智則

ん?

休み時間、女子達に根掘り葉掘り聞かれている彩愛を尻目に、自分の携帯電話にメールが入っていた。
確認してみると、送り主は玲美。

玲美

大切な用事があります
今すぐ、いつもの場所に来てください
玲美

大切な用事があると幼馴染からの一報。
無視できるような内容じゃないことは明白。
ふむ、とハーレム王は悩む。2秒で解決。

智則

志木

彩愛

なんだい?

遠巻きだったにもかかわらず、一声で反応する彩愛。
智則は、唸り声を上げていた大吾の嫉妬を一瞥しながら言う。

智則

すまない、急用が入った
今から帰らないといけない

彩愛

急用?

智則

あぁ、急ぎのようだ
悠長にしてる暇はなさそうだ

一見すると素っ気ない態度で智則は言い出したように視える。自分から言い出しておいてこの始末。
が、こいつの性格はこんなもんである。
サボって帰ることにした。優先順位は玲美が上位だ。
厳しい目で女子が見る中、頭を下げて謝る。

大吾

智則、貴様ァ……!

低い声で唸る大吾含めた数名の男子。
妬み全開だった。

智則

埋め合わせはいつがいい?
なるべく時間を作りたい

彩愛

…………

彩愛は少々、考えてから返す。
非常に意味深な言葉で。

彩愛

それなら、気にすることはないよ
どうせいやでもまた逢うんだから
だから、先に行ってくれ

智則

猛烈に嫌な予感がしたぞ
お前、まさか……

智則

いや、気にしてる場合でもないか
じゃあまたのちほど
あと、これが俺の番号だ
何かあったら連絡くれ

なぐり書きしたノートのページを切り取り、紙飛行機にして飛ばす。
彩愛は難なく捕まえた。

彩愛

ありがとう、また夜にでも連絡するよ

智則

了解、悪かったな

彩愛

早く行きなよ、待ち人が待ち焦がれる前に

嫌な予感はするが、取り敢えず急がないと。
智則はすぐに教室を出ていった。
その背中を見送りながら、彩愛は周囲に言う。

彩愛

話の途中でごめん
確か私と彼の関係、だったかな
前は、友達同士だった
今は違うけどね?
私達は子供の頃、大切な約束をしてるんだ
彼はどーやら、忘れているようだけど

彩愛

まぁそのうち、思い出すだろう
これで役者は揃ったんだ
私は負ける気も譲る気もない
言っちゃえば彼のハーレムに戦争を仕掛けたということさ

彩愛

あの告白はネタじゃないよ?
出し抜くって意味での宣戦布告、かな
これから修羅場になるだろうからね
多分明日には刺されてるかもしれない

彩愛

まぁ、最後に勝つのは絶対に私だけど

と朗らかに笑って堂々と好きを公言する。
ハーレム王を攻略しに行く度胸。
大吾の知り合いたちから彼女はのちに『攻略系女子』と呼ばれることになるのだった……。

玲美

来たようですね、智則

智則

すまん、走ってきたけど遅れた
それで、何事だ? 何があった?
俺にできることなら言ってくれ

玲美

落ち着いて、智則
大事じゃありませんから

待ち合わせはいつも出かけるときに集まる公園。
その遊具の前に、彼女はいた。
一人携帯を弄りながらゲームをして突っ立っていた。
玲美には良く見せる、焦りを浮かべながら彼は駆けつけてくれた。
分かっていたことだ。こう言えば、必ず彼は来る。

智則

……なんでもないのか
ではどうしたんだ?

玲美

敵が現れた、それだけです
それをお伝えしようと思いまして

本題に入ると途端、玲美は顔を顰める。
アレは普段他人に対して使っている、仮面。
冷酷で、冷徹と呼ばれる冷たい女の表情。
それを見せたってことはそれだけ重要なのか?

智則

敵、とな……?
その話、詳しく頼む

玲美

ええ、説明します
私達の間柄を邪魔しようとする輩は既に存じ上げているかと思いますが

玲美はそう言って逆に問う。既に知っている?
該当するのは一人のみ。

智則

……?
ウチの高校にきた、転入生のことか?

玲美

はい、奴の事です
幼少時にここいらに住んでいた女ですよ

玲美

私の知り合いでもありますし
丁度運悪く、今朝顔を合わせました

玲美

あの女の転入先は智則の学校でしたから
早めに知らせようと思っていたら、用事が伸びてしまいました
申し訳ございません

玲美はもう、彩愛に会っていたらしい。
決して名前を呼ばないのはかなり警戒している証拠。
彼女は嫌いな奴は名前では呼ばない癖がある。
これは、相当毛嫌いしている。
一番付き合いの長い少女だ。
彩愛のことも当然知っている。

玲美

良くないことを考えているようでしたし
……やはり、何かされましたか?

