翌日、2時間目の授業が自習のため桐子は教室を出ることにした。
 詩音は忍に勉強を教えるということで教室に残ることにした。桐子は自習になると雑音でいっぱいになる教室が苦手なので静かなところを探していた。
 忍とは昨日、教室に置きっぱなしになっていた鞄を取りに行くため戻って来たところ彼女が詩音と桐子を待っていた。
 だましてしまったことを改めて謝罪して、桐子と詩音も気にしてないよということでこの件はおしまいになった。

 桐子は図書室にしようかと迷ったが、図書室だとつい小説を読んでしまい勉強がおろそかになるためやめることにした。
 そして思いついたのが薄墨潤の自習室と呼ばれるこの豪華なステンドグラスがある部屋だ。

あー、許可取らないといけないかな。ここ

 入り口で少し顔を出して左右を見渡す。すると、自習室には先客がいた。薄墨潤ではない。女の子だ。

……!!

 目が合った。私も相手も驚いている。声を発せず、しばらく見つめ合う。

えーっと、どうしよう。あいさつ?

 桐子はどうしようか迷って固まっているまま。少し近づいてみたら、相手は少し体をビクッと体を震わせた。まるで小動物のようだ。

えーっと、ごきげんよう?

 相手を警戒させないように、少しずつ一歩ずつ近づく。
 相手は最初は少し驚いていたが、桐子が危ない人でなさそうということから警戒心を解いていた。
 桐子と相手は少しずつ距離を縮めたのはいいのだが……。

……

……

 一言もしゃべらずにずっと見つめ合っていた。何か話さないといけないなあと思っていたのだが、この沈黙が異常に居心地良い。

さーて、地獄の勉強会を……っと?

あ…

 薄墨潤が入ってきた。桐子はとっさに相手から離れて逃げようとしたのだが薄墨潤に腕をがしっと掴まれた。

すいませんでした、悪気はありません。出来心といいますか潤先輩の部屋に不法侵入して

 うっかりするとおしゃべりになる。それが自分の良い癖なのか悪い癖なのかわからないけれど。
 潤に勝手に入ったことをお詫びして頭を下げたのだが相手がなかなか腕を離してくれない。

きーちゃん、頭を上げなさい。怒ってないというよりうれしいよ

あ、はい

ここは私の自習室ってことになっているけれど君は真面目だし、許すよ。勝手に入ってもいいし、出てもよし

そうですか

 結局薄墨潤に引っ張られる形でさっきの女の子のところに戻った。
 彼女は桐子と同じ学年であり、クラスは隣であることがわかった。
 小牧 千夏(こまき ちか)、通称ちーちゃんはおとなしい子であり、人見知りである。

彼女はなんというか教室になじめないらしくてね。まあ、仲良くしてくれないか?

あー、そういうことでしたら

 千夏は頭をひょこっと下げて会釈した。無口なタイプである。さっき無言で見つめ合ったときは自分と同じくらいおとなしそうな子がいることに驚いていたからであるという。

さっきはごめんなさい。その、無言で見つめ合ってしまって

私も、挨拶とかすればいいかなと思ったんだけどなんとなく無言で見つめ合ってみたい気分だったからいいかな

 こうして少し仲が良くなったところで勉強会を始めた。そういえば、薄墨潤が地獄の勉強会と言っていたがスパルタなものだろうかと思ったらそうでもなかった。
 薄墨潤が図書室から借りた参考書を用いながらわからないことを解説してくれるという親切で丁寧なものだった。

あ、体育だ

 次の授業が体育であるため、千夏はお暇となった。
桐子と潤はお昼休みまで残って勉強をすることにした。

体育って、二人一組という何かしら過酷なものですよね

あー、彼女の場合、ジムで汗を流すと言っていたな

え、ここジムがあるのですか

 体育館は4階建てである。式に使われたのが、3階と4階、1階に筋トレや走るマシンなどがあるジムがあるという。桐子はまだ入学して間もないためまだ知らなかった。

元々は運動部のトレーニング用ってことだったが、最近はちーちゃんみたいに人見知りの子専用って感じになったのさ。まあ、体育に出なくてもジムで運動するなら、単位を認めようってことになっているのさ

へえー

 土日は一日中、平日は放課後限定であるが近所の人に貸し出している。設備がある程度とてもいいので、慕われている。

ところで、ちーちゃんについてどう思ったかい?

ちーちゃんですか?

 薄墨潤は人見知りと言ったのだが、どうやらその他にも何か事情があるらしい。
 千夏はクラスの人、特に世話好きな人に声をかけてもらっているらしいのだが一向に仲良くする気配がないという。
 必要最小限の会話をしているのだが、心を開かないらしい。

うーん。その、相手の子と相性が悪いとかそういう感じでもないのですか?

それだったらいいけどね……。ちーちゃん、仲良くする気がないというか友達を作る気がないらしいのよね

 ちーちゃん、千夏が自習室に現れたのは昨日の午前、さっそく旧校舎に迷い込んでいて自習室に立ち尽くしていたのを潤が見つけた。

初日からですか

まあ、最初から慣れない子がいるのは珍しくないけどね。どうも気になって

 そして潤はちーちゃんによく声をかける子に話を聞いて相談に乗ったりしてなんとか解決させようということなのだが……。

ただ、気になることが一つ。そのおせっかいの子がなんでそんなに逃げるのかと壁ドンしたことがあってね

いきなり壁ドンってすごいですね。パーソナルスペースを壊していくなんて何者なんだ

自分に関わるとよくない。不幸になるって

あの、おとなしくて小動物みたいな可愛い子がですか

 おせっかいはそれを聞いてもなんとしてもちーちゃんと仲良くしたいと思う気持ちが消えなかった。より燃え上がったらしい。
 なんというか禁止されると、余計にやりたくなるという性格だろうか。

 そしてそのおせっかいな人はさっそく自習実にやってきた。

会いに来たぞー、ちーちゃん!

 おせっかいさんはお弁当を持って大きく腕を広げて仲に入る。
 しかし、千夏は現在購買のパンを買いに行っていたため不在であった。潤も少し外に行ってくるといって不在だった。
 たまたま桐子と詩音と忍がいただけだった。

あら、可愛い子いるじゃん

 愛しのちーちゃんがいなくてがっかりしたが、すぐに切り替えて不気味な笑みを浮かべて近づく。手の動きが怪しくて恐ろしい。
 桐子たちはなんだか変な人が来たなあと後ずさった。

可愛いちーちゃん、登場

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