敬介が叫び声をあげてから、

1分くらいが経ったであろう。


美咲や周りにいた生徒達も同じく1分くらいは敬介に注目していたが、

すぐにいつもの生活に戻っていた。

あはは。
覚悟できてるって言ってたから、
てっきり感づいてたのかと……。

ごめん。
いきなりデカイ声だしたりして。
まぁ、覚悟は別のなんだけど。

よくよく考えたら、

美咲は冗談で言ったのだろうが

緊張のせいで変な妄想をしてしまっていた。

しかし、

取り憑かれてると言われてもピンとこないだろう。

さっきの冗談だよね?

冗談じゃないよ。
本当に取り憑かれてるの。
なんか……、
うまく説明できないんだけど、
とにかく危険な状態なの!!

美咲の顔は真剣な表情に変わり、

言葉一つ一つからもその重みが伝わってくる。

最近、
不幸なこと起こらなかった?

不幸って言われても……。
あー、そういえば昨日の夜に本屋に行ったんだけど、帰りに自転車の後輪がパンクというか裂けちゃって……。
これくらいよくあることなんじゃないの?

美咲の顔が時々不安そうになるのだが、

自転車のパンクくらいで霊のせいにする訳にもいかないからなぁと思う。

本気でからかおうとしているのか、

本当のことなのかよく分からなくなってきているが、

なぜだか信じてみることにする。

わかった。
信じるよ。
でも、それなら俺はどうしたらいいの?

敬介の表情も真剣になり、

ゴクリと唾を飲み込む。

かなり受け入れづらいような話もあるから、
明日ゆっくり話したいんだけど……。
どうかな?

明日……。

今日は月曜日なので、

本来であれば明日は学校なのだが、

この茜桜学園高校は創立記念日で休みなのだ。

大丈夫。
早く解決させたいし。

本心は、

ちょっとしたデート気分を味わえるかも……。

と思っているのだが、

美咲に悪いので頭を振ってその考えも止めた。

よかったー。
そしたら明日の正午に楽坂(らくさか)公園の時計台の下で待ち合わせね。

楽坂公園とは、

例の曲がり角のある交差点の近くにある

少し大きめの公園のことだ。

自然が多く、

休みの日にはカップルなどの憩いの場にもなっていたりする。

オッケー。
そしたら明日ね。

うん。
じゃあ、気をつけてきてね。

美咲が去っていき、チャイムが鳴った。

やばっ!!
昼休み終わっちゃうじゃん。

コロッケパンを握り締め、

教室へと走った。

まさか、
放課後残されるとは思わなかったな。

すでに外は暗くなり夜の7時になっていた。

なぜ放課後残されてしまったかというと、

昼休みに班の当番で

掃除をしなければいけなかったが、

美咲との話に夢中になっていたために、

忘れてしまっていたのだ。

担任は遅刻を大目に見てくれるのだが、

班の仕事などに関しては厳しく、

罰として廊下の掃除をさせられていたのだ。

それで、帰宅がこんな時間に。

早く帰って、
明日の準備しないとな。
女の子と待ち合わせなんて初めてだし。
何着ていこうかな。
どこでご飯食べるとかも考えといたほうがいいのか。

急いで帰ろうとしているのだが、

明日のことを考え出してしまい歩く速度が遅くなっていく。

だんだんと自分の世界に入ってしまっているせいで、

電柱にぶつかりそうになったりもしている。

そこで我に帰った時だった。

オマ…ヲコ……テトリカエス。

静かな夜で周りに人はいない。

しかし、
敬介の耳にははっきりと聞こえた気がしていた。

ん?
なんだ今の。
取り返す?
いや、気のせいか。

立ち止まり、

振り返ったのだが、

その言葉を発した者はいなかった。

そして、再び歩き出した。

しかし、

何か胸騒ぎがするような気がして再び振り返ると、

道を照らす街灯の辺りから

突然影のような人間が現れた。

グ…ギ…グウ……。

なんだ!!お前?!

普通の現れ方ではなかった。

何もない空間に、

まるでテレポートしてきたかのように。

そいつは徐々に近づいてきた。

コロス!!

非日常的なことは予期せぬタイミングでやってくる。

敬介は、逃げるためにがむしゃらに走り出した。

その影のような人間から逃げるために

第1章-力の目覚め編-(6話)-約束と非日常-

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