透き通るような真っ白な指が、
皿に入った水を撫でる。

すると、一瞬で水は、
とある学者の一生を走馬灯のように映した。


この映像が、また奇妙なことに、

若返ったり、

恋をしたり、

その際に、人を殴って殺してしまったり

空を飛んだり、

過去の時代の人と出会ったり

悪魔の世界に行ったり

失明したり、

 最期の場面まで、息を呑んで見守る。

学者は何かを高らかに叫ぶと笑顔のまま、
静かに、静かに息を引き取る。

そして、
映像は薄らいでいく。


しばらくして、
水は彼ら自身の姿を映した。

グレイル

ほー。最後のうざかったけど。

これが、パパの終わり?

フォーリ

ええ、これがお父様の終わりです。

グレイル

パパ、僕らに本当の最期は見せてくれないんだね。

フォーリ

しかし、これが終わりだと思うのが幸せです。

女性は、何かを諦めているかのように、
後悔しているかのように、寂しそうに笑う。


少年は、その表情に眉をしかめてから、
真っ直ぐに射る様に見つめる。

グレイル

その口調、フォーリちゃんはこの先を知っているの?

フォーリ

この先は天と悪が知る結末。
私達が見ていけません。

グレイル

その先こそ、結末だってば。
僕は、それが見たいなー

フォーリ

見るな、と言ってるのですが?

 お互いの間に、冷たい空気が張り詰める。


少年は揺らぐことのない双眸で青年を見つめる。


一方、女性は揺らいだ感情を塞ぎ込んで、
冷たい表情を貼り付けているようだ。


それに気づいた少年は盛大に溜め息を吐く。

グレイル

なぁに。パパの死が、怖いの?

フォーリ

知る事は禁忌です。

知ってはならないと言っているのです

グレイル

フォーリって、馬鹿だよねー。

『常に向上の努力を成す者』の
呪血に、僕らが逆らえるとでも?

フォーリ

ええ。

外に出なければ、努力をすることもないのですから。

フォーリ

忌子と堕天使は、
此処で朽ち果てる運命です

グレイル

あっそ。
堕天使のくせに詰まんないねー?

フォーリ

それで。
行かない事を前提にはしておりますが、
最期を知る術でも考えているのですか?

グレイル

んー。旅でもさせようかと。
来る?

フォーリ

旅ですか。馬鹿ですね。

お兄様の存在は、
生まれた時から、亡き者ですよ。

フォーリ

貴方は研究室に籠って、
傀儡を動かして世界を見るだけの存在。

フォーリ

私が、代わりに行きましょうか。

グレイル

いや、また空飛んで
羽根燃えて焼き死ぬだろお前。

グレイル

禁忌がなんだって言って
一番やらかすのお前だからな?

お兄ちゃんは知ってる。

グレイル

それに比べてオレは慎重派。
かつ血族みんな、いない。

グレイル

というか?
パパが?
皆殺しに?
したんだし?

フォーリ

ああ。そういえば、そんな映像ありましたね。

フォーリ

恋人の為に彼女の母を殺し
母を殺したことがバレて、
恋人の兄を殺し
子どもを孕んでしまったから、
恋人は自殺

フォーリ

貴方は――母親に、湖に入れられて死亡

グレイル

いやあ、その後にランスロット的な展開になるなんて誰が想像したことかー。

フォーリ

何なら、私をグィネヴィアとでも呼びますか?

グレイル

無理無理無理。

アーサー王倒したら、マジでパパと同じ展開迎えるから。

フォーリ

あら、こんなところにアロンダイトが…。

グレイル

いやいやいや。
ないから。パパは、ただの魔術師で――

グレイル

そうだった。
パパは魔力の無駄遣い魔術師No.1だった

グレイル

というか、
聖者寄りの人間だから、
魔術で作られた剣とか抜けない。

フォーリ

勇者よ、剣が抜けないとは何事だ

さてはお前偽物だな。

グレイル

何そのノリ、乗りたくない

グレイル

何でも良いから、外出させろ

フォーリ

――此処では、何でもできます。

フォーリ

豪華な食事、
見たい過去も未来も見れる。

遠くから人を操って殺すことも、
生かすことも出来る。

フォーリ

なのに、何故――

グレイル

太陽目がけて飛んで、
焼かれたお前なら
分かると思ったんだけどなー?

頭を抱えて、
わざとらしい笑顔で問うフォーリに、
自然な笑顔で笑いかける。


揺れるカーテンを勢いよく、引っ張って、
フォーリを真っ直ぐに見つめる。

グレイル

僕はさ――

グレイル

最低最悪な父の
愛した美しい世界を、

オレは、この目で見たい。

フォーリ

……確かに、そう……ですね…、

フォーリ

グレイルくんは、
存在しないはずのもの。
外に出てはいけません。

フォーリ

出てしまったら、貴方は後悔する
世界は貴方に厳しい


そのように出来ている

グレイル

なら、
バレなければ、いい

フォーリ

しかし、そんなもの。

グレイル

バレなければ、いいじゃん

フォーリ

でも――
確かに、忌子の貴方には
お父様の愛した美しい世界を、


美しいと感じさせてあげたいです。

フォーリ

しかし。
それとこれとは話が別ですから、
貴方はお留守番しててください。

グレイル

フォーリちゃんも、
世界を美しいとは思ってなかったんだ?

フォーリ

――下賤極まりないお父様が、美しいと言うのであれば、世界は美しくなんかないと思いませんか?

グレイル

そんなこと言うと、また焼かれるよ?

フォーリ

馬鹿ですね

バベルの塔は壊れたのです

フォーリ

この私、オイフォーリンは、もう焼かれません。

グレイル

怖いぐらいに、矛盾してるねー?

フォーリ

……はぁ。強情ですね。

フォーリ

付き合ってられないので、
付き合ってあげます

グレイル

素直じゃない

グレイル

でも、ありがとう。

フォーリ

今更、何も怖くありませんしね。

フォーリ

その代わり、世界は貴方に厳しい。
その事を、お忘れなく。

Werde ich zum Augenblicke sagen
Verweile doch, du bist so schoen !

0歩目…父の最期と愛した世界

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