美家 王子(びいえ おうじ)

(あーあ。
昨日は色々と考えちゃって
よく眠れなかったな……)

美家 王子(びいえ おうじ)

(秋生くんに彼女が
いたくらいでなんで
落ち込んでんだよ、俺)

美家 王子(びいえ おうじ)

はあ……。
これじゃあまるで
ホモじゃないか……

美家 妃(びいえ きさき)

お、王子……

美家 王子(びいえ おうじ)

母さん……?
すごく顔色悪いよ。
大丈夫?

美家 妃(びいえ きさき)

あなた……
ホモだったの?

美家 王子(びいえ おうじ)

えっ!!
なんで俺の心の声が
聞こえたの?!

美家 妃(びいえ きさき)

その心の声とやら、
思い切り口に出してたわよ

美家 王子(びいえ おうじ)

マジ?

美家 妃(びいえ きさき)

マジよ

美家 王子(びいえ おうじ)

俺、ヤバくない?

美家 妃(びいえ きさき)

相当ヤバイと思うわ。
ホモだし

美家 王子(びいえ おうじ)

うわー!
俺はホモじゃないよ!

美家 妃(びいえ きさき)

ごめんね。
母さんは腐女子だけど、
さすがに息子がホモだと引くわ

美家 王子(びいえ おうじ)

母さん腐女子だったの?!
この流れでさりげなく
暴露してきたね!

美家 妃(びいえ きさき)

あら知らなかったの?
オタクじゃなきゃ、
息子に王子や騎士なんて
名前つけないじゃない

美家 王子(びいえ おうじ)

オタクだからって
腐女子とは限らないでしょ!

美家 騎士(びいえ ないと)

二人で何の話を
してるんだ……

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、兄ちゃん

美家 騎士(びいえ ないと)

王子、藤吉さんが
玄関で待ってるぞ

美家 王子(びいえ おうじ)

もう藤吉さん
来てるの?

美家 妃(びいえ きさき)

藤吉さんって……
前に夕食を食べに来た
女の子?

美家 王子(びいえ おうじ)

そうだよ。
今日は一緒にショッキング……
じゃなくてショッピングへ
出掛ける約束してたんだ

美家 妃(びいえ きさき)

悪いけどそのダジャレ
面白くないわよ

美家 王子(びいえ おうじ)

ほっといてよ!
藤吉さんのが
うつっちゃったんだよ!

美家 妃(びいえ きさき)

そうだわ!
買い物に行くなら、
これ買ってきてくれない?

美家 王子(びいえ おうじ)

ん?
安売りのチラシ?

美家 王子(びいえ おうじ)

ごめんね、
電気屋さんなんかに
付き合わせちゃって

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

いいですよ。
お掃除ロボのルソバを
頼まれたんですよね?

美家 王子(びいえ おうじ)

うん。
今日は特売日なんだって。
まだ残ってるかな

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

ルソバがこんなに安く
売られるのって珍しいから
残ってるといいですね……

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、ここがロボット掃除機の
売り場みたいだけど……。
ルソバが見当たらないな

…………

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

そこのBL的においしそうな
美形の店員さんに
聞いてみたらどうですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

おいし……。
何言ってんの藤吉さん?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

すいませーん!

…………?

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、あの、
ルソバってもう
売り切れたんですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

えっと……

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

どうしたんですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

質問したら、
可愛く首をかしげ
られちゃったよ

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

確かに可愛い!
ギャップ萌えですね!

美家 王子(びいえ おうじ)

いや、可愛いって所は
今の話でそんなに
重要じゃないから

美家 王子(びいえ おうじ)

もしかしてあの人、
店員さんじゃないのかな?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

お店の制服も着てませんね。
すっごくオシャレです!

美家 王子(びいえ おうじ)

そもそも、
なんで店員さんだと
思ったの?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

だって商品の横に
ずっと立ってましたから

美家 王子(びいえ おうじ)

そ、そう……。
じゃあ、
店員さんを探そうか

きゅっ…

…………

美家 王子(びいえ おうじ)

ん……?
なんですか?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

BL王子の服の裾を
掴んでますね。
やっぱり可愛いっ

じっ…

…………

美家 王子(びいえ おうじ)

ずっと黙ってるけど、
どうしたんだろう?
何か困ってるのかな

いやー!
お客様は運がいい!

美家 王子(びいえ おうじ)

(いかにも電気屋の店員さん
って感じの人が来た!)

