空気を読みすぎた
スペースデブリ付近
- RAC本社ビル -
いらっしゃいませ……。
……これは、キュリマリ様。
小夜子様のところへ通して。
は、はい。
キュリマリがドアを開けると
そこには椅子に座り
背を向ける小夜子の姿。
小夜子様!
声を上げ小夜子の名を呼ぶキュリマリ。
しかし、返事がない。
キュリマリは恐る恐る小夜子の元へ近づく。
……小夜子様?
小夜子の前に立つキュリマリ。
……ハァ……ハァ……
小夜子様ァ!!
虚ろな目の小夜子に
キュリマリの声は届いていなかった。
おめでとう、慶子。
ラジオもデビューしちゃったね。
ありがとう、経次郎。
でも、ライブだったら、勢いでいけるけど、トークはそんなに得意じゃないからラジオは緊張するわ。
そんな素振りは全然なかったよ。
凛としてて、慶子らしくて……。
え……。
俺はすごく好きだったよ。
……もう!経次郎ったら!
凛として、かぁ……。
前にも言われたことあったなぁ……。
ー 戦国学園高等部
生徒会長選挙公開開票 ー
なんと、員弁さん辞退です。したがって、御前田さんが生徒会長に当選いたしました!
……。
スタスタスタ
慶子は新しい会長に向けられた
盛大な拍手と歓声を背に
胸を張って舞台を降り、
整列する生徒の群れの後ろへと向かう。
生徒の最後尾まで来た時、
1人の女性が慶子に声をかけた。
員弁 慶子さん。
はい……。
あ、伊佐理事長。
今日はいいものを見せてもらったわ。
以前の候補者演説の時もステキだったけど、公開開票での立ち振る舞いは素晴らしかったわ。
いえ、そんな……。
奇異の眼差しにも顔色一つ変えず、凛として舞台を降りる。
あなたの年齢でなかなかできることじゃないわ。
ただ私は……生徒会長の柄ではないし、御前田さんの方が適任だと思いましたので……。
ふふふ、ますます気に入ったわ。飾るでもなし、奢るでもなし。
た、ただ愚直なだけです……。
慶子さん、いつかあなたにも私の夢を手伝ってもらいたいわ。
え?
おーい、慶子ー!
あ、経次郎……。
今日のところはこの位にしておこうかしら。
ほら、あなたの仲間が待ってるわ。行ってあげて。
はい!
伊佐理事長の夢……。
あれはどういう意味だったのかしら……?
戦国学園を離れた今、約束は守れなくなっちゃったのかな……。
どうしたの?慶子。
ううん、ちょっと昔のことを思い出して……。
そっか……。
あ、そうだ!
どうしたの?
ラジオデビュー記念に、今日これからデートしよう!
えぇ!?
おっと、つれないDMCLN反応だ。
行ってくるね、経次郎!
うん、気をつけて。
発見!場末のバー!
真neoTOKIO
場末のバー
- 箪笥 -
〜〜♪
今年の風も冷たくなってきたわね……。
それとも、私にだけ冷たいのかな……。
あら〜、どうしたの?
辛気臭い顔しちゃって。
余計なお世話よ、杏奈!
おー、こわこわ……。
そんな顔してるとシワが寄っちゃうよ!
ほっといてよ!
まぁ、里奈の気持ちもわかるけどねぇ……。
あ〜〜……D判定………。
浪人かなぁ……。
私達は
将来を期待されたナンバーズ
……のはずだった。
購入者の元へ行った私は
自分の意志の赴くまま
夜の蝶の頂点を目指していた。
しかし、購入者の意図は違った。
購入者は私を
穢れなき鳥かごの鳥として、
永遠に舞わせるために
買ったのだ。
そう、オリジナルの素養を求めて。
心無い購入者に買われると
期待通りに育たないナンバーズは
悲惨な末路をたどる。
突き返されるナンバーズなんて
まだいい方。私はただ棄てられたのだ。
棄てられた私は途方に暮れ
このバー『箪笥』に流れ着いた。
そして、今では夢だった夜の蝶として羽ばたいている。
頂点には程遠いけどね。
なんか言った?
