あるところに



仲睦まじい夫婦が暮らしていました。





二人は大学の研究室で出会い、結ばれました。



そして、夫婦は二人の子をもうけました。












1人は男の子。



名前は凪《ナギ》。









もう一人は2歳年下の女の子。



名前は奈美《ナミ》。

































凪は聡明で賢く、




奈美は朗らかで心優しく育ちました。















4人は仲良く幸せに暮らしていましたが、




その幸せは長く続きませんでした。




























父親の高光《たかみつ》が




病で若くして他界したのです。












凪 10歳、奈美 8歳の時でした。





























そして、父親の他界した4年後。




にゃー




女の子が12歳になった誕生日の日、




それは起こりました。





























女の子が家で留守番をしていると



父親の代わりに家族となった猫が、



家の外へと出てしまいました。





















心配した女の子は猫を探しに外へと出ました。


















家の裏。




公園。




隣の家の塀の内側。




植栽の隙間。
















女の子は猫がいそうな場所を



しらみつぶしに探しましたが



見つかりませんでした。




















夕日で空が赤く染まる頃、



猫を見つけられない女の子が



家の前へと戻ってくると、



家の前の道路際にいる猫を見つけました。









安心した女の子は猫のそばへ駆け寄り


しゃがみ込んで猫を優しく抱き上げると


すっと立ち上がりました。








その時です。























激しいめまいが女の子を襲いました。





















そして、女の子は




ふらふらと車道へとでてしまい……。




































































帰らぬ人となった女の子とその飼い猫。


















変わり果てた姿となった女の子を前に


母親は神をも畏れぬ所業を


思いつきました。












「この子を生き返らせよう」














遺伝子学の権威であり、


先端クローン産業の第一人者である母親には


それは実現可能な状態にありました。









しかし、その道は困難を極めました。









母親はあらゆる手を使い、


環境を整え、


法を整備し、


新たなクローン技術を確立しました。






これらのクローンのために


用意された物を取りまとめて、


全知全能の神になぞらえ


ゼウス環境と名付けられました。











そうして臨床試験の名の下、



一般公募の検体と共に



関係者の親族として



1人の女の子が作り出されました。














女の子はR-クローニングにより



8歳から人生が始まりました。













順調に育った女の子は



複製元の女の子の年齢を超える頃、



こう呼ばれるようになりました。























他界した娘、奈美の未だ見ぬ姿。





未奈美(ミナミ)と。





































公開!
始まりの物語!


















ミナミ

ハァ……ハァ……

ゼア

どうした!ミナミ!

おーっと、
ソウルパニッシャーズの
ミナミちゃんが
倒れてしまったぞー!

これは大丈夫か―!?

ゼア

……もしかして……。

ゼア

ゲオライトスキャン!

ゼア

何てことだ!
ミナミゲオライトがほとんどない!






舞台袖からミナミの元へと走るゼア。



ミナミ

ゼア……どこ……?
ゼア……行かないで……。

ゼア

ミナミ、俺はここにいるぞ。
これを口に加えろ!




ゼアはミナミの口元に


ゲオライトタンクを寄せる。



しかし……。

ミナミ

どこ……、ゼア……、どこにいるの……。

ゼア

ダメだ、意識が混濁してる。



ミナミはゲオライトタンクを


口にする事すらできない。




ゼア

何とかしてミナミを落ち着かせないと……。





その時、ゼアはナギから渡された


A-クローニング錠剤を思い出した。


ナギ

ミナミに何かあった時、これでミナミを守って欲しいんだ。

ゼア

神格の力を借りるしかない!




ゼアはA-クローニング錠剤を取り出すと

A-KAMUMUSUBI

ゼア

ごくん

と飲み込んだ。




ゼア

俺の中のナギの遺伝子
【IZANAGI】と
神格【KAMUMUSUBI】。

ゼア

2つが共鳴し、俺の遺伝子が組み変わる。





そして、ゼアは

ゼア

ミナミ……俺はここにいるぞ。



と優しく声をかけると、


ミナミに口づけをした。



ゼア

パアァァァ

ケイ

ゼアちゃんが変身した!






ミナミ

うぅぅん

ナツ

ミナミちゃんが目を開けた!

ミナミ

あ……ゼアだ……。

ゼア

あぁ、安心しろミナミ。
俺ならここにいるぞ。
気をしっかり持て!

ミナミ

……うん

ゼア

さあ、これを咥えろ!


そう言うと、


ゼアは再びミナミの口元に


ゲオライトタンクを寄せる。

ミナミ

パクっ!

