え?何だって?

急におかしなことを言い出す兄に、僕は訝しげな表情をしながら聞き返した。すると兄は、一瞬目を背け、こめかみの辺りに指をついて繰り返した。

今、私たちがいるこの世界が、永遠に繰り返されてるとしたら…君はどうするって、聞いたんだ

兄さんがそんなこと聞くなんて…何かあったの?

………昨日、話されただろう?

……黙示録?

そう

完全無欠な兄が、こんなに不安そうにすることなど、今まで無かった。他でもないあの方から言われたことを、ひどく気にしているのだろう。人間が生まれてからというもの、彼はどこかおかしい。

私はね、黙示録なんて起こして欲しくないんだ。お優しいあの方が、すべての父であるあの方が、すべてのものから恐れられる未来なんて…想像したくもない

…でも、絶対に起こるものでもないって言ってただろう?それに、どうして黙示録がそんな話につながるんだ?

…………夢を見たんだ

夢?

ああ、夢だ。私が悪魔の王となり、あの方や君と戦う…世界が真っ白になって、また、こうして同じ日常が繰り返される夢…

兄さんが悪魔の王に…?笑えない冗談だね

本当だ…ましてや、あの方と戦うなんて…罰当たりもいいところだ

神様モンペな兄さんがあの方にたてつくなんてことは、これから先も有り得ないだろう。全く、不愉快な夢を見た。と頬を膨らませている兄が面白くて、思わず吹き出してしまいそうになる。

それで、だ。もし、黙示録が起きて、世界が繰り返されることになったら…君ならどうする?

僕はどうもしないかな

どうもしない、とは?

黙示録が起きたら、僕らの記憶はすべて消えるんでしょ?なら、僕は何も知らずに生きるだけ。それが、あの方の願いだとしたら、尚更ね

……そうか

ごく小さな声でいうと、おもむろに立ち上がり、僕の頭をくしゃりと撫でた。

うわ!やめてよ、崩れちゃうから!!

君はそれでいい

へ?

もしもの時は、どうか一思いにやって欲しい。私も、後悔だけはしたくないんだ…もう、二度とね

もしもって…

それじゃ、このあと用事あるから。午後も頑張るんだよ

あ…う、うん…

そう言って立ち去る兄の背に、僕は悪魔の幻覚を見た。それは、大きな骨格だけの翼と、禍々しい獣の角を持ち、美しい銀の髪を靡かせていた。

ルシフェル、兄さん…?

その姿が、何故か兄の姿と重なって、僕は名前を呟いたーー。

ーー世界は繰り返すのさ。そう。何度だって。
だって、そうだろう?変化のなくなった世界を残し続けたって…何も面白くないじゃないか。

ある日の兄弟の会話

facebook twitter
pagetop