教室に暗幕が張られた暗い部屋。暗幕にはところどころ穴が開いていて、幕の外に取りつけられた光が淡く入りこんでくる。
おお……ここが佐島くんのクラスの出し物か……
教室に暗幕が張られた暗い部屋。暗幕にはところどころ穴が開いていて、幕の外に取りつけられた光が淡く入りこんでくる。
照明用の色のついたビニールが張ってあるところもあって、そこはステンドグラスに日差しを通したような、鮮やかな色が浮かんでいる。
部屋の隅には手作りの雪洞が飾ってあったりして、どことなく夏祭りの雰囲気もある。
すごい演出だな……
他のクラスのように何かを売っているわけでもないし、目を惹くようなものもないのに、居心地のよさを感じていつまでもいたくなる
そうでしょう
佐島くん!?
頑張って計画立てて作ったんですから、じっくりみてください
因みに、プラネタリウムと名はついていますが、見た目の綺麗さを重視したため本物の夜空のような仕様にはなっていません
なるほど
でもほんと……きれいだよね
はい……
あ、因みにですね
ん?
あれが、月です
……そうなの?
という設定です
確かに、きれいではあるけど月っぽさはないね
うさぎの絵とか入れたりしなかったの?
そういう安っぽい真似はしないんです
そういえば佐島くん、この前一緒に帰ったときも月がどうとか言っていたな……
月が好きなの?
え?
なんか、この前も月がどうのって言っていたし……
ああ……
その……
夏目漱石の……
ああ、夏目漱石が「I love you」を「月がきれいですね」って訳したあれのこと?
月がきれいですねっていう告白文句も結構定番になってきちゃっているよね
この前も立ち読みした少女漫画に出てきてた
鈴石先輩って少女漫画も守備範囲なんですか
パラパラめくるだけだよ
さすがにああいうのは、甘すぎて……
…………
もしかして、佐島くんが月を気にしていたのって……
……僕なりには
その……
結構考えたつもりだったんですけど……
え!?
その、僕が好きなラノベにも丁度そんなシーンがあって
実践、しようと思ったんですけど……
…………
結果、微妙な空気になっているじゃないか……!!
つ、つまり佐島くんは、私に告白しようと、わざわざ月を用意して……
…………え?
こ、告白……?
どうするんですかこの微妙な空気!
鈴石先輩のせいですからね!
そんなこと言われても……
あの……
一旦、ここを、抜け出しましょう
うん!
私たちは幻想的な空間から逃げ出し、いつの間にか『いつもの場所』へ来ていた
…………
…………
えっと
……はい
なにこれ。なにこの緊張する空間。
まず、先日はその、すぐに答えを出せなくてすみません
そ、そんなことは……別に……
あの、僕、いろいろと考えていまして
え?
僕ってほら、結構適当に生きているじゃないですか
ま、まあ……確かに
そこそこいい子のふりして適度に力を抜いて生きる……それが僕のモットーでした
あまりよろしくないモットーだね……
でも、この半年とちょっと……僕は何故か割と真面目に生徒会の活動に顔を出していたんですよ
その理由が、不思議で……よく分からなくて
でも、原因は絶対鈴石先輩にあるんです
私に……?
鈴石先輩は頑張り屋で、助けてなんて言いつつも自分で全部抱え込もうとする
それは……まあ、私がただのろくて人より仕事ができないから……
そう思っても行動に移せる人はそんなに多くないですよ
で、そんな先輩がいるからどうにかしなきゃ、って思って、僕は動けたんだと思います
…………
先輩が、僕を変えたんです
……そんな、自覚はないけど
いいじゃないですか、事実です
そう……なんだ
で、なんていうか、先輩と一緒になって頑張っているうちに、いつの間にか鈴石先輩を常に気にするようになっていて……
二次元の話で盛り上がったり、生徒会の話をする、そんななんてことない時間が僕にとっては楽しくて……
知らず知らずのうちに舞い上がっていました
……そう、なの
僕は、現実はゲームに過ぎないとか思っていた時期もありました
二次元が充実していれば満足だったときもありました
今だって二次元の妹は最高です
あ……うん
でも、それだけじゃダメで
ダメで……
だってそれは、現実逃避だから……
…………
私も、同じことを考えたことがあった。
二次元は好きだ。でも、二次元ばかりを見ていたら何も始まらない。
現実を見る必要があるときだってある。
現実を見るべき時は……
今、です。
ど、同意
言っておきますが僕はリア充に憧れたとかそういうのじゃありません
私だって……
そんな単純な、理由じゃない
知ってます
鈴石先輩の告白があまりにも真面目だったからこそ……僕は結構最後まで迷っちゃいました
だって僕、オタクですよ?
私だって……オタクだよ
二次元に妹だって嫁だっていますし、絶対二次元を手放すつもりはありません
私も、二次元にお金を使う癖は絶対なくならない
やっぱり二次元最高ですよね!
うん、二次元最高!!
…………
…………
そうじゃ、なくて
あのですね、つまり……
はい……
僕は、鈴石先輩のことが好きです
私も……
私も、佐島くんのことが好き
一緒、ですね
うん
緊張したり悩んだり、いろいろあった片思いだったけど……
見事、成就したみたい。
あれ? ってことは、もしかして僕たちリア充っていう生物になれるんですか?
どうだろう。両方とも、二次元オタクだしね
それもそうです
嬉しいやら……ちょっと、恥ずかしいやら。
あ、生徒会としてのクラス審査、まだ終わってないんだけど!!
ええっ もう三十分で文化祭終わっちゃうんですけど!?
心配は無用です、お二人方!
……リア充。爆発しろ。
って、亮がよく言ってた。
爆発する?
しないよ!
しません!
随分と息がぴったりなようで……
まあ、安心してください。お二人がいちゃいちゃしている間に仕事は終わらせておきましたから
ええっ
だって、もうすぐくっつくとは分かっていましたからね
そしたらもう今日しかないと
分かってたって……
分かりやすいんですよ、お二人とも
そうなのかなあ
何はともあれ……
佐島くんと、両思いだ
ところで生徒会長殿
ん?
受験勉強の方は、進んでいらっしゃいますか?
…………
…………
次回
そろそろ現実をみる時間のようで。
最終回!!
じゅ、受験勉強……
まあ、お楽しみに~
続く