鈴石茜

おお……ここが佐島くんのクラスの出し物か……

教室に暗幕が張られた暗い部屋。暗幕にはところどころ穴が開いていて、幕の外に取りつけられた光が淡く入りこんでくる。

照明用の色のついたビニールが張ってあるところもあって、そこはステンドグラスに日差しを通したような、鮮やかな色が浮かんでいる。

部屋の隅には手作りの雪洞が飾ってあったりして、どことなく夏祭りの雰囲気もある。

鈴石茜

すごい演出だな……

他のクラスのように何かを売っているわけでもないし、目を惹くようなものもないのに、居心地のよさを感じていつまでもいたくなる

佐島亮

そうでしょう

鈴石茜

佐島くん!?

佐島亮

頑張って計画立てて作ったんですから、じっくりみてください

佐島亮

因みに、プラネタリウムと名はついていますが、見た目の綺麗さを重視したため本物の夜空のような仕様にはなっていません

鈴石茜

なるほど

鈴石茜

でもほんと……きれいだよね

佐島亮

はい……

佐島亮

あ、因みにですね

鈴石茜

ん?

佐島亮

あれが、月です

鈴石茜

……そうなの?

佐島亮

という設定です

鈴石茜

確かに、きれいではあるけど月っぽさはないね

鈴石茜

うさぎの絵とか入れたりしなかったの?

佐島亮

そういう安っぽい真似はしないんです

鈴石茜

そういえば佐島くん、この前一緒に帰ったときも月がどうとか言っていたな……

鈴石茜

月が好きなの?

佐島亮

え?

鈴石茜

なんか、この前も月がどうのって言っていたし……

佐島亮

ああ……

佐島亮

その……

佐島亮

夏目漱石の……

鈴石茜

ああ、夏目漱石が「I love you」を「月がきれいですね」って訳したあれのこと?

鈴石茜

月がきれいですねっていう告白文句も結構定番になってきちゃっているよね

鈴石茜

この前も立ち読みした少女漫画に出てきてた

佐島亮

鈴石先輩って少女漫画も守備範囲なんですか

鈴石茜

パラパラめくるだけだよ

鈴石茜

さすがにああいうのは、甘すぎて……

鈴石茜

…………

鈴石茜

もしかして、佐島くんが月を気にしていたのって……

佐島亮

……僕なりには

佐島亮

その……

佐島亮

結構考えたつもりだったんですけど……

鈴石茜

え!?

佐島亮

その、僕が好きなラノベにも丁度そんなシーンがあって

佐島亮

実践、しようと思ったんですけど……

鈴石茜

…………

鈴石茜

結果、微妙な空気になっているじゃないか……!!

鈴石茜

つ、つまり佐島くんは、私に告白しようと、わざわざ月を用意して……

鈴石茜

…………え?

鈴石茜

こ、告白……?

佐島亮

どうするんですかこの微妙な空気!
鈴石先輩のせいですからね!

鈴石茜

そんなこと言われても……

佐島亮

あの……

佐島亮

一旦、ここを、抜け出しましょう

鈴石茜

うん!

私たちは幻想的な空間から逃げ出し、いつの間にか『いつもの場所』へ来ていた

佐島亮

…………

鈴石茜

…………

佐島亮

えっと

鈴石茜

……はい

なにこれ。なにこの緊張する空間。

佐島亮

まず、先日はその、すぐに答えを出せなくてすみません

鈴石茜

そ、そんなことは……別に……

佐島亮

あの、僕、いろいろと考えていまして

鈴石茜

え?

佐島亮

僕ってほら、結構適当に生きているじゃないですか

鈴石茜

ま、まあ……確かに

佐島亮

そこそこいい子のふりして適度に力を抜いて生きる……それが僕のモットーでした

鈴石茜

あまりよろしくないモットーだね……

佐島亮

でも、この半年とちょっと……僕は何故か割と真面目に生徒会の活動に顔を出していたんですよ

佐島亮

その理由が、不思議で……よく分からなくて

佐島亮

でも、原因は絶対鈴石先輩にあるんです

鈴石茜

私に……?

