【31】扉の選択 Ⅱ


























俺は鍵をひとつ選んだ。

剣持 朱梨

開けるぞ

小鳥遊 杏子

……うん











































扉の先は
応接間よりも狭い部屋だった。




ただ天井だけが高く、

燭台を大きくしたような
シャンデリアが吊るされている。







壁に飾られている剣や銃は
まだ使えるのだろうか。


何本もある剣の中から
キリオが分身と呼んでいた剣を
探してみたが
同じものは見つからなかった。










部屋の中央には
8人掛けの巨大なテーブル。

そのうちの3つの席には

ミカンのような白い花をつけた枝が
置かれている。



剣持 朱梨

当たった……のか?


あの化け物が
待ち構えていなかったのだから
正解、と言えるのだろうか。


あたりをうかがっても
獣の唸り声は聞こえない。
殺気も感じない。


小鳥遊 杏子

当たったみたいね! すごい!



素直に喜ぶ杏子に
なんとなく気が軽くなる。


そう言えば
もうずっと、眉をひそめた顔ばかり
していたように思う。



彼女も彼女なりに
辛いのを我慢していたのだろう。




小鳥遊 杏子

でもどうして緑にしようと思ったの?

剣持 朱梨

……それは、













置いてきてしまった
美登里さんへの贖罪

美登里さんを、

応接間を出る時の
「さらなる答え」だった美登里さんを
表す色



俺たち、7人の……









小鳥遊 杏子

……美登里さんが正しい道を見つけてくれたのね

剣持 朱梨

……

剣持 朱梨

こんな理由だって美登里さんに知られたら、勝手に殺すなって怒られちまうな

小鳥遊 杏子

……

小鳥遊 杏子

そうだね。これは黙っておかないとね


杏子は俺をなだめるように笑った。

















そうだよ。

美登里さんはまだ
死んだわけじゃないんだから。


今にも
「置いていかないでよ!」って
そこの扉を開けて、

偽善者



どこからともなく声がした。


あの声。
螺旋階段で俺たちを嗤った
あのノイズ交じりの声だ。


剣持 朱梨

誰だ!?



声のするほうを振り返った。
が、誰もいない。

王の間にようこそ、偽善者の皆さん。
仲間の屍の踏み心地は良かっただろ?



誰もいないのに声がする。

声だけだが、
小馬鹿にしている感じがする。





そして、なによりも

小鳥遊 杏子

仲間の……屍?



この見えない誰かは
聞き捨てならないことを言った。

























その単語は
俺たちが目を背けてきたもの。

現実ではない、と
そう言い聞かせ続けていたもの。

行方不明になっている
虎次郎や

キリオや

美登里の

消息を確定付けてしまうもの――。



























剣持 朱梨

姿を見せろ! 
なんのつもりだ! 俺たちをこんなところに閉じ込めやがって!

声は嗤(わら)う。

橘の花言葉は追憶って言うんだってさ。
過去ばっかり繰り返してるあんたたちにはお似合いだと思わない?


そして、
俺の問いを軽く無視してくれた。

で、過去に呑み込まれちゃった皆様には花を手向けておきました



面白がっている。
人が3人消えた今の事態を。



この声はいったい誰なのだろう。

なんの意図があって
俺たちを閉じ込めているのだろう。

あんな化け物をどうやって……


ねえ、うさぎちゃん。褒めてくれるよね

綺羅星 うさぎ

え?

唐突に名を呼ばれ
うさぎが目を点にする。






これでも一応はアイドルだ。

本人からすれば
見覚えのない相手でも
視聴者側は彼女を知っている。



名前を呼んだからといって
彼女の知り合いだとは言えない。



僕と一緒にここを出よう。
僕ならここから出してあげられる

綺羅星 うさぎ

あなたは……誰?



突然の救いの言葉に
うさぎの警戒が弱まった。


キリオの時と同じで
「自分を守ってくれる相手」
か、否かを
見定めようとしているみたいに。


やだなぁ、騎士の声を忘れちゃった?
お・ひ・め・さ・ま?

綺羅星 うさぎ

え、ええっと



ここで知らないと言って
相手の気分を害せば
助けてくれるという言葉を
撤回されるかもしれない。



そう考えでもしたのだろうか、
うさぎは曖昧に
言葉を濁した。







そんな彼女の様子に
声は嗤い続ける。

ところで、応接間にあった額縁に書いてあった文字、憶えてる?



それほどうさぎに
執着があるわけでもないのだろうか。

彼女の態度に反応するでもなく
声はあっさりと次の話題に移った。
















応接間の壁にかかっていた絵。

絵は本にも同じものが
載っているからわかるけれど、

正直、額縁のほうの文字の
一言一句までは憶えていない。


時計の元へ行こう。限りない輪廻の輪から逃れるために。
夜は明けるもの、昼は過ぎるもの。
いざ行かん姫の元へ。肩は並べずに。


そんな俺の頭の中を覗いたみたいに
声はあの文字を読み上げた。








そして、

いいことを教えてあげよう。時計の元に行けるのはひとりだけ。
肩を並べる必要なんてない。
たったひとり、生き残った者だけが時計の呪縛から逃れることができるのさ

剣持 朱梨

えっ!?




俺は耳を疑った。


たった……ひとり?

なんなんだ?
今度はバトルロワイヤルでも
やれって言うのか?





じゃあ頑張ってね

剣持 朱梨

あ、こら、待てっ!!




言いたいことだけ言うと
またしても
ブツン、と音声が途切れるように


声は
聞こえなくなってしまった。














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