これは海中の城内で静かに暮らしている人魚達の話である。
 人魚は十六歳になると成人式を迎え、陸で人間として生活して様々な事を学び、再び海へ戻るのが恒例であった。

 16歳となった人魚の少女瑠璃花(るりか)もその日成人式を迎える予定であり、側近の麗螺(れいら)によって多くのアクセサリーやヘアアレンジ等をされていた。

瑠璃花(るりか)

こんなにお洒落するの麗螺?

 もう何時間も動けていない彼女は好い加減うんざりしてきていた。

麗螺(れいら)

そうですよ、瑠璃花姫様。
特に貴女はわたくし達の長の娘ですから誰よりも着飾らなくては

瑠璃花(るりか)

……成人式って大変なのね

 真顔で即答する側近に瑠璃花は思わず溜息を漏らすが、対する麗螺は嬉しそうに続けた。

麗螺(れいら)

もっとお洒落しますよ

瑠璃花(るりか)

えー・・・まだ掛かるの?

麗螺(れいら)

はい

瑠璃花(るりか)

そんなぁ・・・・・・

 瑠璃花は思わず呻いたが少しすると退屈を紛らわす案を思い付き、提案する事にした。

瑠璃花(るりか)

じゃあさ、あれ読んでよ。
いつもの人間に恋した人魚姫の話

 それは瑠璃花が幼い頃から好きな物語で麗螺に何度も読ませているものだ。
 もう内容も記憶する程読まされていた麗螺は微笑んで頷いた。

麗螺(れいら)

はい

 そうして耳に心地良く聞こえる優しい声で読み上げる。

 むかーし昔のお話です。
 陸での生活に幼い頃から憧れている人魚姫がおりました。
 彼女は陸で生活をするように送り出される十六歳の成人式を他の人魚達よりも楽しみにしておりました。
 しかし成人式を終える前に彼女は何者かの力によって陸へ飛ばされてしまいました。
 陸に飛ばされた人魚姫は人間の姿になっていましたが、予期せぬ事態に対応出来ずにそのまま行き倒れてしまいました。
 そんな彼女を助けたのは一人の若者でした。
 そして人魚姫は彼の優しさに次第に心惹かれていくのでした。

麗螺(れいら)

これで終わりです

瑠璃花(るりか)

……素敵

 うっとりとした様子で瑠璃花は呟く。

瑠璃花(るりか)

麗螺、有難う

麗螺(れいら)

いえ、それで姫様の気が済むのであれば幾らでも読みましょう

 そう麗螺が返した時、荒々しい音と共に部屋を区切る扉が開かれ大慌てで別の人魚が泳いで来た。

???

瑠璃花様、麗螺様大変です!早くお逃げ下さい!!

瑠璃花(るりか)

美芳(みよし)?

麗螺(れいら)

何事ですか?

 驚いてその人魚の名前を瑠璃花が呼び、冷静な麗螺が理由を尋ねる。

美芳(みよし)

説明している暇はありません。兎に角今は急いでお逃げ下さい!
このままでは大変危険です!!

瑠璃花(るりか)

急にそう言われても……

 困惑して瑠璃花が言った時だった。

 耳をつんざくような轟音が辺りを支配する。

瑠璃花(るりか)

何!?

美芳(みよし)

もう時間がありません。姫様早く!

 美芳が焦って声を上げた瞬間城内の明かりが掻き消える。

 闇の中瑠璃花は妙な浮遊感を感じ、何かに吸い寄せられる。

瑠璃花(るりか)

きゃあああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!

 思わず叫んだ彼女に麗螺の呼び声が遠く聞こえた。

麗螺(れいら)

姫様どうしました!?姫様!!?

 その頃夜の海を一人の少年が散策していた。

???

やっぱり海を見ると落ち着くな

 彼は付近の海の家に住んでいる学生で行き詰った時に良く海を散策する。

???

・・・副業の方が本業よりも大変だから困ったものだ

 そんなように思って溜息を吐いた時、夜の海にそぐわないものが視界に入ってきた。

???

あれは・・・・・・!

 慌てて駆け寄る。

???

おい、しっかりしろ!

 そう声を掛けた先には倒れている少女の姿があった。

 しかし応答は返らない為、彼は彼女の呼吸を確かめた。

???

・・・確かに息はある。仕方ない家に運ぶか

 そうして彼は彼女を軽々と抱え上げると家に向かって歩き出したのだった。

 この時はまだ・・・彼女との出会いが特別な意味になるとは全く思っていなかった。

fin
※アイコン一部変更しました

零れネタ2 現代ファンタジー1 人魚姫と少年探偵

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