佐島亮

鈴石先輩は頑張り屋で、助けてなんて言いつつも自分で全部抱え込もうとする

鈴石茜

それは……まあ、私がただのろくて人より仕事ができないから……

佐島亮

そう思っても行動に移せる人はそんなに多くないですよ

佐島亮

で、そんな先輩がいるからどうにかしなきゃ、って思って、僕は動けたんだと思います

鈴石茜

…………

佐島亮

先輩が、僕を変えたんです

鈴石茜

……そんな、自覚はないけど

佐島亮

いいじゃないですか、事実です

鈴石茜

そう……なんだ

佐島亮

で、なんていうか、先輩と一緒になって頑張っているうちに、いつの間にか鈴石先輩を常に気にするようになっていて……

佐島亮

二次元の話で盛り上がったり、生徒会の話をする、そんななんてことない時間が僕にとっては楽しくて……

佐島亮

知らず知らずのうちに舞い上がっていました

鈴石茜

……そう、なの

佐島亮

僕は、現実はゲームに過ぎないとか思っていた時期もありました

佐島亮

二次元が充実していれば満足だったときもありました

佐島亮

今だって二次元の妹は最高です

鈴石茜

あ……うん

佐島亮

でも、それだけじゃダメで

佐島亮

ダメで……

佐島亮

だってそれは、現実逃避だから……

鈴石茜

…………

私も、同じことを考えたことがあった。

二次元は好きだ。でも、二次元ばかりを見ていたら何も始まらない。

現実を見る必要があるときだってある。

佐島亮

現実を見るべき時は……

佐島亮

今、です。

鈴石茜

ど、同意

佐島亮

言っておきますが僕はリア充に憧れたとかそういうのじゃありません

鈴石茜

私だって……

鈴石茜

そんな単純な、理由じゃない

佐島亮

知ってます

佐島亮

鈴石先輩の告白があまりにも真面目だったからこそ……僕は結構最後まで迷っちゃいました

佐島亮

だって僕、オタクですよ?

鈴石茜

私だって……オタクだよ

佐島亮

二次元に妹だって嫁だっていますし、絶対二次元を手放すつもりはありません

鈴石茜

私も、二次元にお金を使う癖は絶対なくならない

佐島亮

やっぱり二次元最高ですよね!

鈴石茜

うん、二次元最高!!

佐島亮

…………

鈴石茜

…………

そうじゃ、なくて

佐島亮

あのですね、つまり……

鈴石茜

はい……

佐島亮

僕は、鈴石先輩のことが好きです

鈴石茜

私も……

鈴石茜

私も、佐島くんのことが好き

佐島亮

一緒、ですね

鈴石茜

うん

緊張したり悩んだり、いろいろあった片思いだったけど……

見事、成就したみたい。

佐島亮

あれ? ってことは、もしかして僕たちリア充っていう生物になれるんですか?

鈴石茜

どうだろう。両方とも、二次元オタクだしね

佐島亮

それもそうです

嬉しいやら……ちょっと、恥ずかしいやら。

鈴石茜

あ、生徒会としてのクラス審査、まだ終わってないんだけど!!

佐島亮

ええっ もう三十分で文化祭終わっちゃうんですけど!?

伊納アスナ

心配は無用です、お二人方!

東海竜弥

……リア充。爆発しろ。

東海竜弥

って、亮がよく言ってた。

東海竜弥

爆発する?

鈴石茜

しないよ!

佐島亮

しません!

伊納アスナ

随分と息がぴったりなようで……

伊納アスナ

まあ、安心してください。お二人がいちゃいちゃしている間に仕事は終わらせておきましたから

鈴石茜

ええっ

伊納アスナ

だって、もうすぐくっつくとは分かっていましたからね

伊納アスナ

そしたらもう今日しかないと

佐島亮

分かってたって……

伊納アスナ

分かりやすいんですよ、お二人とも

鈴石茜

そうなのかなあ

何はともあれ……

鈴石茜

佐島くんと、両思いだ

伊納アスナ

ところで生徒会長殿

鈴石茜

ん?

伊納アスナ

受験勉強の方は、進んでいらっしゃいますか?

鈴石茜

…………

伊納アスナ

…………

次回

そろそろ現実をみる時間のようで。

最終回!!

鈴石茜

じゅ、受験勉強……

佐島亮

まあ、お楽しみに~

続く

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