猟を終え、家へと帰ってきたシェーン。しかしそこにヴァイネはおらず、食べかけのりんごが一つだけ、転がっていた。

シェーン

攫われた……?

シェーン

僕が……守れなかった? だから、誰かに……?

シェーン

……いや、落ち込んでいる暇があるなら探すべきだね。

シェーン

……馬の足跡。今朝は無かったはずだ。……追うか。

ヴァイネ

ん……ここは?

モルタニス

よかった、目覚めたようだね。

ヴァイネ

誰よ、あんた。

 目が覚めると見知らぬ部屋。どうやら己はベッドに寝かされているらしく、脇にあるいすには見知らぬ男が座っている。

モルタニス

私はモルタニス。君が小屋で倒れているのを見つけ、そこにいた男に頼んで譲ってもらった。

ヴァイネ

は? なんで倒れている人を譲るのよ。

モルタニス

そのときの君は、残念なことに死んでいた。そして、その美しさを私のそばで見ていたいと思ったんだ。

モルタニス

しかし、家来の一人が怒って君の鳩尾を殴ったことで、毒の原因であるりんごが出て行き、目を覚ましたんだ。

ヴァイネ

ふーん。……あいつも結構な薄情者だったのね。

モルタニス

ところで、だ。君を殺した相手に心当たりはあるか?

ヴァイネ

ああ、お母様ね。お母様がやったわ。

モルタニス

実の母親がか……。君は、どうしたい?

ヴァイネ

ヴァイネ、でいいわよ。……そうねー、お母様はご自慢の鏡がいるから生きているってばれるだろうし……ん? なあに?

 コツン、コツンと窓を叩く小鳥。それに反応し、立ち上がろうとする。

モルタニス

寝てていいよ。私が窓を開けよう。

ヴァイネ

……ありがと。

ヴァイネ

えっ、本当!?

モルタニス

どうしたって?

ヴァイネ

お母様の鏡、大臣がばばねたみたい! これで自由よ!

 よほどの難敵だったのだろう、両手を挙げ、バンザーイと喜ぶヴァイネ。
 その姿にモルタニスは、違和感を感じた。

モルタニス

……殺したい、と、思わないのか?

ヴァイネ

なんで? そんな感情に任せてやったって、私に得は無いでしょ?

モルタニス

……ならいいが。

モルタニス

どこかで歯車が狂ったか、狂った童話の参加者がこれに出ているか、事故か……後でオルドヌンクに伝えておこう。

モルタニス

それと……もう、童話は終わったのだろうし、好きにしてもいいよな?

モルタニス

ヴァイネ。

ヴァイネ

何?

モルタニス

……来てほしいところがある。

ヴァイネ

どこまで行くのよ? 結構歩いているわよ。

モルタニス

……今は、言えない。

ヴァイネ

隠し通路みたいな所だし……まさか、殺す気?

モルタニス

そんなわけない!

ヴァイネ

……そう。

モルタニス

……ついたぞ。

ヴァイネ

!?!?!?!?

 ヒヤリ、とした空気が頬を撫で、薄ぼんやりとした明かりが部屋全体を照らす。
 黒い髪、白い肌、一生開くことは無いと思われる瞳。

 そこには、美しい、ヴァイネと歳の変わらぬ少女達が、眠ったままガラスの棺に収められていた。

モルタニス

さあ、みんな。今日は新しい仲間がやって来た。

モルタニス

ヴァイネと言うらしい。……ふふっ、これでまた、寂しくなくなるな。

ヴァイネ

どういうことよっ!

モルタニス

どういうことって? ヴァイネは今から、私の妻となるんだぞ?

モルタニス

白雪姫は王子様と結ばれ、幸せになりましたとさ。めでたしめでたし、とな。

ヴァイネ

なにが白雪姫よ! 私はヴァイネ、あんたに殺される理由なんてないわ!

モルタニス

まったく、本当に皆反抗期なのか? いつもいつも反抗して……。

モルタニス

怖がらなくていい、死ぬわけではない。私と同じ時を歩むようになるだけだ。

ヴァイネ

はあ? 何言って……!

モルタニス

おやすみ、白雪姫。

 痛みに恐怖し、反射的に閉じてしまう瞼。

 でも、想像したはずの痛みは無く、代わりに乾いた音が響いた。

シェーン

助けにかっこよく参上……ってね。

ヴァイネ

……遅い!

シェーン

た、助けに来たのにその台詞!?

 ナイフを持っている手を押さえ、そこから血が流れているモルタニス。その向こうには、銃を構えた駆け落ち相手が立っていた。

第八幕「胸のときめきは幻聴です」

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