透き通るような真っ白な指が、
皿に入った水を撫でる。
透き通るような真っ白な指が、
皿に入った水を撫でる。
すると、一瞬で水は、
とある学者の一生を走馬灯のように映した。
この映像が、また奇妙なことに、
若返ったり、
恋をしたり、
その際に、人を殴って殺してしまったり
空を飛んだり、
過去の時代の人と出会ったり
悪魔の世界に行ったり
失明したり、
最期の場面まで、息を呑んで見守る。
学者は何かを高らかに叫ぶと笑顔のまま、
静かに、静かに息を引き取る。
そして、
映像は薄らいでいく。
しばらくして、
水は彼ら自身の姿を映した。
ほー。最後のうざかったけど。
これが、パパの終わり?
ええ、これがお父様の終わりです。
パパ、僕らに本当の最期は見せてくれないんだね。
しかし、これが終わりだと思うのが幸せです。
女性は、何かを諦めているかのように、
後悔しているかのように、寂しそうに笑う。
少年は、その表情に眉をしかめてから、
真っ直ぐに射る様に見つめる。
その口調、フォーリちゃんはこの先を知っているの?
この先は天と悪が知る結末。
私達が見ていけません。
その先こそ、結末だってば。
僕は、それが見たいなー
見るな、と言ってるのですが?
お互いの間に、冷たい空気が張り詰める。
少年は揺らぐことのない双眸で青年を見つめる。
一方、女性は揺らいだ感情を塞ぎ込んで、
冷たい表情を貼り付けているようだ。
それに気づいた少年は盛大に溜め息を吐く。
なぁに。パパの死が、怖いの?
知る事は禁忌です。
知ってはならないと言っているのです
フォーリって、馬鹿だよねー。
『常に向上の努力を成す者』の
呪血に、僕らが逆らえるとでも?
ええ。
外に出なければ、努力をすることもないのですから。
忌子と堕天使は、
此処で朽ち果てる運命です
あっそ。
堕天使のくせに詰まんないねー?
それで。
行かない事を前提にはしておりますが、
最期を知る術でも考えているのですか?
んー。旅でもさせようかと。
来る?
旅ですか。馬鹿ですね。
お兄様の存在は、
生まれた時から、亡き者ですよ。
貴方は研究室に籠って、
傀儡を動かして世界を見るだけの存在。
私が、代わりに行きましょうか。
いや、また空飛んで
羽根燃えて焼き死ぬだろお前。
禁忌がなんだって言って
一番やらかすのお前だからな?
お兄ちゃんは知ってる。
それに比べてオレは慎重派。
かつ血族みんな、いない。
というか?
パパが?
皆殺しに?
したんだし?
ああ。そういえば、そんな映像ありましたね。
恋人の為に彼女の母を殺し
母を殺したことがバレて、
恋人の兄を殺し
子どもを孕んでしまったから、
恋人は自殺
貴方は――母親に、湖に入れられて死亡
いやあ、その後にランスロット的な展開になるなんて誰が想像したことかー。
何なら、私をグィネヴィアとでも呼びますか?
無理無理無理。
アーサー王倒したら、マジでパパと同じ展開迎えるから。
あら、こんなところにアロンダイトが…。
いやいやいや。
ないから。パパは、ただの魔術師で――
そうだった。
パパは魔力の無駄遣い魔術師No.1だった
というか、
聖者寄りの人間だから、
魔術で作られた剣とか抜けない。
勇者よ、剣が抜けないとは何事だ
さてはお前偽物だな。
何そのノリ、乗りたくない
何でも良いから、外出させろ
――此処では、何でもできます。
豪華な食事、
見たい過去も未来も見れる。
遠くから人を操って殺すことも、
生かすことも出来る。
なのに、何故――
太陽目がけて飛んで、
焼かれたお前なら
分かると思ったんだけどなー?
頭を抱えて、
わざとらしい笑顔で問うフォーリに、
自然な笑顔で笑いかける。
揺れるカーテンを勢いよく、引っ張って、
フォーリを真っ直ぐに見つめる。
僕はさ――
最低最悪な父の
愛した美しい世界を、
オレは、この目で見たい。
……確かに、そう……ですね…、
グレイルくんは、
存在しないはずのもの。
外に出てはいけません。
出てしまったら、貴方は後悔する
世界は貴方に厳しい
そのように出来ている
なら、
バレなければ、いい
しかし、そんなもの。
バレなければ、いいじゃん
でも――
確かに、忌子の貴方には
お父様の愛した美しい世界を、
美しいと感じさせてあげたいです。
しかし。
それとこれとは話が別ですから、
貴方はお留守番しててください。
フォーリちゃんも、
世界を美しいとは思ってなかったんだ?
――下賤極まりないお父様が、美しいと言うのであれば、世界は美しくなんかないと思いませんか?
そんなこと言うと、また焼かれるよ?
馬鹿ですね
バベルの塔は壊れたのです
この私、オイフォーリンは、もう焼かれません。
怖いぐらいに、矛盾してるねー?
……はぁ。強情ですね。
付き合ってられないので、
付き合ってあげます
素直じゃない
でも、ありがとう。
今更、何も怖くありませんしね。
その代わり、世界は貴方に厳しい。
その事を、お忘れなく。
Werde ich zum Augenblicke sagen
Verweile doch, du bist so schoen !