あの女は信じられるかどうか微妙ね

そう周防さんは切り出した。
七河さんに協力しろと要請された私達三人は私の部屋で相談をしていた。
内容は、信用できるかできないか。

完全に狂気に飲まれているわ
しかもそれを喜んでいる
普通じゃない精神状態よ

カンナ

言うまでもなく、狂っているよね……

でも私達はどうすることもできないよ?
一応は、味方なんだから

目的は同じ。
利害は一致している。
だから、腹の探りあいなんてしなくてもいい。
これは理屈的な考えだ。
だが、相手は本物の狂人。
理屈がそもそも成り立つがどうかが怪しい。

私は半分くらいは信じておくよ
自分勝手な人は自分のルールに従うものだと思うしね

一理あるわね
でもタガが外れているから
それすら何かの弾みで飛び出しかねない

カンナ

……結局は、ある程度の距離は置いといたほうがいいね

私はあの人を信じられる。
あの独特な言動といい、雰囲気といい。
きっと言う通りのことをする。
人間は自分に正直なほど自分自身には嘘をつかない。
一種のわがままとでも言おうか。
勝手を貫く手前、自分には素直に従うと思う。

あの人は愉しいといった。面白いといった。
逆を言えば、面白くないことにはしたくないはずだ。
私達を引き込んだ事も含めて面白いなら、私達を自ら裏切るのは面白くないことになる、ハズだ。
まぁ……もっと言えば、裏切る行為を面白いと思うようになれば、率先してやるという意味にもなる。
半々、と言ったところだ。
一ノ瀬さんの言うとおり、ある程度距離を置いておこうということで一致した。
裏切りを働いた時に備えて、準備もしておく。
私は念の為、彼女を占う。
周防さんは狩人と告げたので、私を守る。
一ノ瀬さんは死なないことを祈るしかない。
今夜は……それで行こう。
少なくても、それで分かることがあるから。

アスミ

黒ォキターーーー!

アスミ

おっしゃあッ!!
一匹目駆逐ゥッ!!
ざまあみやがれェ!

……まさかの出来事が起きた。
翌朝のことだった。

理不尽だぁ……

珊瑚

…………

馬鹿笑いをしながら七河さんが床を転がり回っている。昨日追放した太田原さんは狼だったらしい。
黒、と出ていたようだ。で、私は……。

最悪……本物なわけ……?

カンナ

はぁ……

私の占い結果は白。
つまり、狼じゃない。
七河さんは本物の霊能者だ。
今日カミングアウトしても、誰も対抗しない。
一頻り転げまわって爆笑を終えた彼女はどっかりとソファーに腰掛ける。
そして私の名乗り上げで、一人釣れた。
つまりは偽占い師。私は真占い師。
この二つで、対決になったのだ。
因みに偽占い師は、二木さんだった。
彼女は一ノ瀬さんを白といい、私は某クレイジーを白といった。
うん、白だったんですこの人。
これなら、私が吊られてまずい方向に行くのだが霊能COしているクレイジーに対抗がいない。
暫定白、どっちか偽とほかの人の目線ではなる。
どっちかを吊って審議を確かめるためにも、彼女には生きていてもらわないといけない。

アスミ

おっし、二木死ね

クレイジーは迷わず私に味方する。
ま、それは当然だろうけど。
他の人はまず霊能者を殺したいという顔をしているが……ここで霊能が出てこないとなると、及び腰になる。
占い師どっちかを審議しないといけないときに、死なれたら困るのだ。

珊瑚

なんであたし!?

このタイミングでは、二木さんしかいない。
昨晩狼に殺されたのは丹下さんだった。
あの人は狼じゃないと断言できる。
彼女に占われた一ノ瀬さんは、困ったように……二木さんに入れる。
彼女は白と言われた身だが、私は本物だと知っている。
メタではある。
でも不信されてもいいから私を信じてくれる。
それが純粋に嬉しい。

ミカ

一番信じらんないのはそこの女だけど
……でも、今追い出したら……

リン

客観的に考えて一番最初に占われるべき相手はそこのイカレ頭ではあるわ
昨日の言動からして異常だもの
昨日の理由は理解した
でも楽しんでいる神経が理解できない

どーでもいいです……
早く……終わらせてください……

私に味方する一ノ瀬さんを懐疑的視線で見る十文字さん。
四宮さんは七河さんを殺したいようだが……言うとおりなので困惑。
九重さんは投げ遣りに流れに任せてしまっている。

リン

一ノ瀬
二木に占われているのに、何故金島に賛同しているの?
あなた、白なんでしょう?

