魔王

ふふふ……

広間の奥でその女は不気味に笑っていた。

浩也

なぁ……悠……

どうした?
やっぱ怖いか?

浩也

あの魔王、すごい美人じゃないか?

心配して損した。
まさか魔王が美人だなぁなんて考えてるとは思わなかったわ。

レーナ

さぁ、おしゃべりしている暇はありませんよ。
打ち合わせ通りお願いしますね。

浩也

任せとけって!

そういって俺以外のメンバーは飛び出していった。

打ち合わせの段階では、浩也は戦うふりだけということになっていた。
もちろん剣を持って振る。しかし、それに攻撃力はほぼない。
そのうえ、変な扱い方をすれば怪我をする。
浩也の動きはかなり制限があった。

ただ、相手は魔王一人とはいえ、こちらは勇者一人分の戦力が欠けている。
厳しい戦いが続いているように見えた。

レーナ

なかなか……手ごわい……?

その時のレーナの表情に不安を感じ取った俺の胸の中に何か嫌な予感が走った。

そして次の瞬間に、その予感は最悪の状態で的中することになった。

魔王

甘いんだよぉ!!

魔王の近くにいた人たち全員が、壁まで吹きとばされた。

レーナ

なんで……
こんなにつよいなんて……

レーナの表情からこんなはずではなかったといった感情が読み取れた。
少し外に離れていた浩也が目を丸くして立っている。

魔王

なんだ?
かかってこないのか?

魔王がニヤっと笑う。
俺に向けられたわけでもないのに背筋がぞわっと粟立った。

浩也

ぐっ……

レーナ

浩也……

魔王が浩也のほうに歩みを進める。
それを見たレーナは右手を構え、光を発した。

その光は浩也と魔王の間を通り、壁に当たった。

魔王

まだそんな力が残ってたのか……

レーナ

浩也!逃げて!

レーナの叫びは魔王の攻撃によってかき消された。

浩也!無理だ!

無意識に叫んだ俺に浩也の目線が合わさる。
しかし、浩也にも聞こえてるということは、魔王にも聞こえているということだ。

魔王

なんだ?そのひょろいのは

浩也

そいつは関係ねぇ!!

浩也が剣を振りあげる。
が、隙があまりにも大きすぎる。

浩也が俺の目の前まで飛ばされる。
どう考えても限界超えてるだろといいたくなるような状態だった。

浩也……あまりにも分が悪い
逃げよう

浩也

よかった……
お前のとこに来れたおかげで勝てるかもしれん……

それどころじゃ――

そういうと同時に浩也は俺に耳打ちした。

っ!!

浩也

な?
いけそうだろ?

浩也は俺の顔を見て笑った。

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