自分の方に向かってくるか
と思いきや
時は来た、か。
自分の方に向かってくるか
と思いきや
その横の両替機に
500円玉を入れて一拍外してきた。
左フックのフェイント噛ませてからの右アッパーが来る!的な?
小銭を取り終わった後に
スッとこっちを向いた。
来る!!
そして彼の第一声はこうだった。
お客さん、こんないっぱいいるんすね。
え、何て?
あはは。どぅも!
ちす
そして仲間たちの元へ戻り、
今度は身銭を切って
バスケをやり始めた。
“ちす”じゃねえ!!
いや、え?
合ってるの?
ああ、助かったのか!
え、でも何かうん…んん?
嬉々として遊ぶ“奴ら”
いや、もはや好青年4人組。
とにかくお金入れてくれれば
みんなお客様。
小学生にも敬語で対応
というのが自分のスタイルなので、
目の前を通り過ぎ、
自動ドアに向かう彼らに
ありがとうございました!!
といつものように大声で
帰り際の挨拶をすると
痛ッ!
痛ッ!
痛ッ!
先頭のアラビアータくんが
急に止まったため、
玉突き事故のように
後方の三人がごっつんこ
してしまう。
三人の訝しむ顔を
気にも留めず、
アラビアータくんは
自分の方を向いて
ちす
と言って去って行った。
一体何なんだ!!!
何かこれじゃあ彼らを警戒してた俺が小さい人間みたいじゃん!!
正直全くもって
アラビアータくんの行動が
理解不能だったので、
比較的彼らと世代が近くて
元不良のポモドーロ君に
事情を聞くと
うーん、多分なんですけど俺が多分何も言わないけど見てくれてる感じが心地よいって事じゃないですか?
と言いますと?
オレが中学の時近所にあった駄菓子屋のおばちゃんがそうだったんですけど、隙だらけだからよくお菓子パクッてたんですよ。
それでもケーサツに通報するどころか、只々いつも同じように挨拶してくれて他に何も言わない。
そうなると何か自然と悪さできなくなるし、居心地がよくなっちゃうんですよね~
そうか、俺は駄菓子屋のおばちゃんと一緒ってことか
それからというもの
アラビアータくん一行様は
普通に当店の常連客となり、
単価の安いバスケや
サービス券をゲットできる
レトロゲームを遊び散らかしては
ちょいちょい自分に話しかけてくる。
親方!最近あそこのパチ屋でスロット打ってましたよね?
え、バレちゃいましたか?(てか親方て!)
バレバレっすよ!
なんて会話もたまに
するくらいにはなった。
まあ彼に限った事ではなく
浅草のごく一部の
斜に構えた少年たちは
野球の興味とかは一切関係なく
彼らの青春の
ほんの少しをウチの
バッティングセンターで
生意気な行動を
とりながら過ごしたりする。
二度と戻らない子もいれば
すごい男前になって
新しい彼女を連れて来る
人もいる。
特に彼らと込み入った
世間話をするわけではないが、
お互いの顔を見て何となく
懐かしんだりホッとするのは
この仕事をやっていて
一番の幸せかもしれない。
まあアラビアータくんに関しては
条件反射的にいまだに
ビクッてなる自分がいるのだけれど。
La Fine