【19】第5の試練:絵画の謎






































小鳥遊 杏子

ああ、キリオさんが言ってた薔薇よ。
綺麗ね


窓の下を眺める俺に杏子が笑う。


女ってもんはこんな状況下でも
花がキレイ、
なんて笑えるのだろうか。



ちょっと理解できない。

剣持 朱梨

あー、なんていうか、正直もう薔薇は見たくねぇわ


綺麗かもしれないが
嫌なことばかり思い出すから
黄色の薔薇にはうんざりだ。

むしろぺんぺん草のほうが和める。






精霊の姫とかのメルヘンも
もういらない。


「謎解き脱出ゲームがあるよ~」

って呼んでるところへ
自分から参加しに行ったのなら
文句も言わないけど、







でも違うんだ。



他のみんなはどうだか
知らないけど
俺はそんなものに参加するなんて
言った憶えはないし、

第一、推理も密室も俺は嫌いだ。






そんなことより
早くここを出て帰りたい。









剣持 朱梨

この窓ガラス割れねぇかな




葉を揺らす風も
満開の花も

ガラス越しでは
テレビの映像と変わらない。





風も匂いも
このまま一生感じることなど
ないんじゃないか、と

そんな
むなしい気分になるばかりだ。








俺は何故ここにいるのだろう。
何故、出られないのだろう。



ここにはいないキリオは
もしかしたら正しい道を見つけて
ひとりだけ
出て行ってしまったのでは?




なんて考えが首をもたげる。











同じように通ってきたはずなのに
どうしてキリオだけ。




俺やオッサンは
どこで道を違えてしまったのだろう。












剣持 朱梨

くそっ!



叩いても開かないことは
解っている。


けれど叩かずにはいられなかった。

















これがもし「どっきり」じゃなかったら。

本当にオカルト的な
なにかのせいで
閉じ込められているのだったら。





このままずっと閉じ込められて

このままずっと暗号を出されて

解けなかったら
どうにかなってしまうかもしれなくて




そんな中で

虎次郎が消え
キリオが消え


この先、
オッサンや杏子まで消えてしまったら。










このまま
俺ひとりだけ残ってしまったら。

























俺ひとりじゃ暗号なんて解けない。


レンガの謎を見つけたのは
うさぎだ。

その謎を解いたのはオッサンだ。

剥製が怪しいことを見つけたのは
杏子で

俺たちより先に暗号を見つけて
解いてしまったであろうキリオは
既にここにはいない。






俺は







剥製の謎で出した答えは
間違っていた。

迷路なんか、言われなきゃ
見つけることすらできなかった。




























このまま誰もいなくなったら。


記憶を取り上げられて

でも
取り上げられたことすら知らないで



同じ時間の中で同じ暗号を前に

何度も何度も
同じことを繰り返すことに
なるかもしれない。






そんなことって――













小鳥遊 杏子

ねぇ朱梨。ちょっといいかなぁ



そんな
どろどろに混ざり合った思いに
飲み込まれそうになっている俺の耳に
杏子の声が聞こえた。



見れば心配そうな顔で
本を1冊手にしている。

剣持 朱梨

なんだよ

小鳥遊 杏子

この本なんだけどね



例の本だ。

革製の表紙が
高級感を醸し出している。



金をかけていそうなのに
中身は意味不明な童話で
それも途中から白紙だとか
勿体ないことをする。






これも小道具さんが作った
「どっきり」の小道具だったら
どんなにいいだろう。

小道具だから
使わない部分は白いままなんだ、
って、そう思えたら


どんなに……



小鳥遊 杏子

ほら、キリオさんが途中から白紙だって言ってたでしょ?
それで見てみたら本当に白紙だったんだけど、

小道具だったら。

小鳥遊 杏子

……さっき見たら、新しいページがあるの

剣持 朱梨

え?


俺はひったくるようにして
本を開いた。




見返し、扉と続き、
その後から唐突に本文が始まっている。

目次はない。


その本文は
いくつかの話が
章立てられて置かれている。



主人公が飛ばした手紙を
精霊の姫が拾い上げる話。

7体の動物の騎士の話。

黄色の薔薇を持って
姫に会いに行く話。

騎士の中1匹の裏切りで
姫と仲違いする話。

悲しみに暮れた姫の呪いで
城に閉じ込められる話。


ここまでは、キリオが言っていた
粗筋のとおりだ。







そしてその後、










裏切ったその1匹が
他の騎士から制裁を受けて
亡くなる話。







仲間たちが次々と
姿を消していく話。












悲しんだ姫が
なにもなかった最初の頃に
戻りたいと願い、

それが新たな呪いを生んでいく話。











抜け出そうとするも
抜け出せないまま
城内を徘徊し続ける主人公の話。





剣持 朱梨

……



似ている。
今までここで見聞きして、
そして体験してきたことに。





剣持 朱梨

……

小鳥遊 杏子

……その先





俺は更にページをめくった。






そこにあったものは……

























剣持 朱梨

普通に静物画に見えるけど

小鳥遊 杏子

そのページ、最初はなかったの

剣持 朱梨

……

この本は途中から白紙だった。
そこに後からページが現れる。



後から、


俺たちになにかあるたびに……?









小鳥遊 杏子

それでね、この絵なんだけど

杏子は指をさした。

暖炉の右隣の壁に

同じ絵が額装されて飾られていた。



















剣持 朱梨

同じやつだな

剣持 朱梨

……いや、花の色がちょっと違う……?

小鳥遊 杏子

うん。これもなにか意味があるような気がしない?

剣持 朱梨

……




















まただ。
また、見つけるのは杏子。

















小鳥遊 杏子

それにね、見て、この額縁。
なにか文字が書いてある。


杏子は絵の一部を指差した。

剣持 朱梨

トケイノモトヘユコウカギリナイリンネ

剣持 朱梨

ノワカラノガレルタメニ

小鳥遊 杏子

ヨルハアケルモノヒルハスギ

小鳥遊 杏子

ルモノイザユカンヒメノモトヘカタハナラベズニ

剣持 朱梨

この矢印はなんだ?
それに文字の大きさもバラバラだ



いきなり現れたページといい,
怪しい文字の刻まれた額装の絵といい、

これでなにもないとは思えない。

■試練5

薔薇の花の色が違います。
それを踏まえて2枚の絵を見比べた時に導き出される答えは、何に関してのものでしょう。

A:精霊の姫の正体。



B:隠し通路の場所。


C:箱の開け方。



D:暗号を出した者の手がかり。

【19】第5の試練:絵画の謎

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