夜というものは実に憂鬱だ。

来客が非常に多い。




当然だ。

なにせ、大半の生物は夜に寝ると相場が決まっている。

それはすなわち、私達の仕事が始まるというわけだ。

光国

おーい、もう少し落ち着いたらどうだ?

光国

楽しい夢を見てるのならこちらも望むところなんだが……ちょっと目移りしすぎじゃないのか?

光国

ついさっきまで町中にいたじゃないか……色んなことをしたがる蝶だなこれは

人の魂は夢を見てる最中や亡くなった場合、蝶となってこの世界をさ迷う。


何故蝶となるのかは誰にも分からないが、昔隊長が「蛾なんかじゃない分視覚的にましだろう」と言い放っていたため、おそらく誰も理由を知らないのだろう。

ともあれ、その蝶をなるべくしてちゃんと現実に帰るまで見届けるのが、この世界の、ひいては私の役目だ。



光国

随分と遠くまで来てしまったな。ここで目が覚められたら帰りが面倒だな……

光国

え?ちょっと―――

光国

本当に最悪なタイミングで目覚めてくれたな!私達の瞬間移動は君達を見てる間しか使えないんだぞ!

夢見人の特権として、瞬間移動・もしくは空間移動があげられる。

夢の世界は現世と同じくらいに広大だ。
そして、夢というのは幾度も場面を変えていくものだ。


まぁ夢を見てる本人達はどんな内容の夢を見てるのか知らないが、こっちとしてはただひたすらフワフワ飛ぶ蝶を追いかけるだけだ。


これが「仕事」なのだから笑えてくる話だ。

なお、空間移動は仕事以外での使用は禁止されている。
海を越えた場所まで移動してしまった場合は例外として許されるが、基本は徒歩で帰ることになる。


勿論、短距離間を空間移動してサボることもできなくはない。




だが、正直に言って、それは私はしたくなかった。

規則とは順守するためにあるものだと思っている。
規則を破るものをたしなめることこそないものの、自分がやって気持ちよくはないからというのが本心だ。

光国

ここからだと歩いて1時間か……あれが最後の一羽だし、さっさと帰るとするか

光国

……ん?

林の奥で、一瞬明かりが見えた。

この付近は居住スペースとして認められてはいないはず。

無断で家を作り、住んでいるのだとすれば結構思い罪のはずだ。


私は一応これも「仕事」だからと見に行ってみることにした。

思えば、これがすべての始まりだったのだ――

辿り着いたのは立派な屋敷だった。

昔、何かの儀式で使われた跡だったのだろうか。
少なくとも私は一度も聞いたことがない。



今は明かりは消えているが、用心深く腰の刀に手を置く。
この世界に賊がいるとは信じがたいが、私には理解しえぬ物が眠っているのかもしれない。

気配を殺して障子の傍まで近づく。
うっすらと、人の影が視認できる。

武器の類を持っているわけでもなさそうだ。


光国

疑わしければ……即座に斬るっ

今一度己の心に言い聞かせる。

呼吸を新たに…………障子を開けるっ

光国

なっ………!!

…………?

そこにいたのは、あまりに美しい女性だった。

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