雨宮 要

……しょ、翔平先輩

石川 翔平

…?何かな…

雨宮 要

こ、この前は生意気なこと言ってすみませんでした。僕はこれからも貴方のことを尊敬してます。




要くんと仲良くなった翌日


いきなり門の前で

雨宮 要

おい。朱里


と呼び止められ、なんの用事か聞いたところ

雨宮 要

しょ、翔平先輩に謝るからお前もついてこい



と言われたのでこうしてついてきた。


石川くんは、不思議そうに要くんの話を聞いている。

石川 翔平

どうして謝られてるのかよくわからないんだけど…

雨宮 要

…お、ぼ、僕、翔平先輩に弟子として認められるように頑張ります!!

石川 翔平

え、が、頑張るって…

間宮 朱里

師匠!!私からもお願いします!!私達姉弟子、弟弟子として頑張ります!!

石川 翔平

朱里まで…この状況はなんなのかな。



困った様子の石川くんに、少しごめんなさいと笑顔を送った要くんは、私の腕をグイッと引くとそのまま少し離れたところまで歩いた。


雨宮 要

なんで朱里が姉弟子なんだよ。尊敬してたのは、俺が先だろ…

間宮 朱里

でも、師匠に弟子として認められてるのは私だもん。要くんはまだ弟子にもなってないじゃん

雨宮 要

…お、おま!ちょっと心許したら調子に乗りやがって

間宮 朱里

……ふふ。ほら姉弟子が頼んであげるよ



師匠に、弟弟子の本性がバレないようにヒソヒソ話をする。しかし今度は違う方の腕をグイッと引っ張られて後ろに体勢を崩した。


石川 翔平

………少し距離が近い



困り顔のまま石川くんが小さく呟く。


…近かったかな…要くんは弟がみたいで、全然意識してなかった……

雨宮 要

…あ…


と下がる天使の眉。

石川 翔平

…朱里……彼と仲良くなったの?

間宮 朱里

え、うん!まぁ昨日色々あって。

雨宮 要

仲良くなんてなってませんから安心してください。翔平先輩。

間宮 朱里

え、なったよ!

雨宮 要

なってませんよ。朱里先輩



…気のせいかもしれないけれど…石川くんが心なしか元気がない。


そういえば私、要くんに許してもらえたことですっきりしてたけど、まだ師匠の気持ちがわからずじまいなの思い出した……。



でも良く良く考えてみたら、石川くんって好きな子ができたらちゃんと

石川 翔平

好きだよ…



なんて甘く囁くと思う。


だからいまいち彼の感情を、都合のいいものに受け取れない。



甘い甘い言葉も全て石川くんの癖なんじゃないかって思ってしまう自分がいる。

石川 翔平

…朱里?

雨宮 要

朱里先輩?

間宮 朱里

あ、わ、私ぼーっとしてた…

雨宮 要

大丈夫ですか?



ソッと要くんの手が伸びてきておでこに触れようとした刹那


石川くんがその手を掴んだ。

石川 翔平

……熱っぽいなら保健室に行かないとね



そしてそのままにこりと笑って、掴んだ彼の手を優しく下ろすと今度は私にソッと触れる。

石川 翔平

それじゃあまたね。

雨宮 要

え、あ、はい

石川 翔平

…朱里は俺が預かるから。

間宮 朱里

え!?ちょっ…石川くん!私熱なんてな



しーっと唇に人差し指をつけた彼は、ヒラヒラと要くんに手を振るとそのまま私を連れ去った。



雨宮 要

…敵意むき出し……




可愛い天使の唇が動いたけど、それを聞き取るにはもう少し遠い。


間宮 朱里

……ちょ…石川くん

石川 翔平

……朱里は……いつも無防備に笑うね…

間宮 朱里

え……



どういう意味だろうと固まったけど、少し切なげな石川くんに私はまたよからぬ期待。


ってダメダメ。これは癖。そう癖!!

石川 翔平

…朱里……俺は……

間宮 朱里

ん?……




何か考え込んで伝えようとする師匠にゴクリと息を飲む。まさにその時


女子

めぐみー!!まってー!



後ろで呼ばれた名前に石川くんは、振り向いたのだ。


……?

間宮 朱里

…石川くん…どうかしたの?

石川 翔平

いや…。懐かしい名前だなって

間宮 朱里

懐かしい??

石川 翔平

なんでもないよ



首を傾げた私に笑った彼は、そのまままた歩き出す。


石川 翔平

…何か奢るよ。だからもう少し君を独り占めさせてね。





相変わらず素敵な台詞を口にして。




……めぐみ……さん……



どこかで聞いたような、ないようなその名前。

だけど結局思い出せずじまいだった。













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