あれ……。私どうなったんだっけ?

視界はノイズに覆われ、脳の中心は針でつつかれたように痛み、身体はコンクリートで固められたみたいに動かない。

確か、私はあの公園で……。

だめだ。

思い出そうとするほど、頭痛はひどくなる。

しかし、その頭痛に悲鳴をあげることもできない。喉が硬直してしまって、声帯が振動してくれない。

かといって歯を食いしばる力もない。

ただ、苦痛にさらされる。

その時、急に視界が開けた。

赤と白と黒と銀の世界。

なんとも形容しがたいが、何か神秘めいた、しかしそれでいてどこかシステマティックな情景。

いや、これは網膜が実際に捉えた情景ではない。

そういう物理的な反応ではない。

……心象世界、精神世界。

そういう類のものなのだと、私は直観的に理解した。

???

やっと会えたね!

不意に呼びかけられて振り向くとそこにいたのはどこの絵本から飛び出してきたのかと思うような黒いドレスを身に纏った少女だった。

紅原 瞳

えっと、あの……。

同じ紅い瞳をもつ少女の視線に射られて私はしどろもどろになる。

そして、やっと会えた、という言葉の意味を考える。

だが、記憶の中にこんな少女はいないし、こんな少女に出会う予定もなかった。

???

混乱させちゃったかな?
でも、ワタシ、瞳とずっと一緒にいたんだよ?

紅原 瞳

ずっと……一緒に?

???

そう。ずっと一緒だったよ。瞳が気付かなかっただけで。《自由七科》にあなたが参加し始めてからずっと。

《自由七科》のことを知っている?
けれど、こんな少女は七人の中にはいなかった。だから被験者ではないはずだ。

そもそも蓼科の話によれば、私とあとの二人――あの仲睦まじい夫婦以外の被験者は殺されたのだ。

ならば彼女は――。

ロジカ

こう言えば分かってくれるかな?

ロジカ

そう少女は言った。
その名は確かに私の知るところではあったけれど。
にわかには信じられなかった。

《自由七科》において設計されたプログラムの一つ。

論理学の名を冠す私の《力》。

紅原 瞳

あなたが、私の還元能力を司っているプログラムの本体なの?

ロジカ

ええ。ワタシが瞳の力、ロジカよ。

紅原 瞳

えっと、私はなぜ今あなたに出会っているのかな?その、突然というか文脈というか……。

ロジカ

決まっているじゃない。瞳がワタシを呼んだからよ。

紅原 瞳

私が……呼んだ?

ロジカ

ええ。助けて、と。

紅原 瞳

助けてくれるの……?

ロジカ

もちろんよ。だけれど条件があるわ。

紅原 瞳

じょ、条件!?あなたはワタシの力なんじゃないの?どうして条件があるの?

ロジカ

瞳、勘違いしないでほしいことがあるわ。
人は、いやこの世にある全ては何かを捨てて何かを得るのよ。人はそれを代償という。

紅原 瞳

代償……。

ロジカ

そう。そしてあなたが払うのは生命力の源泉たる――。

そのあとに続く言葉は、吸血鬼に出会った私におあつらえ向きのものだった。

いや、というか私がこの状況にあつらえられたというべきか。

ロジカ

血の代償よ。

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