こちらは人間ではなく、
アンドロイドなんですよ

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

えーっ!

美家 王子(びいえ おうじ)

アンドロイド?!

学習機能搭載の
次世代型お掃除ロボット
なんです!

美家 王子(びいえ おうじ)

これもロボット型
掃除機なのか……。
ルソバとはえらい違うな

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

こんな目玉商品が、
どうして売れ残って
いるんですか?

人工知能が発達しすぎて、
自分が主人と認めたお客様にしか
ついて行きたくないみたいで
ずっとここから動かないんです

ごくり…

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

それで、BL王子を
気に入ってしまったんですね

…………

美家 王子(びいえ おうじ)

でも、さっきから何も
喋りませんけど……。
本当に俺を気に入ったんですか?

まだ会話の思考ルーチンが
満足に動作していないんです

でも、お客様が
ID登録をしてくだされば、
すぐに会話ができるように
なりますよ!

美家 王子(びいえ おうじ)

そう言われても、
こんな高い物を買えるほど
お金は持ってませんし

それは困ったなあ。
他のお客様がID登録を
しようとしても、
全部弾かれてしまって……

自分の意思で誰かに
ついて行こうとしたのは
初めてなんですよ

美家 王子(びいえ おうじ)

(うーん……。
母さんからロボット型
掃除機を頼まれてるしなあ)

美家 王子(びいえ おうじ)

これしかお金が無いんですが
割引してくれますか?

さすがにそれは……。
そんなに安くしたら、
お店が潰れちゃいますよ

美家 王子(びいえ おうじ)

え~……

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

私が買います

美家 王子(びいえ おうじ)

はい?
そんなお金あるの?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

父から預かっている、
このプラチナカードが
有るから大丈夫です!

美家 王子(びいえ おうじ)

うわっ!
まぶしい!!

お買い上げ
ありがとうございま~す!

美家 王子(びいえ おうじ)

ただいまー

美家 妃(びいえ きさき)

おかえりなさい。
ルソバは買えた?

美家 王子(びいえ おうじ)

ルソバの代わりに
アンドロイドを
買ってきた

美家 妃(びいえ きさき)

は?

…………

美家 妃(びいえ きさき)

あら、王子のお友達?

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、友達じゃなくて
これは……

はじめまして。
アンドロイド型
ロボット掃除機です

美家 王子(びいえ おうじ)

自分で喋った?!

美家 王子(びいえ おうじ)

(ここに来るまでに
ちょっと話しかけただけなのに
もう学習したのか……)

美家 妃(びいえ きさき)

は……?
そうじ……?

美家 妃(びいえ きさき)

総司(そうじ)くんって
名前なのね!
はじめまして

美家 王子(びいえ おうじ)

なんか人の名前っぽい!

総司(そうじ)

あっ。
床の隅にホコリが……

美家 妃(びいえ きさき)

ヤダ恥ずかしい。
最近お掃除をサボりがち
だったのよね

総司(そうじ)

掃除を開始します

美家 王子(びいえ おうじ)

身体から掃除機の
部品を出して
一瞬で組み立てた?!

総司(そうじ)

ウィイイン……

美家 妃(びいえ きさき)

最新型の掃除機ね。
音がとっても静かだわ

美家 王子(びいえ おうじ)

掃除機が掃除機を
使ってる光景って、
シュールだな……

美家 妃(びいえ きさき)

王子……。
総司くんって、
もしかして人間じゃないの?

美家 王子(びいえ おうじ)

だから、
アンドロイド型
ロボット掃除機だって

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

お掃除ロボットへの
皆さんの反応は、
いかがでした?

美家 王子(びいえ おうじ)

一晩で家になじんじゃったよ。
うちの家族の順応性の高さが
ちょっと怖い

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

それは良かったです。
学習機能を搭載してるって
言ってましたけど、
その辺はどうですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

説明書に書いてあったけど、
会話をすればするほど
思考ルーチンが発達して、
感情表現が豊かになるんだって

美家 王子(びいえ おうじ)

こっちの命令次第では、
穏やかな性格にも
クールな性格にもなるらしいんだ

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

へえ~!
じゃあ育て方によっては、
立派なBL要員になるんですね!

美家 王子(びいえ おうじ)

それは間違って育てたときの
パターンを言ってるのかな?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

あれ?
校門に美形オーラを放った
スタイルの良い男性が……

美家 王子(びいえ おうじ)

ん?

