俺も思わず時計を凝視してしまっていた。
 こうして見ていると、長針の動きはおろか、秒針の進みっぷりすらもどかしい。
 7時になったら何だと言うのか。
 きっと何も無いと思いながらも、なぜか7時になる事に不安も感じる。

 一体何だと言うのか。

 自分で自分の心がわからない。


 そうしているうちに、ゆっくりと、本当にゆっくりと長針が12の位置に重なっていく。




 






 まさにかちりと重なる時、俺の喉は無意識に鳴った。そして、それと同時に

何だ!?
悲鳴?

 思わず背筋が伸びた。
 
 どこか遠くで悲鳴が聞こえる。





 大丈夫。涼太じゃない。







 あの声は、涼太じゃない。




 
 そう思って胸をなで下ろしたが、すぐにそれに気付いて気まずくなった。
 涼太じゃないってことは、涼太以外の誰かが悲鳴を上げる状況に陥ったと言う事だ。


 あの時昇降口にいた誰かか、それとも他にも残っていた人がいたのか。



今の……

知ってる奴の声……じゃ無いよな。まさか。

 加賀が首を横に振るので、ちょっと安心した。

遠かったけど……どうする?
様子でも見るか?
俺は……行けるようなら、第一理科室に行こうと思うんだが。

移動……すんの?
外にはあの変なのがいるのに?

 それはそうだが、さっさと涼太と合流して学校から出たい。

 アイツと遭遇しなければ、いや、遭遇しても移動速度はそれほど早く無かった。
 走って逃げれば何とかなるだろう。

 俺がそう伝えると、加賀はきゅっと眉を寄せた。

それは、ダメだよ。

え?

 加賀が呟くように何かを口にした。
 だが、それ以上は聞き取れなかった。

う、ううん。
外は危ないんじゃないかと思って、ちょっとやめた方がいいんじゃないかって言おうとしたんだけど……
確かに、さっさと学校出た方が利口か。

あ、ああ。

 なんか腑に落ちない。
 俺が何か口にしようとするのを遮るように、加賀がポンと舞台から飛び降りた。

 着地の後、二三歩よろついてから膝をつくように転んだ。

何やってんだ。

転んじゃった……いてて。

 俺も飛び降りて、加賀の手を取って立ち上がらせた。

 細い。


 華奢と言った方が良いだろうか。


 それに、布越しの体がちょっと熱い気がした。


おまえ……具合悪いのか?

 加賀は慌てた様子で立ち上がり、手を振った。

え?
元気だよ?
ちょっと着地に失敗しただけ。

それより、俺も一緒に行っても良い?

 何となくそれ以上追求し辛い。


 俺は頷くしか無かった。

pagetop