私は我に帰る。ここは……いつもの部屋だ。
そうか、新しいゲームに望んだのだった。
今は……四週目。
私に声をかけてきたのは、十文字さんだった。
前回のゲームでは殺してしまったあの人。
へあぁっ!?
すんませんっ!?
大丈夫?
何か呆然としていたけれど……?
私は我に帰る。ここは……いつもの部屋だ。
そうか、新しいゲームに望んだのだった。
今は……四週目。
私に声をかけてきたのは、十文字さんだった。
前回のゲームでは殺してしまったあの人。
す、すいませんでした!
えっ!?
何で謝られるの!?
私が反射的に謝ると、十文字さんは吃驚していた。
しまった、つい……。
……落ち着いて、ね?
そんな私に声をかけたのは一ノ瀬さんだった。
あれ、一ノ瀬さんがまだ……いる。
ってことは……前回は負けてしまった……?
……
……
言いたいことはわかるけど、取り敢えず気にしないで、というアイコンタクト。
分かっている。
前回死んだのは私のせいじゃないし、彼女は先に死んでいたから私が最期まで生きていたかも知らないはずだ。
気まずくなる必要はない。
呆然とするのも当たり前かもしれないわ
こんな状況だもの……ねぇ、九重さん?
周防さんもいる。私を見て微笑み、そして。
前回の黒幕に、話しかけていた。
九重雫という人が、みんなを殺した犯人。
それは。
…………
至って普通の女の子だった。
かなり憔悴しているが凶行に走るようには見えない。
にぃさん……
どうして、私だけが……
小声で本音が漏れていた。
ああ、兄弟がいるんだこの人。
追い詰められているのは分かる。
窮鼠猫を噛む状態に陥って殺しをしたのかもしれない。
余程彼女の方が大丈夫じゃなさそうだ。
……前回、私達を殺したのはあの人……
気を付けてね、金島さん……
音も無く近づいてきた一ノ瀬さんが小声で私に忠告する。
軽く頷いて、警戒の旨を伝える。
言われるまでもない。
油断しちゃダメだ。同情しちゃダメだ。
あの人は……危険なのだから。
こうして私達の四週目の人狼ゲームは幕を上げる。
ぐふっ!?
夜。私は……また襲撃されていた。
寝ているところを狼に襲われている。
冷静に考えられる余裕ぐらいは何度も死ねば嫌でも出来てくる。
私は今回、村人で一ノ瀬さんも村人。
周防さんはごめんなさいと言われてしまう。
周防さんだけは、狼だった。
こればかりは仕方ないと思う。
陣営が別れてしまえば、一ノ瀬さんのときと同じだ。
競い合うしかない。それがゲームだ。
そこは、一ノ瀬さんも分かってくれていた。
怨みっこなしで、私達は始めたのだが……。
死ね……
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
や……めて……っ!
ベッドの上に馬乗りにされて、首を絞められている。
その手を掴んで振り解こうと抵抗するけど、凄まじいチカラで締め付けられている。
この人は……例の危険な人だった。
狼陣営だったのか……。
…………
何かないかと周囲を探っていて気づく。
あぁ……周防さんも来ていたんだ。
あの人とチームなんだもんね、当然か。
でも、私が殺されそうになっていても、助けてはくれないよね。
だって、助ける理由がないし……。
私は私で抵抗するしかない。
はな……してェ……!
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
私は私で何とかするしかない。
でもどうにかなるとも思えない。
同年代の女子とは思えない程の怪力。
この人、一体どうなっているんだ。
こんな細腕でここまでの力を出せるなんて。
私は……また、ここで死ぬのかな……。
ぅぐっ……
駄目だ……既に力負けしている。
脳に酸素がいかなくなって、意識が朦朧として……。
恐らく火事場の馬鹿力とか言う奴だ。
追い詰められているから、肉体のリミッターが外れている。
ふふっ……
死ねばいいんだ……
全部死ねば……っ!
壊れたように笑う九重さんを見上げて、ふと思った。
この人だって必死になっている。
……分かるよ、やっぱり。
誰だって、ピンチになれば行動したほうが勝つんだ。
この人は脳みそがメーターを振り切って行動しているだけの話で、何にもおかしくなんてない。
いや……。
おかしくはなっているけど狂ってなんていない。
楽しんでるわけじゃない。
面白がっているわけじゃない。
死にたくないから、必死になっているだけだ。
そう考えてしまうと……ダメだ。
私には……これ以上抵抗することなんてできない。
あと一度だ。あと一度勝てばいい。
あと一度のチャンスがあればいい。
こんなことを考えているから、狙われるのに。
ここで狼に襲撃されている時点で、私には生きる道はない。
だったら、抵抗しないで……早く死んだほうが苦しまなくていい。
心まで悲鳴を上げる前に。
嫌になる前に諦めてしまおう。
…………
もう、いいや。
今回も諦めよう。
次があるんだから。
そう思っていたら……。
…………
怖い顔でこっちにきた周防さんは、馬乗りになっていた九重さんを突然、突き飛ばした。
いだっ!?