総司(そうじ)

ご主人様。
お迎えにあがりました

美家 王子(びいえ おうじ)

へっ?!
そ、総司さん!
どうしてここに!

総司(そうじ)

奥様から、
王子様の身の回りの世話を
するように命じられました

美家 王子(びいえ おうじ)

母さんが勝手に
執事キャラにしようと
してる?!

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

執事は悪くありませんけど、
秋生くんとキャラが被るから
敬語はやめませんか?

美家 王子(びいえ おうじ)

秋生くん……

総司(そうじ)

アキ?

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、なんでもないよ。
総司さんは家族なんだから、
敬語じゃなくていいよ。
名前も呼び捨てでいいから

総司(そうじ)

……了解。
これでいいか?

美家 王子(びいえ おうじ)

うん!

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

ご主人様がお風呂に入る時は
背中を流してくださいね

美家 王子(びいえ おうじ)

はい?

総司(そうじ)

了解

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

あと、寝る前には忘れずに
ご主人様にキスを
してください!

総司(そうじ)

了解

美家 王子(びいえ おうじ)

ちょっと藤吉さん!
変なこと教えないでよ!

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

不都合があるなら、
BL王子が教え直せば
いいじゃないですか

美家 王子(びいえ おうじ)

一回覚えたことを
教え直すなんて、
できるのかなぁ……

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

きっとできますよ!
どうか命令が上書き
されませんように!

美家 王子(びいえ おうじ)

藤吉さん。
本音と建前が
まぜこぜになってない?

総司(そうじ)

そろそろ帰ろう、王子。
お母さんが心配している

美家 王子(びいえ おうじ)

なんだか俺、
小学生みたいだな……

美家 妃(びいえ きさき)

ちょっと王子!

美家 王子(びいえ おうじ)

何?
血相変えて
どうしたの?

美家 妃(びいえ きさき)

せっかく半日かけて
執事キャラに仕上げたのに、
タメ口使ってるのは
どういうこと?!

美家 王子(びいえ おうじ)

総司さんの話か。
家族だから敬語じゃなくても
いいじゃん

美家 妃(びいえ きさき)

うう~っ!
私よりも王子の命令を
優先するなんて悔しいわね!

美家 王子(びいえ おうじ)

どっちを優先したとか
じゃなくて、命令が上書き
されただけじゃない?

美家 妃(びいえ きさき)

執事キャラに戻そうと思って
命令し直しても、
聞いてくれないのよ

美家 王子(びいえ おうじ)

そうなの?
説明書にはそんなこと
書いてなかったけどなぁ

総司(そうじ)

風呂掃除が終わったんだが

美家 妃(びいえ きさき)

あら、助かるわ。
ありがとう

総司(そうじ)

礼は不要だ。
これが俺の仕事だからな

美家 妃(びいえ きさき)

……ッッ?!

美家 王子(びいえ おうじ)

あのー、母さん?

美家 妃(びいえ きさき)

ワイルド、いい!
このままでいい!
むしろ、これがいい!

美家 王子(びいえ おうじ)

はいはい。
んじゃ、先に風呂入るからね

総司(そうじ)

俺も行こう

美家 王子(びいえ おうじ)

なんで?
ついて来なくても
大丈夫だよ

総司(そうじ)

安心しろ。
俺のボディは防水加工が
施されている

美家 王子(びいえ おうじ)

そういう事じゃなくて、
俺は一人でお風呂に
入りたいんだけど

総司(そうじ)

そんな訳にはいかない。
ご主人様の背中を流すのも、
俺の仕事だ

美家 王子(びいえ おうじ)

あちゃー……。
藤吉さんの命令が
インプットされてる

美家 妃(びいえ きさき)

いいじゃない。
せっかくだから
背中を流してもらったら?

美家 王子(びいえ おうじ)

うーん……。
ま、いいけど……

美家 王子(びいえ おうじ)

ちょっ、そんなに強く
こすったら痛いよ!

総司(そうじ)

それはすまない。
これくらいか?


もにゅもにゅ…

美家 王子(びいえ おうじ)

う、うん。
でも、ちょっと
くすぐったいかな……

総司(そうじ)

くすぐったい?
これはどうだ?

美家 王子(びいえ おうじ)

あっ……。
気持ちいい……

かぷっ

総司(そうじ)

気持ちいいか?

美家 王子(びいえ おうじ)

ひゃっ!
なんで耳噛んだの!?

総司(そうじ)

オプションだ

美家 王子(びいえ おうじ)

そんなオプションは
いらない!

