つーちゃんに言われた通り、自販機の前にやってきた。


人が沢山いる……石川くんは絶対この野次馬の先だ。

雨宮 要

……ちっ。翔平先輩が見えない。



要くんが不機嫌そうに呟いたその瞬間

大ちゃん

ふざけてんじゃねぇぞ!!!!



聞こえてきた男性の叫び声に、誰だかすぐにわかってしまった。だって何度も何度も耳にしたことがある声だもん。

間宮 朱里

…大ちゃん…だ…



嫌な予感が当たってしまった。
どうして石川くんと大ちゃんが喧嘩なんかしてるの??


どうにかこの先に行けないかと悩んでいると、背後から

…あ、朱里ちゃん!!



と名前を呼ばれる。


振り向くと広大くんが、息を切らしてこちらに近づいて来た。慌てて走ってきたせいか額に汗が流れてる。

間宮 朱里

広大くん…

広大

大がキレてるっていう話聞いて、きたんだけど、朱里ちゃんも…っ?

間宮 朱里

そうなの!ねぇ…一体なにがあったの!?



頭の中がこんがらがってこの状況が理解できない。石川くんが大ちゃんと喧嘩するなんてらしくないよ。


雨宮 要

朱里先輩…落ち着いてください。彼困ってますよ……

間宮 朱里

お、落ち着いてられないよ!広大くんお願い!何か知ってたら教えて!!!



私をなだめる要くんにすら興奮状態で叫んで、広大くんにそう続けた。


彼は一瞬言葉を詰まらせて悩んだけれど、隠しようがないと思ったのか、ゆっくりと申し訳なさそうな声で話を始める。


広大

……昨日…石川が…

間宮 朱里

うん

広大

…華奈ちゃんと…その…

間宮 朱里

……華奈?と…?

広大

…身体の関係を持ったみたいで…えっと…華奈ちゃんが大に別れを告げたみたいなんだ。それであいつ逆上したみたい………





華奈と石川くんが??
昨日の相手は、華奈だったの?

どうして……。


私の師匠は、理由もなく人を傷付けるような人じゃない。ましてや、華奈が大ちゃんの彼女だということも知ってる……


雨宮 要

………


訳がわからない。だけど、私は今すぐ石川くんの元に行かなきゃ。

もう頭の中にそれしかなくて。群がる野次馬たちを見つめて、グッと拳を握り足を進めた。

広大

…あ、朱里ちゃん



要くんと広大くんに背中を向けて、文句を言われながらも女の子たちをかき分ける。


そこまでたくさんいるわけじゃなかったから、すぐに2人の姿を見つけられた。


正にちょうど、石川くんが口を拭っているところ。

石川翔平

…痛いな……



…口から血が出てる…もしかして殴られたの!?

大ちゃん

…人の女寝盗っといて涼しい顔してんじゃねぇよ。石川



座り込んでる石川くんの胸ぐらを大ちゃんが掴んだので

とめなきゃいけない!!

と脳が信号を出して駆け寄ろうとした刹那


石川 翔平

…なにが違うのかな……



石川くんが切なげに呟いたので、思わず足がすくんだ。


石川翔平

…君が朱里にしたことと…なにが違うの??




キッと睨みつけるようにそう放った彼に、私は思わず固まってしまっていた。



…私……?

大ちゃん

はぁ?

石川 翔平

朱里では満足できなかったから、君はあの娘に乗り換えた。君では満足できないからあの娘は俺に乗り換えた。一体なにが違うの?



周りがザワザワとざわつく。


予想もしてなかった言葉……
胸がキュウウと強く握られたみたいに痛い

大ちゃん

…なんなの。お前。朱里に頼まれたのか。

石川 翔平

…まさか。朱里は君みたいに、逆上したりしないよ。自分も悪いんだって、頑張ってる。君が俺を人の女を寝盗る男って思ってるみたいだし、その通りにしてあげただけ。

大ちゃん

本当のこと言われて腹立ったから、華奈と寝たのかよっ!!!




大ちゃんの怒鳴り声に怯むことなく石川くんは、口角を上げた。


石川 翔平

どうでもいいよ。自分の噂なんて

大ちゃん

…じゃあなんで

石川 翔平

……朱里が泣いた……



この場に響いた声は、まるで自分が辛い目にあったような悲しみを感じる。


石川 翔平

…3度も朱里を泣かしたことが…俺は許せない。



石川…くん…石川くん…


込み上げてくるものが瞳から流れるのに


時間はいらなかった。








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