とうとう彼女に聞かれてしまう。
やはりこちらも不自然な動きだ。
確かに白だ、とみんなには説明してある。
一ノ瀬さんはそれらしい理由を言う。

カンナ

……道理の問題だよ
明らかに異常言動の人間を差し置いて、目立たないわたしを占う理由がしれないだけ……

カンナ

初日から笑って人殺す人間を……
十文字さんなら放置する……?

リン

するわけないでしょう

尤もなことだ。
一ノ瀬さんは要するに、自分なんかを占う理由がないのにも関わらず、適当な先を指定している二木さんを信じないと言っている。

カンナ

二択だもの……
五分五分で当たる確率なら、適当言っても的中すると思わない?

リン

…………

リン

了解したわ、一ノ瀬
私も金島に賛同するわ

十文字さんは冷静だった。
まずこのゲームでは言動を探る状態なのだ。
逸脱した事をしていればまず探るのは当然の道理。
なのに、何もしていない、怪しいと思うほうがおかしいのに、二木さんは一ノ瀬さんを占った。
それがおかしいと指摘されて、ああだこうだと言い訳をする二木さん。

ミカ

んー……
どっちを信じるか、ねぇ……

ミカ

正直言えばわたしも金島さんを信じたい
合理的行動をしているのは金島さんよね

ミカ

でも万が一ってことがねぇ……
グルってことない? 二人して

えっ、私このクレイジーと同チーム!?
この人と同列!? 黒幕扱い!?
やめてよそんな不名誉なこと!!

アスミ

まーそだねー
私ら手を組んで、本物の二木コロソーとしてるなら納得できるよねー?

珊瑚

そ、そうだよ!!
こいつらグルだ!!

アスミ

って偽物ちゃんが喚いてるけどね?

しかも面白がってつつき始めた!?
私は全力で首を振って否定する。
誰がこんなアクセル全開してる全力暴走機関車と!

アスミ

でもそしたらー
今夜死ぬのは四宮だよねぇ?
だって私ら疑ったんだよぉ?
ウザイのは殺すべきじゃなーい?

ミカ

っ!!

疑っても別にいい、でもそしたら死ぬのはお前だ。
そうやって逆に不安を煽ってる。
グレーに紛れる狼がグレーを殺すことは非合理。
それを分かっていない四宮さんに対するプレッシャー。そんなことしても意味がないのに。

ミカ

…………あんた
それわざとやってるでしょう?

アスミ

くははっ!!
どうだろうなぁ?

脅されて昂る四宮さん。
遊ばれているのを理解したようだ。
ケラケラ笑う七河さんを睨み付ける。

ミカ

ごめん、訂正するわ

投票先を、最初は二木さんだったのを、七河さんに入れ替えた。
ってことは……私を信じていないということに?

ミカ

金島さんを信じないんじゃない
わたしは、こいつが、気に入らない

アスミ

だろうな?
私もお前とはそりが合わないと思うよ

そういうことっすか……。
一日目にして、なんだか不穏な空気になってきている。
十文字さん、一ノ瀬さん、周防さん、私、七河さんが二木さんに入れている。
この時点で過半数は超えているので問題なかった。

…………

議論を放棄している九重さんは適当に入れていた。
話し合いには参加しないというスタイルのよう。
入れているのはなぜか四宮さんだった。

ミカ

九重、あんたねぇ……
まあ、いいか……

入れられても、怒らない懐の広さを見せた四宮さん。
七河さんに入れている。
これで一応は全員が投票したわけだ。
理屈的というか感情的なモノが大半な気がする。

はぁ……

カンナ

はぁ……

はぁ……

三人揃って大きなため息。
七河さんはスイッチ入ったのか再び大爆笑。
二木さんの必死の説得を笑い声でかき消すという外道行為までしている。

アスミ

あーっはっはは!!

珊瑚

いい加減黙ってろ!

リン

耳が痛くなってきた……

ソファーの上で引っ繰り返ってお腹を押さえて大笑い。
何がそんなに愉しいのか、本当にわからない。
そのまま、投票の時間が来た。
結局、笑い声が二木さんの悲しい嘆きをも飲み込んで、皆が解散するまで談話室に響き渡るのであった……。

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