卯紗

お待たせしました。こちらお持ち帰りになります

どうもありがとうございます

行こう、お母さん!

ええ。では失礼します

琉衣

またいらしてくださいね

光国

今の人達……見ない顔だな

卯紗

たまーに来るお客様ですよ?北の方に住まわれてるそうで、わざわざ買いに来てくれるんです

琉衣

毎度毎度買いに来てもらうのも悪いし事業展開も考えてるんだけど、私達二人しか従業員いないし、バイト雇っても不安でしかないし

卯紗

いっそのこと、光国さんが掛け持ちしてはどうですか?夢見人と菓子屋を

琉衣

だったら優先度は夢見人:菓子屋で9:1だな

光国

勘弁してくれ……

あれから幾日か経ち、仕事をこなしながらも毎日のように喬のところに通っている。


いつものように、笑顔で私を迎えてくれる喬。

彼女の姿を見るたびに、心から安心し、同時に心から不安になる。



彼女がいつか私の前からいなくなってしまうのではないか
「いつか」のことに非常に臆病になる。

今が幸せだと知っているからこそ、その幸せが消えてしまうことを今から怯えているのだろうか。




今の私は、本当に幸せなのか?

そんな疑問は、いつも彼女の顔を見るたびに消えていった。

光国

…………あれは?

光国

死番蝶……か?

死番蝶は、この世界で唯一夢を見る蝶を脅かす存在。

この世界における「バグ」とでも言おうか。


こいつらは夢見中の蝶を捕食する。

カチ、カチ、カチ……と、どこにあるか知れない歯を鳴らして。


夢を見ながら飛んでいる蝶を、まるで死へと招き入れる番人のような存在。

それが「死番蝶」といわれる所以だ。

光国

しかし、何故死番蝶がここに……?この辺に蝶はいないはずだが

光国

…………まあいい

光国

……蝶は、喬が怯えるのでな

蝶が舞い降りる……夢はもう終わり

光を避け続けた者が帰る場所は、きっと闇

誘われた虫は、掴んだ手が焔であることに気づかぬまま抱き寄せる

身が焦げ果てるまで、虫は幻に気づかないだろう――――

光国

喬、遅くなった

お待ちしておりました、光国様

室秀

あれ?目が覚めてしまったのかな?

室秀

他の子たちを見てる途中で1人だけはぐれちゃったから、急いで戻ってきたんだけど……

室秀

なーんか、腑に落ちないのよねぇ。誰かに襲われでもしたのかしら?

気づいていなかった。
ただ、それだけのこと。

なにせ月明かりが出ていたとはいえ、暗闇の中だ。


蝶の青色が死番蝶の紫色に見えることくらいありうる。




そう、思い込んでいたんだ。

自分に言い聞かせるかのように。

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