秋山君は、遠目からでも分かるくらいうろたえていた。
あたしは秋山君のこんな姿を見るのは初めてだ。
何で・・・あたしのこと好きじゃないの!!
えええ!!そんな突然に!!ちょ・・・ちょっと待ってよ・・・!
秋山君は、遠目からでも分かるくらいうろたえていた。
あたしは秋山君のこんな姿を見るのは初めてだ。
でも、あたしは秋山君に夏休み中ずっとヤキモキさせられたんだ!それを思えばこれくらいどうってことない!
普通、キスとかって仲良くなってからするもんじゃない・・・?
秋山君はあたしと仲良くしたくないの?
そ・・・そういうわけじゃなくて・・・
じゃ・・なんでしてくれないの?早くして!
もうあたしの「普通」はとっくに終わってるんだよ!
秋山君にもその責任の一端はあるの!!
あたしはもうヤケクソになって強引に秋山君に迫った。秋山君はしばらく困惑していたけれど、しばらくしてこう答えた・・・
でもそれ・・・
僕やっぱりイヤだ!!
えっ・・・そんな・・・
そんな・・・秋山君にフラれちゃった・・・また夏休みをやり直し・・・そんな・・・
イヤよ!イヤよ!イヤ!もう1回ループするなんて絶対イヤ!!
ループ?一体何を言ってるの??
今さら秋山君に頭おかしいと思われたところで、もう失うものは何もない!!そう思ったあたしは、秋山君に全てを打ち明けた!!
夏休みの終わりに秋山君に告白する度にフラれて時間が戻ってしまうこと・・・。毎回その理由が違うこと。今、3回目の8月31日を過ごしていること・・・
秋山君は、あたしの話を黙って聞いていた。
どうせ、イタい女の戯言と思って聞いてるんだろう・・・
へええ。そんなことがあったんだ・・・
フフフ、ムリしなくていいよ!かまってちゃんのイタい女の相手なんかしたくないって顔してるよ!
そんなことない!
えっ・・・
そんなことないよ!毎日隣で見てれば分かるよ!夏目さんが本当のこと言ってるって!!
夏期講習中ずっと不思議に思ってたんだ!何で夏目さん、いつも僕の行動を先読みしてるんだろうって
もしかして、心を読まれてるのかって実はちょっと心配だったんだ!
ループして夏期講習をやり直してるって分かれば納得できるよ!!
えっ・・・うそ・・・
秋山君が分かってくれた!あたしは、もうそれだけで心の底から湧いて出てくる喜びに全身が震えた!!
秋山君・・・ありがとう・・・
ちょ・・・待って・・・そんな泣かないでよ!
秋山君は、そう言ってあたしに笑いかけると、
あたしを抱き寄せて顔を近づけてきた!
じゃ僕は、今からループ脱出のための儀式をするよ!
でも、実は少し心配していることがあるんだ・・・
えっ、何・・・?
自然界の法則ってものは大抵バランスを取ろうとするものなんだ!ループを抜けたら・・・君がループして得をした時間だけ・・・もしかしたらそれ以上、何かしらの反動が来るかもしれない・・・。
秋山君は、真顔でそういった。
でも、そんなことはあたしにとって大したことではなかった!
ようやく好きな男の子にキスしてもらえるんだ!
そんなリスク気にしている場合じゃない!
ううん。大丈夫!いいよ!始めて!
分かった!じゃ、いくよ!!
あたしの唇に、はっきりと柔らかな感触が伝わった。
暖かく、すべてを受け入れてくれるような感触。
その瞬間、ふいに気が遠くなって・・・
あたしはまた意識を失った・・・。
どれくらい経ったのだろう・・・。すごく長い時間の気もするし・・・ほんの一瞬の気もする。
どこか近くを鳥の群れが飛んでいく音が聞こえてきた・・・。
ここは・・・どこだ・・・?
朝・・・?
気が付くと、あたしはどこか知らない部屋の中で寝ていた。横にはもう一つベッドが並んでいる。
ここは一体どこだろう・・・?
いや、その前に今日がいつなのか知る必要がある!
あたしは見慣れない部屋の壁に目をやった!
7月・・・うそでしょ!!
あたしは驚きのあまり思わず叫んでしまった!
秋山君とキスをした8月31日から1年近くの歳月が過ぎている!!
そんな・・・そんなバカな・・・あのカフェでキスをしてから、あたしは一体どこで何をしていたんだ?
あたしは必死に部屋を歩き回り、手鏡を見つけた!今、どんな顔をしているのだろう?
こ・・・これが私・・・
寝起きなので断定できないけど、パーマのかかった髪型や部屋にある化粧品から想像して・・・どうやらあたしはもう高校生ではないらしい・・・。
あたしは部屋を見渡してみた。よく見ると、見慣れた私物に交じって、明らかに男物の服や小物が散らばっている・・・。
あたしは誰かと同棲してるんだ!
一体誰と・・・?
ただいまー!沙織起きた?
現役で第一志望行けたからって、お前、いくらなんでも寝すぎだろ!!
去年の夏とはとても同一人物には見えねえな!
そういうと、秋山君はさわやかに笑った!
口調が変わったのはそれだけ親しくなったからだろう・・・。
そうか・・・あたしはすべてを理解した!
ループの先には思い描いた未来があったんだ!