そうして、ニオミヤは彼が眼を閉じてから、
妃の目にその指を合わせる。
ちょっとだけ、待っててもらってもいいかな。
どうした?
ちょっと、やり残した事、あってね。
ね? 妃さま?
―――――。
この高貴っぽそうなのは誰だ?
あー、なんかね、鏡探してるって言ってたよ!
あと、白雪姫がヴィクター探してるから近付くなって言ってたかな?
えーっと……
何重要参考人を隷従させてんだよ!?
で、その鏡って言うのは?
知らない。
どんな形?
知らない
これに関しては、何にも進まないな。
彼女なら、何とか救えると思って。
え?
え、じゃなくて。
完全に隷従した人間でも、
私が知ってる人で、
貴方が作った契約なら一人解く事出来るから。
やったことないけど、理論上では
良く分からないけど、すごい
すごいでしょ。
――結構、雑に術式使った?
ちょっと、苛立ってたから。
……そんな感じが出てる。
はい、手。
手?
噛んで。
う……うん。
痛っ……
ああっ、ごめんね!?
ごめん、なんて口にしないで。
王になる為にしたことなのに、
堂々としてないと浮かばれない。
謝るぐらいなら、どうしてこんなに沢山を隷従させる必要があったの。
貴方がやった事は本当は許されない
それは、人間だからで、人間と吸血鬼なんて…。
どっかで聞いたことある
うるさいわね!?
ああっ、ごめんなさい!!
ごめんなさい、二回目。
その台詞言えば助かるとか思ってる?
どうせ、また繰り返すから何しても良いとか考えてる?
そうじゃ……ない…けど…
私はね、考えてた。
もしかしたら、今も考えてる。
ちょっとふざけるなって感じだよね?
……そう、なんだ…。
けれど、最近になって、妖精が「この世界はちゃんと終わる!」って本気で信じ始めてて。
なんだかすごいなあって。
コイツに負けたくないから、もうちょっと頑張ろうかなって。
私も、そろそろ、繰り返されるからって諦めで逃げたくないの。
……そう。
ちょっと、両目に触るわよ?
血だらけの手で?
だからこそ
う、うん。
なにか、青い色が見えるね。
―――――。
指を離すから、
そうしたら眼を瞑って。
3.2.1――――
そうして、ニオミヤは彼が眼を閉じてから、
妃の目にその指を合わせる。
ヴィクターくん、その青い世界で、何が見える?
青い………髪?
紙?
たてがみ。ライオン?
大きな身体、大きな街、小さな屋敷。
――そう。
そういうと、妃から指を離して、
彼女を中心とした大きな円を描く。
そして、その円をなぞるように
この国の紋様に似た記号を描く。
袋から、金貨を2枚取り出し、
そこに獅子を描く。
その金貨は妃の両手に一枚ずつ置いた。
―――――――。
もう少し、待っててくださいね。
ね、ねぇ、これ、どうしよう……!?
ヴィクターくん。
それは、好き? 嫌い?
まだ、嫌い。怖い。うわ、二体になった…!?
そっと、ニオミヤは、
少年をゆっくりと抱き締める。
大丈夫。それはこわくない。
それは怖くないから。
こわい。嫌だ。
だって、それは……。
両手を真っ直ぐ出して。
こう?
そう。
えっ、何これ。迫ってくるよ!?
嫌だ、逃げないと…!
貴方に、隷従された人たちは
皆、逃げる事さえ出来なかった。
そ、そうだけど…!?
まっすぐ、まっすぐ、ただ近づいて来るソレを見ているだけで良いから。
と、止めて…!?
もうすこし、
いやだ、だってこれは――
大丈夫だから
えぐっ……何で…こんな……!
精神的で、深層的で、幾何学的な痛みが、必要不可欠だから。
あと、ちょっと大きめの後悔も。
あ……う……う、うわあああああああああああああ!?
なんか、すごかったな。
目瞑ってるだけにしか見えなかったけど
普通の顔してましたけどね
お前、ニオミヤの変顔好きすぎだろ、
……って、あれ。
目が開けれる!
お疲れ様ー。
ゆっくり眼を閉じて休んでいいよ
けど、なんだかスッキリしたかも!
叱ってくれてありがとう。
!
良く分からないけど、嬉しい。
あれ、此処は?
お疲れ様。お久しぶりです、お妃さま。
……え、匂宮?
カオルじゃなくて、ごめんなさいね。