--あれから30年後…




私には8人の孫がいた。



















……一心さんとの約束は守れなかった。



























しかし、世の中は思いのほか、


優しくできていた。


















お見合いで旦那と出会った私は、


家族に囲まれ暮らしていた。





自らを卑下していた若い頃からすると、


想像もできない未来だろう。







けど、あの奇異な出来事がなければ、



私は何も変わらずこの未来も無かった。







美咲

……私が前向きになれたのも、一心さんのおかげね。








夢か現実かわからない思い出だけど、



それだけは真実だと思う。




























――そうやって私は




一心さんとの記憶に蓋をしていた。






























ある日のこと。













一美

ねーねー!
おばーちゃーん

美咲

一美ちゃん、行けませんよ、
お家の中を走っちゃ。




駆け足でやって来たのは


孫の一美だった。




一美

おばあちゃん、この板なぁに?



一美が私の部屋の


道具箱から持ち出してきたもの。






それは、ボロボロのケースを纏った


スマホだった。

美咲

一美ちゃん。それねぇ……。それは昔のこれだよぉ。




私は胸の前に手を出し、


親指と小指を立てて握る。





すると、チョーカー型デバイスが形状を判定し、


映像をマッピングする。




一美

へー。
これ電話なの?

美咲

そうよぉ。

一美

昔はこんななんだぁ。
壊れやすそうだね。

美咲

ふふふ、ホントそうねぇ。




一美の言葉に苦笑いする私。


美咲

でも懐かしいわぁ。
まだ動くかしら。




私はチョーカー型デバイスから


NanoSIMを取り出して変換アダプタに差し、


スマホへと入れる。






充電器を繋ぎ電源ボタンを押すと、


画面が表示される。






一美

動いた!

美咲

まったく、丈夫なんだか壊れやすいんだか。



一美はしばらくの間


スマホを弄っていたが、



50年前の遺物で使える機能はごくわずか。

一美

面白くなーい



当然のごとく


すぐに飽きてしまった。

美咲

……見た目は同じだけど、
このスマホには思い出はないわね。



私にとってもこのスマホは


もはやただの液晶パネルでしか無かった。




しばしの郷愁に浸り満足した私は


電源を切ろうと手を伸ばす。












――その時だった。














『メール受信: 1件』












スマホの画面に


メールの通知が表示された。





美咲

……え?
どうして今?




一体なんだろうと、通知をタップし


表示された件名を見る。




美咲

ハッ……





















『Re: 一心さんへ』

























Re:

つづく

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