智則

あぁ、もうやられた

隠す必要もないので、あっさりとバラす。
自分の首を絞めていることは知ってる。
でも隠し事をしてもどうせバレるのだ。
白状したほうがまだいい。

玲美

……不愉快な

顛末を語ると、不機嫌が悪化した。
底冷えする声で、腕を組んで舌打ちする。
仲間内では常に優しげにしている彼女にしては、珍しい事をするものだ。かなりイラついている。

玲美

非常に不愉快で、気に入らない
何の権利があって、そのようなことを……

智則

……

苛立っている理由は、仲の良い智則にちょっかいを出してきたからだと推理する智則。大外れである。
もっとシンプルで分かりやすい問題なのだがこの鈍感にはわかる訳もない。

玲美

まったく、私たちは平和にやっているのに、そこに石を投げ込むマネをしてくれて……

玲美は小さい頃、あいつが特に苦手だった。
まず天敵。たまに言い合うあずさよりも性格が合わない。
ぶっちゃけ、二度と会いたくなかったのが本音。
あいつは……疫病神と大きな違いはないのだ。
みんなで支えるこの空間、この関係、この生活を奴は再会ですぐにメチャメチャにしてしまった。
これではもう、修繕不可能だ。
向かう先は、修羅場の世界でしかない。

玲美

でもまぁ……逆手に取らせてもらいましょうか

奴がやりたいことは全面戦争だ。
上等だ、挑発されたら乗ってやる。
勝ち目など与えない。奴の存在は災害と同じ。
すべて壊されている今、均衡を守る必要もなし。
そっちがその手なら、対抗するまで。

玲美

智則、ちょっとこっちに来てくれます?

智則

ん?

呼びつけられて、不用意に近づく智則。
首を傾げながら寄ってくる。
もっともっとというと、言葉通りに近寄る。
まるで警戒しない。それだけ信頼されているという証。
これが、言葉の代わり。行動で、示す。玲美の気持ちを。

チャンスっ!

玲美

んっ……

智則

うぉ!?

が、流石我らのハーレム王。
目を閉じて顔を近づける玲美。
それに寸前で気が付いた。
慌てて避けて、足が縺れた。
 玲美の方に前から倒れ込む。
目を開けると、迫る智則の顔。
嫌な予感が過ぎる。

玲美

にゃっ!?

智則

嘘だろッ……!

玲美

み゛ッ!?

智則

ぬがッ!

互いの顔面強打。
珍種の猫よろしくな声を出して悶える玲美。
智則も似たようなもんだ。
顔を押さえて二人して真昼の公園で屈んで震える。

何か唇に柔らかい感触が残っていたりいなかったり。
智則、混乱。
何が起きたのか、すぐには理解できなかった。
玲美は一応、魂胆成功ということで、口元を押さえながら立ち上がる。

玲美

まったく……避けないでくださいよ、もぅ……

智則

玲美、流石に笑えないぞ……
冗談じゃないとは思うけど、お前の場合は……

智則も状況を整理して何となく分かった。
どうやら、最後の一歩を踏み出した、程度のことは。
前から感じてなかったわけじゃない。
気にしてなかっただけだ。それはそれでどうかと思う。
要するにこいつは、玲美の好意を知っていても、関心がなかったから放置していた、ということで。最低である。

玲美

まぁ……これでもいいですよ
言葉にしなくても、理解はしたでしょう?

智則

……まあな
俺はそう言われても、困るんだが

で、こっちにその気がない場合はどうすればいいんだ。
付き合うとかに興味のない智則は何時も通りだった。
玲美は改めて、居住まいを直し肩を竦めて言う。

玲美

前から薄々感じてはいたんでしょう?
特に私もわかりやすいクチですからね

智則

……

何も答えない。何とも言えない。
特に気にしてなかった。智則はそれが全部。
つまりは、無自覚で裏切ってさえいた。
それは、悪いと本当に反省したいとは思うけど。

玲美

大好きですよ、智則
貴方と出会ったあの時
この場所から、ずっと

玲美

誰が貴方を好きだろうが、私が好きでいたって別に構いませんよね?

クールに小っ恥ずかしい事を言う玲美。
あくまで、彼女も平然を装っている。
そういえば、小さい頃初めて玲美と出会ったのはこの公園だったことを、ふと智則は思い出していた。
だからあの時、この場所で……と言ったのか。

玲美

安心してください
私は付き合えとは言いません
この曖昧な関係を肯定します

玲美

本音を言えば、私は全員好きですよ
あずさも、和美も、莉子も
全員が仲良くできる環境を強く望みます

玲美

まぁ俗に言うダメな関係がいいんですよ寧ろ
一人に絞れとか独占とか、私にはありません
みんなと共有大歓迎ですので
壊さなくてもいいんですよ今の関係は
ハーレムですが何か?
私は気にしませんどころか推奨しまくりです

玲美

ただ、あの女だけは絶対に許しませんが

玲美はあくまで敵は彩愛一人だけだと言っている。
彼女の言う仲良しは普段のみんなのことで。
他の子たちがどう言おうが、玲美はこのスタンスで行く。

智則

……特に、興味ないんだけど……

玲美

ですよね、恋愛絶食の智則ですから
他の子なら大泣きしますよその返答

本音で返すと笑って流す玲美。
ダメな人間同士、寄り添い合いしてもいいと言う。

玲美

興味がないなら、これから作りましょう
強要はしませんけど
ただ少し意識してもらえませんか?
異性というものを、愛情というものを
少しずつ、知っていってください

玲美

私で良ければ、どんなことでもお答えしますから
たとえそれがどんな変態的行為でも

智則

うん、そうだな……
興味ないじゃなくて、真面目に考えてみる

ここまで譲歩されたらこちらも考えないといけないだろう。
智則は前向きに恋愛というものを知ろうと、決意する。
本当に今更な決意だった。

ハーレム王、二人目の告白。
ラブコメチックに顔面接触でキスを経験した!
感想!
余韻もなくただ痛かった!

???

ぐぬぬ……玲美に抜かされたぁ……
きぃぃぃぃーーーーーーー!!

何してんだマジでお前は以下略

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