声のしたほうを見上げると

ドレスの裾を翻している影が
いかにも正義の味方風に立っていた。







王女だ。


偉い人とナントカは
高いところが好きだそうだが
お姫様が門の上で
仁王立ちになってもいいのだろうか。

PRO-10を持ち出すことは許しません

彼女がサッ、と手を閃かせると
ロザンナの行く手を遮るように
軍服が立ち並んだ。

リオルを撒いて勝ったつもりでしょうけど、詰めが甘いわね

……所詮、奴は王都技術部四天王の中では最弱

知力、体力、時の運。
全てに勝る私の足元にも及びませんことよ!


王女の勝ち誇った高笑いが響く。


勝算があるのだろうか。

それとも四天王最強なだけに
特殊なスキルでも
持っているのだろうか。






王女は身を乗り出すと
足元の軍人の一団に向かって
声をかけた。

はっ、ただいま!!

早くねー

姫様の至急とお申しだ!
5分でかかれ!

はっ!

強い風が吹けば
あおられて落ちてしまいそうな
危なっかしい立ち位置に

強面の軍人が慌てて
アフタヌーンティーセットを抱えて
門の上にのぼっていく。



















そして

あっという間に設置された
アフタヌーンティーセットを前に
王女は優雅に
ティータイムを始めた。

いいわね。
街を一望しながらのお茶



そこだけ見れば優雅なのだが、
少し視野を広げてみると

肩で息をしながら
死屍累々と倒れている軍服の面々がいて

ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ
御意……

……なにかがおかしい。
















どうやら門の上にいたのは
先回りしていたからではなく

ただ単にそこで
お茶をしようとしていただけのようだ。




















どこの世界も下っ端は大変だな

ベンおじさんが
気の毒そうな目を軍人に向けた。





……が。


紛らわしいし
気の毒ではあるけれど、
だからと言って
見逃してくれるわけではない。









さあPRO-10、ラボにお戻りなさい

そんな諸々の間に

ティータイムを
堪能したのであろう王女は

カップを置き、
にこやかな笑みを向けた。


























どうする?

ロザンナで強行突破できなくはない。

でも

ガタがきているロザンナでは
その後の山道で
追いつかれてしまうだろう。


くっ……どうしたら……

諦めるな!
まだ勝算はある!!


こういうとき少年漫画だと
主人公補正がかかって

一発逆転のキーカードを
引いたりするものだ。

相手プレイヤーに
ダイレクトアタックとか

場のモンスターを
一掃するとか

自分の攻撃力が
倍になる装備とか





なにか、


なにか……


やっと追いついたぞ!!


頭を悩ませていると、
四天王最弱と呼ばれた男が
駆け込んできた。

ちっ! こんな時に!

まさか増援が来るとは。

あたしはまだまだ
主人公の器ではないと
いうことなのだろうか……って

そうじゃない。






あの枕の直撃を受けて
こんなに早く目が覚めるなんて
さすが四天王!

と褒めるべきだろう。

ふっふっふ。
技術者は日頃から不摂生な生活を送っているから、慢性的な寝不足で睡眠が浅いのだ!!

それ自慢するとこじゃない

大きな口を叩いていられるのも今のうち!
こんどはこちらのターンだ!!


リオルは持っていた棒状のなにかを
振りかざした。

そ、それは――!!


奴が手にしていたのは
あたしが途中で落とした箒だった。

来る途中で拾った!
どうせお前の珍発明なんだろう!?


どうやらジーニーのトンデモ発明癖は
王都でも有名らしい。


と、言うことは。

くらえ! 箒アターック!!



爆発することも想定内らしい。

と言うか、投げるのも爆発するのも
箒本来の用途ではない。







わああああああああ

爆発の衝動で周囲の壁が崩れ
瓦礫が降り注ぐ。


真上で爆発を受けた軍人たちが
右往左往と逃げまどう光景は
さながら地獄絵図。









だが、これこそ好機!!

デュエル的に言えば
「場のモンスターを一掃」
するカードを引いたと同じこと。



今よ!
おじさん、ロザンナを出して!!

爆発の騒ぎに乗じて脱出だ!!
あたしって天才!!



























だが!!

無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァァァッ!!

そんなあたしたちの前に
王女が立ちはだかった。





な、なぜ!?


リオルが箒を爆発させることから
爆発の隙に逃げようとすることまで
想定内なのだろうか。



いやその前に
あの門の上から飛び降りてきたのか!?



おあいにくさま。
科学技術に通じている者にとって爆発など日常茶飯事。
今更驚くことでもないし、耐性がついているからちょっとやそっとじゃ怪我もしないのよ!

ちなみに靴底にバネを仕込むのは発明家として当然のことだわ

なんてこと……!




読みが甘かった。
頭脳労働者を甘く見てはいけない。























PRO-10


王女はジーニーに視線を向けた。

今ならまだ大目に見てあげます。
その小娘の無礼も見逃しましょう。
さあ、戻っていらっしゃい

……






ジーニーは黙って王女を見ていたが




やがて
あたしのほうに振り返った。























アリス。わざわざ来てもらっておいて悪いんだけど、諦めてくれるかい?

えっ


ジーニーは

あたしが聞きたくなかった言葉を
口にした。

しょうがないよ。最重要機密なんだ。
王都がそう簡単に手放すわけがない

最重要……機密?

そう。PRO-10は考え、動き、ものを食べる、まるで生き物みたいな機械。
王都で長年研究していた成果なんだ




どこか自慢げに聞こえるのは
彼も技術者の端くれだからだろうか。

でも


そんな、ものみたいに言わないで



あたしはまだ諦めていないのに。

どうしてあなたが
諦めてしまうの?

まだ完成していないんだ。
だから王都で、リオルたちの目が届くところにいなくちゃいけない



でも、それが嫌で
逃げ出したんじゃないの?

PRO-10の「PRO」はPrototype(プロトタイプ)の「PRO」、
そして抵抗を意味するProtestantの「PRO」。
……だからこんなに反発ばかりしてしまうのかな

ジーニー!





ああ。
ジーニーがずっと
ヘッドフォンをつけているのも
首に巻いているリングも


今となっては
全て彼を
無機質なものに見せる。






王都に来て
王女とリオルの会話を耳にして

少しずつ
少しずつ
心の中に溜まっていった疑念が
噴き出してくる。






10年食べ続けたらあんな体型になるかも

食べたり

飲んだり

笑ったり



ずっとずっとジーニーは
あたしと同じ人間だと





町にいた時はそんなこと














……疑いもしなかったのに。









じゅう。

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