猟を終え、家へと帰ってきたシェーン。しかしそこにヴァイネはおらず、食べかけのりんごが一つだけ、転がっていた。
猟を終え、家へと帰ってきたシェーン。しかしそこにヴァイネはおらず、食べかけのりんごが一つだけ、転がっていた。
攫われた……?
僕が……守れなかった? だから、誰かに……?
……いや、落ち込んでいる暇があるなら探すべきだね。
……馬の足跡。今朝は無かったはずだ。……追うか。
ん……ここは?
よかった、目覚めたようだね。
誰よ、あんた。
目が覚めると見知らぬ部屋。どうやら己はベッドに寝かされているらしく、脇にあるいすには見知らぬ男が座っている。
私はモルタニス。君が小屋で倒れているのを見つけ、そこにいた男に頼んで譲ってもらった。
は? なんで倒れている人を譲るのよ。
そのときの君は、残念なことに死んでいた。そして、その美しさを私のそばで見ていたいと思ったんだ。
しかし、家来の一人が怒って君の鳩尾を殴ったことで、毒の原因であるりんごが出て行き、目を覚ましたんだ。
ふーん。……あいつも結構な薄情者だったのね。
ところで、だ。君を殺した相手に心当たりはあるか?
ああ、お母様ね。お母様がやったわ。
実の母親がか……。君は、どうしたい?
ヴァイネ、でいいわよ。……そうねー、お母様はご自慢の鏡がいるから生きているってばれるだろうし……ん? なあに?
コツン、コツンと窓を叩く小鳥。それに反応し、立ち上がろうとする。
寝てていいよ。私が窓を開けよう。
……ありがと。
えっ、本当!?
どうしたって?
お母様の鏡、大臣がばばねたみたい! これで自由よ!
よほどの難敵だったのだろう、両手を挙げ、バンザーイと喜ぶヴァイネ。
その姿にモルタニスは、違和感を感じた。
……殺したい、と、思わないのか?
なんで? そんな感情に任せてやったって、私に得は無いでしょ?
……ならいいが。
どこかで歯車が狂ったか、狂った童話の参加者がこれに出ているか、事故か……後でオルドヌンクに伝えておこう。
それと……もう、童話は終わったのだろうし、好きにしてもいいよな?
ヴァイネ。
何?
……来てほしいところがある。
どこまで行くのよ? 結構歩いているわよ。
……今は、言えない。
隠し通路みたいな所だし……まさか、殺す気?
そんなわけない!
……そう。
……ついたぞ。
!?!?!?!?
ヒヤリ、とした空気が頬を撫で、薄ぼんやりとした明かりが部屋全体を照らす。
黒い髪、白い肌、一生開くことは無いと思われる瞳。
そこには、美しい、ヴァイネと歳の変わらぬ少女達が、眠ったままガラスの棺に収められていた。
さあ、みんな。今日は新しい仲間がやって来た。
ヴァイネと言うらしい。……ふふっ、これでまた、寂しくなくなるな。
どういうことよっ!
どういうことって? ヴァイネは今から、私の妻となるんだぞ?
白雪姫は王子様と結ばれ、幸せになりましたとさ。めでたしめでたし、とな。
なにが白雪姫よ! 私はヴァイネ、あんたに殺される理由なんてないわ!
まったく、本当に皆反抗期なのか? いつもいつも反抗して……。
怖がらなくていい、死ぬわけではない。私と同じ時を歩むようになるだけだ。
はあ? 何言って……!
おやすみ、白雪姫。
痛みに恐怖し、反射的に閉じてしまう瞼。
でも、想像したはずの痛みは無く、代わりに乾いた音が響いた。
助けにかっこよく参上……ってね。
……遅い!
た、助けに来たのにその台詞!?
ナイフを持っている手を押さえ、そこから血が流れているモルタニス。その向こうには、銃を構えた駆け落ち相手が立っていた。