どのくらい走っただろうか。


実際には5分ほどしか経っていないのだが、

突如訪れた恐怖に感覚が狂わされてしまっていた。

通りなれた道、短い直線の道でさえ迷路のようだった。

追ってくる影のような人間の顔はノッペラボウで、

他にこれといった特徴はないが、

ただ……。

不気味で怖いというのは感じとれた。

ほとんど走りに自信がないのだが、

夢中で駆け出していた。

助けてと叫びたくても、

そんな力は無く、

ただ、走り続けた。

さらに、

2分程して大きく息を切らしながら呟く。

あと、少しで……、
家に着く。

ググガ……。

その呟きの直後、そいつは速度を上げた。

焦った敬介は自宅近くの公園に逃げ込んだが、

入ってすぐの石段で転んでしまった。

敬介に追いついた影は、

手を挙げて覆い被さろうとしてきた。

その一瞬で、

親孝行できないこと、

美咲とデートできないこと、

様々な後悔が、

走馬灯のように頭の中を巡った。

もうダメだ……。

もうだめだとあきらめかけたその瞬間だった。

少し目を閉じてしまっていたのだが、

その音が聞こえた直後に、

影のような人間が青白く輝き出した。

ギャアアアア!!

すると、

その光に包まれた影は一瞬で消え去り、

辺りに静けさだけが残った。

えっ?!

そして、何も考えられないまま公園を後にした。

帰宅した敬介は、

夕食時でさえ家族との会話もないまま、

自室へと向かった。

無言でベッドに倒れこみ、

目を閉じた。

俺は、生きてるん……だよ、な……

誰に聞くわけでもないが、声が漏れた。

家に着いた安心感からなのか、

涙が溢れ出した。

ただただ、涙が流れ、

気づけば眠りにつき朝を迎えていた。

第1章-力の目覚め編-(7話)-襲いくる影-

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