日目でこれはびっくりしたでしょ?
でも何時ものことだから

委員長

ただ、あの小田君と一緒にくるのもびっくり
家の方向同じだったの?

委員長に問われて、唖然としながら頷いている。
視線の先では、アッパーカットでデッキブラシを持つ男性生徒を殴り上げる無表情の智則。
男子はバタリと倒れて気を失った。これもじゃれ合い。
派手にならないように後ろで最低限の音量でやっている。

彩愛

…………
うん、そうだよ
通学路は同じだったみたい
住んでるところは変わってなかったから

委員長

そう
分からない事があったらわたしにも聞いてね
小田君、あんまし宛にならないから

智則の女子からの扱いは、基本変人。
表情が乏しく、よく分からない連中とばかりつるんで、挙句には仲良しの女子を侍らせている。
でもその割には我が世の春を謳歌している様子もなく。
得体の知れない奴で落ち着いている。

彩愛

ありがとう委員長
宛にしてるね

委員長

うん、遠慮なく頼ってね

彩愛も彩愛で初日からやらかした以外は、案外順調に学校生活をスタートさせていた。

智則

大吾、生きているか?

大吾

お前のせいで絶賛死んでるよ……

委員長

小田君、掌底は威力ありすぎだって……
流石に死ぬよ飯島、死んでもいいんだけど

大吾

委員長、毎回俺に遠まわしに死ねっていうのなんで?

委員長

朝っぱらからエロがどうとか萌えがどうとか堂々と話す変態集団の筆頭だから
風紀の敵はわたしの敵、女子の敵ですので

大吾

あんたも大概酷い女だよなぁ……

智則

死ねやキモオタ

大吾

ほざけハーレム王

彩愛

なんて会話してるんだ、君たちは……

昼休み。
智則の学校では、昼休みに食事を取るのは外出届けを出して基本戻ってきさえすれば外で食べてもいい。
普段よく一緒に出かける、委員長と大吾と共に彩愛を連れて出てきている。
個人的に委員長が彩愛にお昼に誘い、智則を巻き込んで大吾はオマケでついてきた。
今は商店街の方にあるファミレスに入っている。

大吾

まーでも、志木さんの歓迎も含めての昼飯だ
オカズは俺が奢るぜ?
イモでいいだろみんなで食うし

委員長

変に太っ腹ね……
飯島、何企んでるの?
場合によっては先生にチクるからね?

大吾

ただの奢りだよ!
何企むって!?
俺そんなキャラじゃねえよ!?

委員長

どうだか……
わたしは志木さんのドリンクバー出しておくよ
男子は自分で払ってね

智則

俺はほうれん草のソテーでも奢るよ
志木、遠慮するな

彩愛

ありがとう、智くんに委員長
飯島君もご馳走様です

大盤振舞でみんな優しかった。
その気遣いが、妙に彩愛の心にしみる。
歓迎されているなと、感じる。

委員長

ただ、気を付けてね
うちのクラス、変態が多いから
そこの飯島とか

大吾

俺っすか!?

委員長

飯島以外に誰がいるの?
小田君は絶食だから無害でしょ
ハーレムってみんないうけど悪い噂はないよ

大吾

いやまあ確かに……
志木さんに告られて速攻断る奴だからなぁ

絶食系とか、性欲が枯れ果てているとか言いたい放題。
大体あっているので否定はしない。

智則

色々あってな
俺もそろそろ本腰を入れようと思う

と、一応この二人には話しておくことにした。
なんだかんだ、彼女たちのいない学校じゃよく一緒にいる方なので。

委員長

本腰?

大吾

ってーと?

興味があるようで、先を促す。
智則はお茶を飲んでいる彩愛を一瞥して言った。
彼女は聞いていないふりをしてメニューに手を伸ばす。

智則

恋愛を、学んでいこうと思っている

見開いて注文を決めている彩愛は瞬間的に紅くなった。
恥ずかしいというよりは、照れくさかった。
彼は決意を二人に語る。

委員長

…………

大吾

…………

委員長

小田君、頭でも打った?

大吾

智則、ゲームと現実の区別ついてるか?

酷い言われようだった。

彩愛

失礼なこと言わないで
彼は真剣なんだ

珍しく膨れた彩愛が嗜めて、注文を取りに来た店員に全員で頼む。
彩愛はシンプルな塩のパスタ、智則はカレー、大吾はラーメン、委員長は鯖の定食だった。

委員長

あ、ごめんごめん
意外だったから

大吾

嘘だろ!?
我関せずのお前が重い腰を上げるのか!
ちょっと読めない展開になってきたな……

真面目に恋愛に無関心だと思われていた。
興味を持ち、考えてみるといっただけでこの反応。
恋人ができた日にはどんなリアクションをするのだろう。

智則

お前らは俺をなんだと思ってんだ

委員長

恋愛不向き

大吾

釣られた方が不幸な奴

智則

否定はできないな
そのとおりだよ
だからこそ変わろうと思うんだ

よく見てる。その通りの指摘だった。
高校に入ってからは同じクラスの二人だ。
結構仲良しだと思うのは気のせいじゃない。

彩愛

…………

不意に、彩愛は。
委員長に視線を送っている。
怖がっているような……。

委員長

どうかした志木さん?