ううん、なんにも。
この子、里奈もそう。
オリジナルのリーダーとしての資質を期待されて購入されたものの、平々凡々な生活を望んでしまったがゆえ、購入者に棄てられた。
歌手のイワ子に至っては酷いものだ。
夏の納涼要員として購入されたそうだ。
しかし、オリジナルのお岩さんは毒を飲まされ後天的に酷い容姿となったのだ。
先天的な素養としては絶世の美女なのだ。
それが、期待したものと違うからと追い出したのだと言う。
ありえない話だ。
しかし、これが現実なのだ。
クローンは人権を得たにも関わらず、クローンでない人々の多くは過度の期待と現実の乖離を飲み込めないのだ。
……。
……。
辛かったね……。
なんと言っていいいか……。
ごめんなさい……。
……。
……。
……。
え?
でも今はやりたい事が
できているのよね?
え?え?
ツラいことは忘れて、とは言わないわ……。でも、前を向ける時は前を向けると良いわね。
え?え?え?
杏奈ったら、TVのナレーションみたいだったわ。
そういった才能もあるんじゃない?
喋ってた―!!!
チェーンジ
パニーーーーッシュ!
パアァァ
パアァァ
今回からゲオライトフェス終了まで、ゲオライトの増減が目隠しになったぞ!
話は前もって聞きました!
スキャンの必要ありません!
もう、応援(おしおき?)だけします!
ソウルパニッシャー☆ミナミ
参上!
ソウルパニッシャー☆ケイ
ここに見参!
あわわ……
カシオペアステージ・オン!
パニッシャーズモード!
ミ・ナ・ミー!
ケイー!愛してる―!
ナッちゃーーーん!!
ミナミLove!!
ケーイーーーー!
ナツちゃーん!
ここは……『箪笥』じゃない……。
わぁ……すごい人。それに綺羅びやか。
人がいっぱいだから人肌恋しくないね、これ。
みんな元気ー!!!
ミナミです!
ケイです!
ナツです!
ねぇねぇ、ナッちゃん。
応援の歌といったらなぁんだ?
えー!突然のクイズ困った葉(よう)〜
私達は決まってるの。
そうなの?
では行きます。
『カエルの○た』
♪〜
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ああ、心にしみるわぁ……。
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♪〜 ♪〜〜〜
一緒に何かを作り上げるって、なんか良いね。
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♪〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜
ちょっと過去のことに固執しすぎてたかしら……。
♪♪
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♪♪ ♪〜〜〜
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♪♪ ♪〜
♪♪ ♪〜
♪♪ ♪〜〜〜
そうだ。呪縛から解き放たれた今の環境なら、カエルのように自分のやりたい事を一心不乱にできるわ!
ラブリー♪
ラブリー♪
ミ・ナ・ミー!
ラブリー♪
ラブリー♪
ケーイー!
ラブリー♪
ラブリー♪
ナーツー!
ラブリー♪
ラブリー♪
ミ・ナ・ミー!
ラブリー♪
ラブリー♪
ケーイー!
ラブリー♪
ラブリー♪
ナーツー!
ラブリー♪
ラブリー♪
ミ・ナ・ミー!
ラブリー♪
ラブリー♪
ケーイー!
ラブリー♪
ラブリー♪
ナーツー!
辛い過去より、明るい未来をー!
ソーーー
ーーウル
パニーーーーッシュ!!!
あはん
ほよ~
うらめし~
ごめん……。過去との決別をうたってたあたしが一番過去の呪縛に捕らわれすぎてた。
ほらまた……。
それが捕らわれ過ぎって言ってるのよ。
私は今の自分が好き。
私だって、安奈のおかげで歌手やれてるのよ。
そうね。今を噛み締めてもっと前を向いて歩きましょう。
せーの、
ミナミちゃーん!!
