【37】真実の扉
今度は誰にも頼れない。
間違えるわけにはいかない。
朱梨……
大丈夫だ。まかせろ
ここで当てなきゃ
俺の美学が許さねぇってなもんだ!
ふふ。前にもそんなこと言ってたね
そっか?
憶えていない。
そんなクサい台詞を
何度も言っていたのだろうか。
だとしたらかなり恥ずかしい。
俺は杏子から目を逸らし、
絡まったコードを指さした。
まずこのコード。
解くなってことは、今のこの形が重要なわけだ。よな?
中央の薔薇を作っているのは青いコード。
だから青を選びたくなるけどちょっと待て
今回、薔薇は関係ない。
指示されているわけでもない。
そこだけ赤いコードがないから目立つけど。
重要なのはそれ以外の絡まってる部分。
見てると、もうひとつ文字が出てくるだろう?
コードの中に浮かび上がる文字。
色を表す2文字。
だからこれは、
俺は1本の鍵を取った。
赤だ!
赤い鍵を差し込んで回すと
鐘が鳴った――。
よっしゃ!!
鐘が鳴った。
待ち望んでいた鐘が。
これで、この扉の向こうは
真っ暗闇ではないはずだ。
化け物が唸り声をあげていることだって
ないはずだ。
さあ、行くぞ杏子!
俺はノブに手をかけた。
……
しかし、杏子は動こうとしない。
杏子?
あ、あたしは後で行くから
朱梨先に行って
杏子はその場に立ち止まったまま
両手を振る。
……
何言ってんだ?
ぼやっとしてっと、また行き先変わっちまうぞ?
あ、ええっと
不自然だ。ものすごく。
……
……
……
しばらく無言のままでいると
ふいに杏子は
顔をくしゃりと歪ませた。
だ、だってね……
時計のところにはひとりしか行けないんでしょ……?
……
時計の元に行けるのはひとりだけ。
たったひとり、生き残った者だけが時計の呪縛から逃れることができるのさ
そうだ。
あの言葉が真実なら。
行こう、うさぎちゃん
うさぎを連れて出ようとしたから
虎次郎の前に
闇(間違った道)が現れた
のだとしたら。
……こいつ、
だ、だからね、あたし、ここで待ってるから。
朱梨は先に行って助け呼んできて
俺を行かせるために
自分が犠牲になるつもりか?
待ってる、か……ら
……そんなこと!
ふっ……ざけんな!!
お前を踏み台にして俺だけ助かれってか!?
そんなの俺が許さねぇ!!
俺は杏子の手を掴んだ。
朱梨!?
俺だけ助かるとか
そんなのはもう嫌だ。
駄目だよ、ふたりじゃ行けない……っ!
ひとりだけ助かるなんて嫌だ。
俺は行くって言ったんだ!!
美登里を置いて出た時の罪悪感を
また繰り返すのは嫌だ。
わからずや!!
「偽善者」って
言いたけりゃ言え。
駄目だって!
虎次郎くんやうさぎちゃんの時のことを忘れたの!?
正しい答えは正しい道に
間違った答えは間違った道に
せっかく正しい答えを出したんだから……!
それでやり直させられるんだったら
俺は何回だって
同じことを繰り返してやる。
精霊の時計が
音(ね)を上げるまで。
なんとでも言えぇぇぇぇぇぇぇえっ!!
俺は杏子の手を掴んだまま
ノブを回した。