一々こんな手間の掛かる殺し方してんじゃないわよ
冷静に出来ないなら邪魔よバカ
聞いたことのないようなドスの効いた声でベッドから転がり落ちた九重さんに言う。
無駄が多い
時間かかりすぎ
手際も悪い
これで逃げられたりしたらわたしたちが負けるのよ?
それもわからないの?
無理して演技しているのだろうか。
激しく咳き込む私の胸ぐらをつかんで凄んでいるフリをしながら、彼女は告げる。
何もできない馬鹿は引っ込んでて
もういい、わたしがこいつを殺す
あんたは部屋に戻って
……すみません
ご好意に甘えさせてもらいます……
途端に狂気じみた雰囲気からしょぼくれた九重さんは、トボトボと部屋から出ていった。
念の為、施錠しにいく周防さん。
二人きりになると、戻ってくるやいきなり私を抱きしめてきた。
ごめんね、痛かった? 苦しかった?
本当にごめんなさい金島さん……
し、死ぬかと思った……
あぁ、やっぱり。優しいなぁ、周防さん。
敵になっても味方でいてくれるって言ってくれた。
本当に、味方でいてくれるんだね……。
今回は……敵に回っちゃったわね
……私も早めに戻るわ……
すぐ終わらせるから
さきに、戻っていてもらえる?
罪悪感を滲み出して周防さんは私に言う。
気にしているんだろうけど、それは違うよ周防さん。
うん、分かった
怨みっこなしってさっき言ったじゃん
遠慮なく殺して
敵になっても味方でしょ?
なら、いいからさ
私は周防さんの一回分の礎になる
私はまだあるんだ。
次でいい。
次が永遠とあるなら、延々と繰り返してやる。
果てがないのは、先延ばしの期限がない。
そういうことなんだ。私の得意分野だ。
気楽に行けば、いつかは終わる。
そして、私は既にリーチなんだ。
一度二度の失敗で周防さんを恨むほど馬鹿じゃない。
周防さんがいなければ、とっくに壊れていただろう。
それが分かっているなら、せめて恩返ししたい。
それが死ぬことならば……喜んで死のう。
もぅ……馬鹿ね、あなたは……
本当に優しすぎるんだから……
……周防さんは泣いてきた。
私の前で、静かに。
私は、気にしないのに。
そんな、自己犠牲ばかりして……
それじゃあ、抜け出せないよ?
大丈夫なの?
心配してくれる周防さん。
大丈夫。私は、決して逃げないから。
絶望しないから。何度死んでも、何度でも挑むよ。
それが、私っていう人間じゃないかな。
往生際が悪いってやつなのかも。
知ってる人の為だからね
どの道繰り返すんだもの
……これは犠牲じゃない
必要なことなんだよ
私、分かった気がするよ
ループしているここは地獄かもしれない
……でも、どんな地獄にでも救いはあるよ
私にとっての、周防さんみたいに
救いようがない、繰り返すデスゲーム。
でも、私達は互いに支え合っている。
それは、何物にも代え難い希望。
私は一緒に頑張るって言う約束を、守る。
救われているのは私も同じなんだよ
私の生命を周防さんの希望に変えて?
その手を赤く染めていても
私はあの場所で周防さんを待ってる
頑張って、周防さん
私を殺すことで、苦しまないで
今死んでも、心は生きている
私は気にしないって
痛いのは勘弁して欲しいけどね
朗らかに笑う私を見て、袖で涙を拭った周防さん。
呆れたような、救われたような。
そんな微妙な顔をしていた。
……はぁ
あなたを見ていると、感覚が麻痺しそう
あっちで好きなだけ私を罵倒して
今は、ごめんなさい
金島さんの好意に甘えさせてもらうね
そう言って、何時ぞやの拳銃を持ち出す周防さん。
苦しまない定番だよね、射殺。
今回もそれのようだ。
ば、罵倒なんてしないよー
私サドじゃないもん
どっちかって言うと、ドマゾっぽいわね
マゾじゃないよ……
ノーマルだよ……
冗談よ
軽口を言い合いながら、私は頭を傾ける。
またこめかみに銃口を当てる周防さん。
また初日で死亡かぁ……。
でも周防さんが勝てるならそれでいいかな。
さっき抱きしめたときに思ったんだけど
なに?
あなたって桃みたいな甘い匂いするね
はいぃっ!?
そんなニオイしてたの私!?
全然気づかなかったよ!
それはそれとして。
さて……じゃあ、退場しようか。
私は、ここでひと足早く。
次こそ、一緒に頑張ろうね
うん
あの場所で会おうね周防さん。
それまで今は、バイバイ。