ゼア

うっ、もう空っぽだ。

ケイ

これを使ってください。

ナツ

一葉のも!

ゼア

スマンな。
しばらくゲオライトを浴びないように
気をつけてくれ。

ミナミ

パクっ!

ミナミ

パクっ!

ゼア

くそ、備蓄ゲオライトタンクが全然足りない。

ミナミ

はぁ、はぁ、はぁ……。

ゼア

待ってろ、ミナミ。
なんとかしてやるから……。




途方に暮れたゼアの元へ


二人の人物が駆けつけた。


ナギ

ミナミ!ゼア!

キャシー

これを使っテ!

ゼア

キャシー!ナギ!

ケイ

あれは……。

ナツ

特大ゲオライトタンク!

ゼア

よし、ミナミ!
これを咥えろ!

ミナミ

パクっ!

キャシー

これならしばらく持つワ。

ナギ

……だが……。

ゼア

ミナミのゲオライトが貯まらない……。
ナギ、どういう事だ?



すると、隣のステージから


勝ちを確信したイメフロが


語りかけてきた。

エマ・小石川

ざんね〜ん。
私のエンジェリック・ヴォイスは棘のように心に刺さるのよ。

ヘヴィ・歌広場

そして、刺さった棘の先から、空気を抜くようにゲオライトを少しずつ減らし続ける……。

ノース・北葛飾

ナンバーズにとってはゲオライトメンテナンス要らずの技。
お嬢の歌声はまさに天使の歌声ってもんよ。

エマ・小石川

しか〜し、【ZeR0】にとっては……

ヘヴィ・歌広場

自らゲオライトが増えることがないから
風船に穴を開けた状態……。

エマ・小石川
ゼア

な……何てことしやがる。

ノース・北葛飾

自分で行動する意思も奪っちまうのが玉に瑕なんだよなぁ。

ヘヴィ・歌広場

つまり、俺達のファンは俺達の兵隊でもあるのだ。

ゼア

くそっ!
何が天使の歌声だ!
悪魔の歌声じゃねーか!

エマ・小石川

それはたまたま【ZeR0】だからよ。
ナンバーズなら天にも昇る気持ちになれるわ。

人体実験でも確認済みよ。

エマ・小石川

ミナミちゃんのゲオライト美味しかったわ。もっと堪能したかったけど、ちょっともう無理そうね。

エマ・小石川

おやすみなさい、ミナミちゃん。

エマ・小石川

あなたの運命の呪縛はこれで解かれるわ。安らかに眠りなさい。

ゼア

!!!

ゼア

……おまえら、ミナミのこと
……どこまで知ってやがる?

エマ・小石川

えーっと……
RACの伊佐 小夜子《いざ さよこ》
元会長の娘さんのクローンって事と、
伊佐会長が『マルチDNAキメラ』って事ぐらいかしら?

ゼア

もしかして、数ヶ月前にミナミのゼウスキーパーを温泉まんじゅうにすり替えたのもオマエらか?

エマ・小石川

さぁて?どうかしら?
だいたいそんな昔の事なんて覚えていないわ。

でも……。

ゼア

……でもなんだ?

エマ・小石川

ゼウスキーパーの服用者は【ZeR0】。それを頂くことは私たちにとっては少なからず利益になるわね。

ゼア

きっさまぁ!!!!

ナギ

ゼア!
そいつらは今は放っておけ!
それより、早くミナミを病院へ!

キャシー

特大ゲオライトタンクは
応急処置でしかないワ!

ゼア

わかった、急ごう。
























ミナミはゼア達に抱きかかえられ



ソウルパニッシャーズは



舞台を降りた。


ゲオライトフェス終了ー!

さて、優勝したのは……

圧倒的多数で
イメフロだー!

























こうして



ゲオライトフェスは



イメフロの圧倒的勝利で



幕を閉じた。































ゼア

俺は『奈美』の飼い猫『ゼア』のクローンだ。

ミナミが第1世代のプロトタイプの【ZeR0】であるのに対して、俺は第2世代のプロトタイプとして作られた【ZeR0】だ。

幸い、第2世代は遺伝子サイズのフェムトマシンで構成されたアンドロイドであるため、
そのプロトタイプの俺もゲオライト障害は発生しなかった。

俺にはA-クローンの臨床実験も兼ねて、
ナギの遺伝子【A-IZANAGI】も組み込まれた。

そして、人の言葉と高い知能を得て、
ミナミのバディとして配属されたのだ。

……ミナミの精神の安定化も兼ねてな。









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