総司(そうじ)

そうか……。
じゃあ、背中が終わったから
次は前だな

美家 王子(びいえ おうじ)

……はい?

総司(そうじ)

ここは気持ちいいか?
痛くないか?

美家 王子(びいえ おうじ)

ふあっ!

美家 王子(びいえ おうじ)

そこは自分でやるから
洗わなくていい!

総司(そうじ)

どうして?

美家 王子(びいえ おうじ)

どうしても!

総司(そうじ)

……王子はあまり、
そこを人に触らせたことが
無いんだな

美家 王子(びいえ おうじ)

別にいいだろ!
ほっといてくれよ!

総司(そうじ)

人に触られるのに、
少し慣れておいた方が
いいぞ……

びくびくっ

美家 王子(びいえ おうじ)

あっ……!
ダメだって、
ホントに……!!

美家 王子(びいえ おうじ)

はあ……。
お風呂に入っただけなのに
ものすごく疲れた……

総司(そうじ)

俺もそこで眠っていいか?

美家 王子(びいえ おうじ)

アンドロイドなのに
ベッドで眠るの?

総司(そうじ)

横になって目を閉じた方が、
充電の効率がいい

美家 王子(びいえ おうじ)

本当だ。
説明書にもそう書いてある

美家 王子(びいえ おうじ)

へえ……。
人間が熟睡するのと
同じような状態になるのか

美家 王子(びいえ おうじ)

でも……さすがに
アンドロイドだから、
夢は見ないよね?

総司(そうじ)

……ユメ?

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、知らないか。
今日は眠いから、
また今度教えるよ

総司(そうじ)

そうか。
じゃあ、先に入ってるぞ

美家 王子(びいえ おうじ)

待って。
俺のベッドじゃ狭いから、
布団敷くよ

総司(そうじ)

王子と眠りたい。
……駄目か?

美家 王子(びいえ おうじ)

……ッッ!

美家 王子(びいえ おうじ)

そ、そんなすがるような
目で言われたら
断れないだろ

総司(そうじ)

じゃあ、王子も入れ

美家 王子(びいえ おうじ)

なんで俺が命令されてるの?
まあ、いいけど

総司(そうじ)

王子……

美家 王子(びいえ おうじ)

ん?

総司(そうじ)

チュッ!

美家 王子(びいえ おうじ)

……んっ?!

美家 王子(びいえ おうじ)

今、キスした?

総司(そうじ)

ああ。した

美家 王子(びいえ おうじ)

アンドロイドなのに、
唇が柔らかいんだね……

総司(そうじ)

俺のボディは高性能な
人工皮膚で覆われている

美家 王子(びいえ おうじ)

へえ……すごい……

美家 王子(びいえ おうじ)

じゃなくって!
キスはしなくていいの!
キスはっっ!

総司(そうじ)

寝る前のキスは、
俺の仕事じゃないのか?

美家 王子(びいえ おうじ)

藤吉さんの言ったこと
真に受けちゃダメーッ!

総司(そうじ)

王子は細かいことに
うるさいな

美家 王子(びいえ おうじ)

うっ。
アンドロイドに
細かいって言われた

美家 王子(びいえ おうじ)

(そういえば秋生くんにも、
電気消した後に
キスされたっけ……)

総司(そうじ)

王子……

美家 王子(びいえ おうじ)

な、なに?
離してよ

総司(そうじ)

王子が寂しそうな顔を
しなくなるまで、
こうしている

美家 王子(びいえ おうじ)

寝るまでずっと
抱きしめてる気?

総司(そうじ)

いいや、朝まで抱きしめる

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、朝までこのまま?

総司(そうじ)

駄目か?

美家 王子(びいえ おうじ)

別にいいけど……

総司(そうじ)

良かった

美家 王子(びいえ おうじ)

……アンドロイドも、
体温あるんだね

総司(そうじ)

俺は人の生活に溶け込めるように
限りなく人間に近く
作られている

美家 王子(びいえ おうじ)

そうなんだ……。
温かくて、
落ち着く……

うとうと…

美家 王子(びいえ おうじ)

眠くなってきたな……

総司(そうじ)

いいぞ、このまま寝ても

うとうと…

美家 王子(びいえ おうじ)

う……ん……。
ありが……と……

美家 王子(びいえ おうじ)

……すぅ

総司(そうじ)

おやすみ、王子

第22話 アンドロイドは恋の夢を見るか? - 前編

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