彩愛

いや、何でもない

気づかれて、慌てて頭を振る。
それを委員長は、大吾を睨んだ。

委員長

ほら飯島、もう怯えられてるじゃん
飯島のせいだよ

大吾

俺今何かしたか!?

原因を大吾のせいだと思っていたようだ。
本当はその視線の意味は、別のところにあるのだが。

智則

あずさが言ってたぜ大吾
お前は存在自体がセクハラだってな

大吾

あの人、俺に何の恨みがあるんだ……?

智則

莉子もなんかお前のコト嫌いみたい
性格的に悪寒するって

大吾

あの雪野さんまで!?

智則

和美はお前のこと覚えてねえからな
存在すら認識されてねえぞ?

大吾

ひどくねえそれ!?

みんな大吾の事は酷く扱うのはデフォだ。
道化師みたいな奴だが、結構良い奴だと智則は思う。
馬鹿なことばかり言ってるが真面目に考えるときはキメる男だ。

委員長

わかるよーそれは
飯島顔はいいけど中身最悪だしね

大吾

委員長、喧嘩売ってるよな?

委員長

やめたほうがいいよ?
わたしこう見えて合気道と槍術習ってるから
投げ飛ばされるか突き飛ばされたい?

彩愛

今時槍術なんてあるんだね……

睨み合う委員長と大吾。
彩愛の驚きもそうだ。珍しいモノを習っている。
委員長は棒を持つと恐ろしく強い。
あまり知る人はいないが、犠牲になった愚か者はいる。
そうこうしているあいだに、料理が届く。
食器に近かった智則は三人にそれぞれ配る。

智則

いただきます
前に、委員長とやりあったときはすごかった
俺普通に叩きのめされたんだよ

彩愛

智くん、武器持ってる相手と戦ったの!?

パスタをフォークに絡めながら問うと、肯定。
委員長も照れて笑う。大吾は青くなっていた。

委員長

あはははは……
ただの試合だったんだけどね
エスカレートしてって何時の間にか……

大吾

あれ試合じゃなくて死合だろ……
マジものの殺し合いだってうん、絶対

その時を思い出すと身震いする。
放課後、個人的な委員長の練習相手に、よくじゃれ合いをしていた智則が名乗り出て、いざやってみたらえらいことになった。
委員長はその日から一週間、休んだほどだ。
智則も似たようなもんだった。
玲美やあずさ達に看病されたのは良い思い出。

委員長

負けたって言っても試合だけでしょ?
勝負はわたしの負けだったよ

大吾

智則器用だよなぁ……
委員長に怪我させなかったし
あれだけの猛撃食らっておいて

感心する二人。試合は智則のKOで委員長の勝利。
但し、槍術といってもあくまで護身のためであり、自らの攻撃は最低限が前提だ。
智則はどちらかというと攻撃を捌ききれるかに着目して、武器を中心に攻撃していた。委員長は狙っていない。
自分から、得物に突撃していったのだ。
それが委員長にはプレッシャーになったらしく、つい本気になった委員長とそれに合わせてついていく智則。
互いに歯止めが効かなくなり、最終的にはこの始末。
委員長は智則の猛攻に熱くなって、攻撃頻度を上げたこと自体が負けだと言って譲らない。
だから試合に勝って勝負に負けた、という。
尚、智則は武器を使っていない。
拳と蹴りで、それを守る簡単な防具ぐらいなもんだった。

智則

今朝、お前モップ武器にしただろ?
あれを委員長が同じ状況で使ってたら、今この場に俺はいないぞ?

大吾

そこまで行くのか!?

智則

委員長は突きが主体だ
先制で喉笛潰して決めていた
やらないだけで、出来るらしいぜ
なぁ、委員長?

巫山戯て線の攻撃をしていた大吾よりも、委員長のそれは範囲は狭いが速度は段違いだ。
不意打ちのシチュも鑑みて、智則は一発でノックダウンだ。

委員長

ほ、褒めすぎだって……
わたしの突きなんて先代に比べたら甘いし
精々等身大の藁人形貫く程度だよ?

彩愛

……それ、護身術のカテゴリー?

どんな修行していたんだろうこの人。
精々でその威力って、先代なる人はどんなものだったのか。鯖をハシで切り分けながら顔を赤くする委員長。

大吾

それとやり合うお前も化け物だよな智則

智則

お前見てただろ
あれのどこがやり合うだよ
一方的だったじゃないか

委員長

ごめん、それだけは有り得ない
わたしの一撃を初手で見抜いたの小田君だけだから

彩愛

智くんも半端じゃないんだね……

何というか、想い人もかなり恐ろしい部類に成長してくれたもんだ。あの頃から確かに喧嘩は強かったけど……。
彩愛は少しだけ、智則のスペックがわかったのだった。

喧嘩強いとかお前は以下略

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