ケイちゃーん!!
ナッちゃーん!!
ミナミちゃーん!!
ケイちゃーん!!
ナッちゃーん!!
ミナミちゃーん!!
ケイちゃーん!!
ナッちゃーん!!
こうして
場末のバーの住人は
うらぶれた環境にもめげず
それぞれの夢を追いかけ続けた。
ミナミ、DMCLN反応が消えてないぞ。
もっと高い反応が残ってる!
え?
ねぇ、あなたはここのオーナーなの?
私はオーナーじゃないわ。オーナーは稀にしか来ないのよ。
オーナーはメガネの似合うクールなイケメンよ。
私達はオーナーの本名も知らないの。
ふぅん。
あれ?
このお店、地下室があるわ……。
この入口は決してあけてはダメって言われてるのよ。
ミナミ、その中から高い反応が出ているぞ。
よし、ミナミが開けます!
自己責任でお願いします。
ふふふ、冒険者の血が滾る。
ぼ…?
これは……研究施設?
研究施設の中を進むミナミとケイ。
すると、奥の方の部屋から
助けを求める声が聞こえてきた。
誰か、助けてー!
!!!
行ってみましょう。
ミナミは奥の部屋の扉を開ける。
すると……
助けて!
お願い、ここから出して!
う……うぅ
ヤバイ!
聡一がマッドナンバーズ化しそうだ!
こんな檻の中でマッドナンバーズと一緒になったら……。
ヒィィィ……
これは一体……
部屋の中には檻に閉じ込められた
たくさんの子ども達がいた。
キャシーブースト!
しゅー……
ハイ!ミナミ!ケイ!
あれ、キャシーさん?
どうしてここが分かったの?
あなた達のの居場所は
ゲオライトビーコンでわかるワ!
それより、ここは私とナツで調査するから、急いでRAC厚生病院へ行っテ!
ナギが待ってるワ!
どうしたんですか、キャシーさん。
そんなに慌てて……。
ケイ、あなたも行くのヨ!
Hurry up!
……え?
- RAC厚生病院 -
ナギさん!
良かった、間に合った。
……え。
はぁ……はぁ……
……伊佐理事長?
ミナミと慶子が病室へ着くと
そこには小夜子が横たわっていた。
……ミナミさん……。
慶子さん……。
二人の気配を感じた小夜子は
二人へと力なく手を伸ばす。
ミナミ……ケイ……。
会長の傍らに行ってやってくれ。
……うん。
……会長?
ナギに促され、
ミナミと慶子は
小夜子のそばへと寄る。
慶子さん……
ビックリ……した……?
……はい。
ありがとう……ね……
私の……夢……
手伝って…くれて……
いえ、そんな……。
こちらこそ、ずっと伊佐理事長が
会長と知らなくてごめんなさい。
ミナミ……さん……。
もう少し……こっち…へ……。
すっ……。
ミナミ……さん……
許して……
え?
ミナミが小夜子のそばへ近づくと
小夜子は弱々しくも力強く
ミナミを抱きしめた。
ごめんね……ナミ……。
辛い思いを……させ…て…。
……え?え?
……そして
……やっ……と……
小夜子が満足げな笑みを浮かべると
ミナミを抱きしめていたその手は
力なく崩れ落ちた。
ピーーーーーー……
……14:24、ご臨終です。
お母様!!
伊佐理事長!!!
……。
スゥ……
……お母……さん?
……私の……?
ZeR0世代のクローンは試験的な運用であったため、関係者の身内と一般公募で募られた少数の遺伝子をクローニングに使用した。
但し、条件としてオリジナルがすでに他界している事と、毛髪・皮膚等のDNAが採取可能な状態である事を義務付けられていた。
つまり、ZeR0世代とは『失われた命の蘇生』を望む人々により作られたのだ。
……そう、俺もミナミも。