室秀

隊長、お時間よろしいですかな?

海石榴

室秀(むろひで)か。どうした?

室秀

先日より続いている蝶の突然消失事件ですが、昨日も杉林で1人確認されました

海石榴

また杉林か……。妙だな

室秀

ええ。おかしなことに杉林でのみ、蝶の消失が確認されている。やはり死番蝶の仕業でしょうか

海石榴

……何とも言えんな

室秀

杉林を進入禁止区域にされては?もし死番蝶が大量発生しても被害は抑えられるでしょう

海石榴

そうだな……

海石榴

室秀、杉林一帯の捜索を頼めるか?もし死番蝶が杉林に移動しているのなら、早急に始末しなければならん

室秀

では、私のお願いの方も聞いてくださいますか?

海石榴

光国を次期隊長に……だったか

室秀

彼はまじめで実直な人です。人を導く才もないとは思えませんし、適任とは思いませんか?

室秀

尤も、隊長がご子息に継がせたいと仰るなら別ですが?

海石榴

……俺は、公私混同はしない

海石榴

いいだろう室秀、それも加味したうえで杉林の件をお前に任せよう。頼んだぞ

室秀

御意に♪

光国

死番蝶が多いな……喬が怯えてしまう

何羽の蝶を斬っただろう。

死番蝶がここまで増えたのは、喬を狙っているためだろうか。



さっきまで自分が追っていた蝶も死番蝶に見えてしまった。

そもそも、私の仕事は何だったろうか。


喬と過ごしている時間があまりに幸せで、自分の仕事すら忘れてしまう。

喬さえ傍にいればいい
愛する喬さえいてくれれば、他に何もいらない。



そう、当然のように思うようになっていた―――

室秀

…………光国?

光国

えっ…………

知り合いだ。
それも、私の古い友人だ。


卯紗と琉衣の兄である、室秀が、そこにいた。

室秀

何故……ここにいる?

光国

私はっ…………

光国

死番蝶が出ると聞いて、退治に……

室秀

自分が何を言っているのか、分かっているのか!?

光国

…………!!

室秀

周りを見てみろ!君が殺したのは死番蝶だけじゃない!魂の蝶だ!!

自分が守るべきはずの蝶を斬っていた……?

私は斬っていたのは死番蝶だけだと、言い返すことができなかった。


そもそも、私は何故蝶を殺していた?
蝶に怯える人がいたのではなかったか……

光国

そうだ………

私が蝶を「駆除」していたのは、喬が怯えるから。


あの美しい人に、憂い顔なんて似合わない。
彼女が不安になる要素は、すべて取り払わねばならない。


それには、死番蝶だろうが夢見る蝶だろうが関係ない

室秀

光国、友人として言うが、君はもう休んだ方がいい。ひどく顔が青いし、疲れてるんだ

室秀

杉林のことは、私に任せておきなさい

何故だろうか。

本来なら友人をいたわる発言であるそれが、私は素直に受け取ることが出来なかった。


それがあまりに歪に変化して私の心に伝わり――

こいつは




私から




喬を奪う気だ

室秀

もし光国がこの犯人だとしたら、隊長の座は絶望的になるが……

室秀

……どうやって偽装する?万が一バレれば妹たちにも迷惑がかかる。いや、どのみち悲しむことにはなるか……ならばせめt

室秀

がっ……?

室秀

光……くに…………なぜ……っ?

光国

お前が喬に手を出そうとするからだ

室秀

きょ…………?

光国

私から、喬を奪うな!!

光国

…………お前がいけないのだ

光国

…………喬、来たぞ

……光国様

どうか、されたのですか?どこかお疲れに見えます

光国

心配ない。虫を駆除しただけだ……

坂道に差し掛かれば、球は否応なく加速して堕ちていく。


その先が地獄だろうと何であろうと、転がり始めれば止められない。

幸福の先に待つのが悪夢だとしても、私はもう止まることはできない。






引き金を引いたのは自分自身だから。

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